第一話① 願いを叶える為に…

『本日十三時頃、私立明星学園高等部一年女子生徒が投身自殺しました。ご遺族の方々は「あんなに優しくて明るい子だったのに、如何して……。」「相談してくれていれば、死んでしまうなんて事しなくて済んだかも知れないのに…。」と話していました。今年度に入ってまだ一ヶ月ですが、既に、およそ数十名の方々が自ら命を絶って……』

点けていたテレビを切り、ソファーの上に寝転んだ。

 僕は死にたい。


 事の発端は、僕が幼稚園生だった頃の話だ。

 昔の僕は病弱で、なかなか幼稚園に行けていなかったせいか、ずっと孤立していた。

 そして、何故だかは分からないが、勝手に『何をしても怒らない子』と云うレッテルを貼られてしまい、その日からいじめの標的になってしまった。

 初めていじめられたのは小学校に入学してすぐだった。

誰がいじめを始めたのか、詳しいことは覚えていないが、幼稚園が一緒だった人だったと云う事は、まず間違い無いだろう。

 別に最初から酷かったわけでは無い。唯、陰口を叩かれる程度だった。そんな程度のことも我慢できない僕ではなかった。

だが、事態は変化していき、どんどんエスカレートしていった。

雑菌と呼ばれたり、ランドセルに汚物をつけられたり、過激な暴言を吐かれたりする日が続いていた。

 それでも僕は我慢して、耐え抜いてきた。幼稚園でも、父さん、母さんにも「口答えしたらダメ。口答えしてしまったら、やってきた奴らと同じになってしまう」と理不尽なことを言われてきたから、当時の僕は、反論もせず、嵐が去るのを待つ植物の様に、じっと耐え続けて来た。

いつかは僕が報われるはずだ、いじめの主犯達は制裁を受けて、きっといじめはなくなる、と自分自身に言い聞かせて、来るはずもない幸せな未来を勝手に想像していた。

でも、そんな奇跡があるはずもなく、中学校に進学しても、いじめは無くなったりなんかしなかった。むしろ、さらに悪化していった。

 給食に配膳中、先生が席を外しているとき、僕のスープに虫の死骸を入れられたこともある。上履きなどの僕の私物を隠されるなんてのは日常茶飯事だった。

 そして、クラスメイトの私物がなくなると勝手に誰かが盗んだと云う話になり、根拠もないのに僕が犯人だと決めつけるのがいつもの流れだった。その挙げ句の果てには、騒ぎ出した本人のスクールバックの奥や机の奥から見つかるのがオチだ。

 そんな中、僕に中学生時代唯一の親友ができた。

僕がいじめられていても、それを気にせず話しかけて来てくれた唯一の人。

「このクラスにいる奴らの精神年齢ってみんな小学生みたいだな」

と言って、僕に明るく笑って話しかけてくれた。

クラスで孤立していた僕たちはすぐに意気投合して仲良くなった。

その友人は速水彰人はやみあきと。僕の生涯唯一の親友だ。


 ある日の体育の授業。その日は長距離走だった。いつも通り、僕と彰人は一緒に並んで走っていた。授業も中盤に入り、3kmを走り切ろうとした頃、ずっと黙って隣を走っていた彰人が開口一番に発したのは「俺さ、もう直ぐ、死ぬんだ」と云う言葉だった。

 僕は衝撃的すぎて声も出ず、その場で立ち止まってしまった。

 唯々目を見開いて彰人を見つめることしかできなかった。

そうして数秒経っただろうか、彰人は少し罰の悪そうな、悪戯めいた表情を見せ、「悪い、冗談だからそんな変な顔すんなよ」と困った様な顔をして笑って見せた。僕は頭の中をぐるぐるしていた感情が一気になくなった様な気がして、ホッとして「なんだ、嘘か。驚かすなよ」と少しおどけて言って見せた。その後は、しばらく他愛のない話をしてからまた無言で並んで走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る