202 枯野に眠る希望★
「なんてこった……」
ロランはバイクを停め、その場に立ち尽くした。
目の前に広がる光景に、彼の顔には失望の色が浮かんでいた。
{これは……}
彼らが期待していた美しい花々が咲き乱れる風景はなく、枯れた大地が広がっていた。
乾いた風が吹き荒れ、冷たく頬を撫でる。
白花の丘はかつての美しさを失い、寂しげに彼らを迎えた。
{……多くの植物は冬に枯れますものね……}
「これじゃあ、依頼を果たせるかどうか……」
{いくつかの花弁は残っています。これだけでは足りないかもしれませんが……}
エリクシルが町民衣装で姿を現し、落胆したロランを励まそうと優しい声で囁いた。
「……とりあえず採取の前に広域センサーを展開してくれ、ここは安全か?」
エリクシルは広域センサーを展開し、周囲の状況をスキャンした。
しばらくしてエリクシルが報告を始めた。
{周囲に異常はありません。それと調査隊の方は遺跡に到着したようですね}
「遺跡に何の用があるのか……。船まで足を運ばないことを祈るよ」
{そうですね。あっ! もうひとつ、白花の丘の北側にタロンの主がいますね}
「調査隊を見逃してくれたのはありがたいな」
ロランはバイクを降りてスタンドを立てると、大きく伸びをした。
「あるだけ回収するかぁ……」
ロランは残っているアラウン花を慎重に摘み取ったが、それでも十分な量には程遠い。
「これじゃあ、ニアさんに顔向けできないな……」
{……このアラウン花の葉はまだ緑ですね、それにこの枯れ方……}
その時エリクシルが何かを感じ取ったように目を輝かせた。
「ロラン・ローグ、ちょっと待ってください。スキャンをもう一度試みます」
エリクシルが再びスキャンを始めると、驚くべき事実が明らかになった。
{地面の中に、球根のようなものがありますよっ! }
ロランは驚いた表情でエリクシルを見つめた。
「それって、花弁と同じように使えるのか?」
{おそらくは。もしかするとそれ以上の効果があるかもしれません。花弁が触媒になるのなら、その養分が詰まった球根の方が効果が高い可能性があります}
「まじかよ!」
エリクシルは仮説を立てつつ説明した。
ロランは新たな希望を胸に、慎重にアラウン花の根を掘り起こし始める。
地面を掘り返すと、栄養豊富であろう肥えた球根が姿を現した。
「これか! 冬越えに備えてまるまる太ってやがる! これなら十分な量が確保できるはずだ」
ロランは球根を丁寧にバックパックに詰め込み、エリクシルは自信に満ちた表情を浮かべた。
{これで大丈夫です。ニアさんもきっと喜んでくれるでしょう}
「あぁ、これだけ集めれば足りるだろ。戻ろうか」
{おや、調査隊がタロンの悪魔の木の方へと戻っていきますね}
「コスタンさん! 上手くやってくれたんだな!」
ロランはAR上の赤い点が北上するのを確認し、満足げに頷いた。
安心感が彼の顔に広がり、肩の力が少し抜けた。
二人はバイクに戻り、来た道を引き返す。
エンジンの音が心地よく響き、風が顔を撫でると、緊張が徐々に解けていくのを感じた。
後部座席に座るエリクシルもまた穏やかな微笑みを浮かべ、ロランに身体を預け安心した様子を見せる。
バイユールの街近くの隠し場所で積み荷を降ろすと、ロランはパラコードを手繰り寄せて街道を進んだ。
「お、おっもいっ!! こりゃきっつい、今からでも解体してえくらいだ!」
{この近辺で解体するのは好ましくはないですね}
「ぐがああーーーっ! 強化服さえあれば! 」
ロランが憤っていると、一台の牛車がゆっくりと通りかかる。
《牛車……》
{{荷台が空いていそうですね}}
ふたりはふと相乗りの考えを思いついた。
「ちょっと待ってください!」
藁にも縋る思いで、ロランは牛車を引いている農民に声をかけた。
農民は牛車を止め、興味深そうにロランを見つめる。
「このリバーディーラをギルドまで運んでくれませんか!?」
「うわっ! 小川にいるトカゲだ! すごい大物! 冒険者さん、こいつをここまで運んだの? 随分大変なことしてるねぇ……」
農民は目を丸くしながらリバーディーラの死体を見つめた。
彼はこのような大物を間近で見るのは初めてのようで、その迫力に圧倒されていた。
農民はしばらく無言で死体を観察し、その後、興奮気味にロランに話しかけた。
「あぁ、ギルドまで運んでくれって? 構わないよ! こんなに大きなリバーディーラは初めて見る! それにしても、その槍で仕留めたのかい? すごいな!」
気の良い農民はロランが背中に背負っている槍を指さし、感嘆の声を上げた。
ロランは照れ笑いを浮かべると、自慢の槍を農民に見せた。
「え、持ってみてもいいのかい!?」
「もちろん!」
「……うっ! 重い! どんな農具よりも重いなぁっ! さすが冒険者!」
「へっへへ……」
農民は槍を返すとにこやかな表情を浮かべる。
「いろんな装備を持って運ぶのは確かに大変だろうな。俺に任せてくれ。いい土産話になる!」
農民はロランの頼みに応じることで、この稀有な体験を自慢話にできると考えたようだ。
その表情は期待と興奮に満ちていた。
ロランはお礼として20ルースを支払い、ギルドの解体作業場まで運んでもらうことをお願いした。
牛車には十分なスペースがないため、隣をゆっくりと歩いてついて行く。
{{ラッキーでしたね!}}
《あぁ、幸先いいぜ!》
無事にバイユールの関所に戻り、門兵に外出票を渡し再入場の手続きを済ませる。
「おかえりなさい。大物を仕留めましたね!」
「えへへ……ありがとうございます」
門兵が獲物に驚き、ロランは礼を述べ街中に戻る。
「さぁ、ついたよ。積み下ろしは自分でやってね」
「ありがとうございます!」
ロランはリバーディーラを引きずりながら、冒険者ギルドの隣にある解体作業場へと向かった。
解体作業場は重厚な石造りで、大きな木製の扉には魔物の骨が装飾され、一目でその用途がわかるようになっていた。
扉を開けると内側には鉄製の作業台や吊り下げられたフックが整然と並び、血生臭い匂いが漂う。
――――――――――――――
魔物の運搬。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093085756895824
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