自殺志願者の僕の最期の嘘。

こはる

プロローグ

 『遺書

 あなた方がこれを読んでいると云うことは、僕はもう、この世には居ないのでしょう。

 こんな親不孝者でごめんなさい。

 今まで貯めてきた貯金などはクローゼットの奥の箱に入れておきます。

 そんなには無いですが、僕の葬式、通夜代、父さんと母さんのこれからの生活費に充ててください。


 僕はずっと、全てを悔いてきました。

 生まれてきたこと。

 親孝行をして来なかったこと。

 親友を死なせてしまったこと。

 不登校になったこと。

 沢山、数えきれないほどの嘘をついて、周りを悲しませたこと。


 親不孝ものな上に、自らの手で命を絶ってしまう僕はきっと、地獄に落ちるでしょう。

 でも、そんな僕のことを許して欲しいです。

 今まで精一杯生きてきました。

 自分にできる限りの努力もしました。

 でも僕は、プレッシャーに打ち勝てる器も、最後まで戦い抜く強さも持ち合わせてなかった。

 つまりは唯の弱者なんです。

 責任からも、プレッシャーからも、生きることからでさえも逃げることしか出来ない。


 だから、僕は死にます。

 迷惑ばかりかけてしまってごめんなさい。

 最後に、一つだけ我儘を聞いて欲しいです。

 父さんも、母さんも、あまり早くにこっちに来ないで下さいね。

 来るとしても、せめて、天国にして下さい。

 それと、僕のことは忘れて幸せに生きてください。


 さようなら。』


 朝、いつもより早くに起きて遺書と題した手紙を書き上げてから、自分の部屋の整理整頓をする。

 クローゼットの奥には僕の貯金してきた全財産を入れた箱を入れて、布団は畳み、机の上にはさっき書いた簡易的な手紙だけを残しあとは全てしまう。

 そして、制服に着替え、スクールバックを持ち、いつもよりも早い時間に家を出る。そのまま歩き続けて三十分くらいで学校に着く。

 まだ、人がいないのか、校舎内も校庭も静まり返っていて少し不気味だと思った。


 僕は今日、この場所に死にに来た。

 自分の机に中身が入ってないバックを掛け、職員室に行って屋上の鍵を拝借して屋上に上がる。


 入った瞬間に目に入ったのは、唯ひたすらに青い空だった。

 学校に来ている途中では下を向いて歩いていたので全く気付かなかった。

 その透き通るような空色は、まるで、ラムネに入った青いガラス玉の様だと思った。

 僕が見る最後の景色であろうこの綺麗な空を目に焼き付け、靴を脱ぎ、フェンスの外側に立つ。

 最後に、目を瞑り、軽く息を吸って一歩先の空中へと身を投げた。

 耳元で風を切る音が聞こえた次の瞬間、鈍い打撲音が朝の静かな校舎に鳴り響いた。

 部活の朝練でもあるのだろうか。早朝なのにも関わらず、何人かの生徒や先生の耳を劈く様な悲鳴や「誰か救急車とAEDを!」と、指示する声が聞こえて来た。

 (あぁ、ようやく死ねるのか…。長かったな)

 僕は夢に落ちるのと同じ感覚の中、意識を失った。


『浅野中学校三年男子生徒 学校の屋上から投身自殺を図ったか 意識不明の重体』

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