第2話
学校につくと超神可愛天使ことジンちゃんは友達の元にぱたぱたと走っていってしまった。彼女はリア充なのだ。
一人ぽつんと昇降口に残された僕は、唯一のプロテクトである超神可愛天使ちゃんを失って、呆然とする。いつものことだ。よく、ジンちゃんは僕を一人にする。そうやって、僕が困っているところを遠くからちらちら見て、可愛いぃ〜♡ と内心喜んでるのだろう。
僕は超神可愛天使の一番のお気に入りだ。だから、やっかみを抱くものも多い。僕が人の目を見ることが苦手なことを逆手にとって、睨みつけてくるようなやつもいる。
限度を過ぎた場合、ジンちゃんから天罰が下るけど。
ジンちゃんは、人を殺めたりしない。ジンちゃんという特別がいるから、みな誰かを強く攻撃したりできない。彼女は弱いものいじめが大嫌いだ。成功している人の邪魔もしない。ただ、一番のお気に入りだからといって、僕を助けてくれることもないんだけど。
僕は内履きを履くと、よろよろとトイレに駆け込んだ。個室に入って、一回だけ吐く。バッグを抱きしめて、青い顔をする。人が恐い、人が恐い、人が恐い。
すると、個室ががたがたと揺れて、トイレブースの上の部分に人の手がかかるのが見えた。い、いじめか! 僕には超神可愛天使ちゃんがいるんだぞ! 恐いもの知らずか!
すると、個室の上の方から、ふわりと神々しい存在が舞い降りてきた。あ、ジンちゃんだ。さっきは女の子たちと楽しそうにお話ししていたのに。飽きてこちらに来たらしい。
ジンちゃんはにんまり笑って、そのきれいに整った幼い顔を僕の鼻先に近づけた。誰も、彼女が男子トイレに入ったことを注意しない。
だって、彼女がルールなのだ。彼女のすることに文句はつけられない。この世界で一番強いのだから。
「もう、トイレに逃げちゃうなんてずるいじゃん」
「だ、だって、人が多くて……」
「かわいそうに。対人恐怖症なんだ。たくさん見つめられて、いやな気持ちになっちゃったんだ」
ジンちゃんは僕のほっぺを両手で包み込んで、じっとその大きな瞳で僕の眼球を覗き込む。
彼女は吐息がかかる距離感で言った。
「どう? 恐い?」
「恐く、ない」
「どうして?」
「だって、ジンちゃんが僕を傷つけたことはないから」
彼女は僕の頬を押さえていた手を離して、僕の腰にぴったりと手をつける。
「でも、今度は傷つけるかもしれないよ?」
「どうしようもないよ、僕には。ジンちゃんだけが、絶対にどうしようもないんだ。だから僕は好意をそのまま受け入れるし、嫌われたらそれまでだよ」
「好きぃ〜♡」
ジンちゃんははぁはぁと吐息を僕の口に吐きかけて、その柔らかい唇を思いっきり押し付けてくる。息ができない。顔が熱くなる。苦しい。力が強い。思いっきり、エナジーを注ぎ込まれるような感覚。
彼女はキスを堪能すると、ぺろりと自分の舌で唇をなめて、にっこり笑った。
「げーしたんだ」
「……ごめんなさい」
「ううん、いいんだよ? これからも苦しくなったら、思いっきり吐き出しちゃっていいんだからね」
ジンちゃんは満足したように笑っていた。
超神可愛天使ちゃんに好かれた話 りんごかげき @ringokageki
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