風鈴の季節

牛本

風鈴の季節




 私は風鈴です。


 持ち主無き風鈴です。


 夏しか知らなかった私は、持ち主が居なくなったことで季節を知りました。


 秋を知りました。


 冬を知りました。


 春を知りました。


 私は秋が好きでした。

 初めて見る紅葉はとても美しいものでした。


 私は冬が好きでした。

 冬の、一面を覆う雪景色に目を奪われました。


 私は春が好きでした。

 雪解けも、桜も、桜の下で楽しげに笑う人も好ましかった。


 でも。


 それでも。


 私はやっぱり――夏が好きなのです。


 私の持ち主が、私の音を聴いて喜んでくれた夏が。


 あの人が喜んでくれたから、私は夏が好きなのです。


 季節は巡ります。


 また、夏がやって来ました。


 風鈴わたしの季節です。



 ――チリンチリン



「ねえ、パパ! 綺麗な音!」


「本当だ。へえ、こんな所に風鈴なんてあったんだ」


「ふうりん! 欲しい!」


「そうだね。じゃあ、帰りに買って帰ろうか」


「やったあ!」



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風鈴の季節 牛本 @zatu

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