201 変態ロラン
「えっ? 何? まだなんかあるのか?」
{調査隊が洞の木を離れ南の遺跡の方へ向かっていますね}
「おいおいおいおいそれって……」
後方の茂みからはガサガサとした音が近づいてくる。
「くっ……調査隊も気になるのに!」
{遺跡へと向かった理由はわかりませんが、船を目指しているとは考えにくいです。タロンの悪魔の木から遺跡まで、そして船までもそこそこの距離があります}
「コスタンさんならきっと上手くやってくれるはずだよな」
{はい、わたしはそう信じています。……とりあえず
ロランは両頬をパシパシと叩いて、
まずは迫りくる問題を解決するべきだ。
「一体だけなら倒すか。丘までついてこられても困る」
{強化服も無しに危険では?}
エリクシルの懸念も最もだが、ロランは不敵な笑みを浮かべた。
彼はバイクを停めると、バックパックからダインスレイブを取り出し組み立て始めた。
「使える物は何でも使う。前から試してみたかったんだ!
ロランはバイクの上で騎兵のように槍を構えて見せる。
{……バイクですけど、この際それはいいですね。背中の
「おぉ、珍しくノリ良いなエリクシル! ダインスレイブの穂先も
{ふっふ、剣で相手をするよりは危険も少ないはずです。ちょっと計算します……}
エリクシルの計算を待とうと、ロランがバイクの上でくつろごうとした瞬間。
{計算を終えました。チタン合金製のダインスレイブの石突きを強化合金でできたバイクフレームに固定すれば、理論上はユニコーンチャージが可能です。すれ違いざまの攻撃、威力は申し分ないはず}
「……だろっ!? 上手くいくと思ったんだ!」
{ふう、あなたの発想を
「はっは! エリクシルに言われても不思議と嫌じゃねえんだよなぁ。この場合は前向きに捉えるぜ、変態騎兵ロランっ! いっきまーす!」
{そうなんですか? どういうことでしょう……いえ、とにかく、やってみましょう。私もサポートします}
ロランは森を抜けて川沿いに出ると、助走のための距離を取った。
ダインスレイブを小脇に抱え、
キシャアァーー!
しばらくすると、
その姿はまるでコモドドラゴンのようで、鋭い目つきと牙をむき出しにしている。
「くっく……。さぁきたぞ!」
{適切な角度に構えてください。ARに表示します!}
「頼んだ!」
ロランのARに次々と情報が表示される。
槍の最適挿入角度は27度、バイクの推奨速度は時速60キロ、チャージの衝撃に備えるタイミング、ハンドル操作の補正。
ブロロォォォオン……!
ロランはエリクシルの指示通りに一気にバイクを加速させると、槍先を
エンジンの轟音と共に彼の心臓も高鳴る。
次第に近づく
風を切る音と共に、ロランは息を止めて突進の瞬間に集中した。
ロランはハンドルを操作し、槍の先端をしっかりと
「うぅぉおおおおっ!!」
背中に刻まれた
ズギャアアアァアァッ!!
バイクの運動量を載せた渾身の一撃は、とんでもない威力で魔物の甲殻を貫き、臓器にまで達する。
衝撃波が
「これがユニコーンチャージだ!」
バイクを停めた頃にはトカゲの串焼きのような姿で絶命していた。
ロランは汗を拭い、深い呼吸を整えながら達成感と安堵感に包まれた。
{成功です。お見事!!}
「ヒューー! すっげぇ! 投げるより全然強い!」
{恐ろしい威力でしたね……! あら、せっかくの服が}
「おぉっ……?」
アドレナリンで興奮しているせいか、返り血を受けたロランは顔を拭って初めて気が付く。
「げぇっ! 血生臭ぇ! せっかくの
{
「さっそくチニ、チニャなんとかにお世話にならないと……」
{チニャラの洗濯場}
「そう、それ!」
ロランは少し息を整えた後、槍を
「討伐証であるトサカだけ解体して持ち帰るってのも手だな。報奨金目当てにね」
{それも一つの方法ですが、この
「素材に、食える場所、も残ってはいるな……。かなりの大きさだぞ? ここで解体した方が荷物が少なくて済むんじゃ?」
{ええ。ただ、処理には時間と手間がかかりますね。解体は冒険者ギルドに併設された解体作業所に依頼するのが良いでしょう。}
「あぁ、そういえば、そんな施設もあったな。こういうのはプロに任せた方がいいか」
ロランはエリクシルの提案を受け入れ、
重さに驚くことなく、手際よく作業を続ける。
「よっこらしょ!」
{頑張ってくださーい!}
ロランは仕留めた
その下には血が幾分か溜まっている。
魔物の血は赤黒く地面を染め上げていた。
「魔石も良さげなのが回収できたな」
{ええ、
「水属性って感じ」
魔素の量は二つ名持ちと比べて少ないが、土よりも価値のある水属性だ。
値段次第では売却も検討しよう。
血抜きが終われば内臓を処理し、小川に死体を浸す。
肉を冷却して鮮度を保つのだ。
「ふぅー、これでよしっと。めちゃくちゃ重かったな」
{ええ、帰るころには処理も済んでいるはずです}
「問題はバイクを隠した後にどう運ぶか、だよな……」
{血と内臓を抜いて80キロ程度でしょうからね、担いで運ぶよりは引き
「強化服があればなんてことないのになぁ……」
{メンテナンス中ですから仕方ありません。ここは根性の見せどころですよ!}
「他人事だと思って……。まぁ、いい、今はアラウン花に集中しよう」
ロランは再び小川の道を走らせた。
彼らはセンサーを使いながら進み、魔物を回避していく。
道は険しいが美しい自然が広がり、心を癒してくれる。
鳥のさえずり、風の音、そして小川のせせらぎが彼らの耳に心地よく響いた。
しばらく進むと、彼らはついに白花の丘にたどり着いた。
「なんてこった……」
ロランはバイクを停め、その場に立ち尽くした。
目の前に広がる光景に、彼の顔には失望の色が浮かんでいた。
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