200 ニアの試練★


「その花びらの使い道は教えてやれないが必要なんだ」


《『タロンの原生林』の奥に生えてる白い花って……》

{{わたしも同じことを考えています!}}


「……まっ、君にはこなせないでしょ。わかったらとっととその青いケツしまって出ていきな!」

「ちょっと待ってください! ひょっとするとその白い花って……」


 ロランは羊皮紙を手に取ると、エリクシルのサポートを受けながら白花の丘に群生する花をスケッチしてみせた。


「……おいおい、君は、どういうことだよ! この花の在りかを知ってるのか? っというか上手いな!」


 ロランとエリクシルはあの咲き乱れる白い花が希少な素材だと知って、目の色を変えた。


《採り放題だろ! 売れば清廉の衣服も買えちゃうか!?》

{{ふふふっ、ひなを数えるのは卵がかえってから捕らぬ狸の皮算用ですよ}}


「……へへ、俺、その場所行ったことあるかもしれません。迂回する必要はありますけど」


 周りの職人たちも騒めき立つ。


「はぁ!? ……君、冒険者の等級はいくつ」

「昨日2に上がりました」


「無理だろ! 絶対死ぬって! やめとけっ! いや待て、たまに等級を上げない変態もいる! ……レベルは?」

「5です」


「はぁん!? 無理死ぬ! やめろ、バカッ! この依頼は忘れろっ!」

「えっ、でも……」

「でもじゃなーーーい!!」


 周りの職人たちも賑やかに声を上げた。


「おいおい、ニアさん、そいつ大丈夫か?」

「こいつ、ほんとに行く気かよ!?」

「死んだな……!」


{{タロンの主はきっと手を出さないはずです。ただ、『タロンの悪魔の木』の調査隊と鉢合わせにならないように注意は必要ですね}}

《あぁ、そのための迂回だ。これは依頼受注するだろ!》


「……私のせいで死なれたら寝覚めが悪いんだよ!」

「……安全な道があるんですよ!」


 ロランも負けじと引かない。

 エリクシルの助言を受けつつ、ニアの説得にかかる。


 ギルドではその花の採取難易度から受注制限を掛けられているだろうが、今回は直接のやりとりとなるため契約も制限もない。

 もし失敗して死んでもニアのせいにはならないし、発覚もしない。


{{依頼完了後はニアさん自身で依頼を取り下げてもらえば問題もないはずです}}


 そう伝えて依頼を受ける覚悟を見せると、ニアは頭を抱えて長いため息をついた。


「正気じゃないよ……。やっぱり変態だ……。でも、影の鱗蛇アンブラルスケイルの素材を譲り渡されるような冒険者でもある。そこにはなにか期待してしまうものがあるな。……よしっ! もし成功したら、タダで教えてやるよ!」

《あ、金は取る気だったのか……》

{{達成できると考えていなかったのでしょう}}

「……わかりました! すぐに取りにいきます! ではさっそく!」


「……待て! ……君、名前は?」

「あっ! ロランです!」


 ニアは大きく息をつくと腕を組んで見せる。


「変態のロラン、充分気を付けろよ……!」

「変態は余計です……。では、行ってきます!」


 周囲の職人たちも笑い声を上げた。


「頑張れよ、変態ロラン!」

「おいおい、無理するなよ!」


 変態ロランは気合を入れると、職人たちに見送られながら工房を後にした。


 *    *    *    *


 関所に到着すると、門兵たちが見張りに立っていた。

 彼らは甲冑を身にまといながらも、親しみやすい笑顔を浮かべて通行人を迎えている。

 ロランが関所に入ると、一人の門兵が穏やかな声で話しかけてきた。


「冒険者殿、何用でしょうか?」

「一時外出をしたくて」


 ロランは丁寧に礼をし、札を門兵に見せる。

 門兵は札を受け取り、にっこりと笑った。


「あぁ、特別な手続きはありませんが、札と記録を照らし合わせる必要があります」


 門兵はテーブル上の分厚い本をめくると、札の情報と照らし合わせた。


「よし、確認しました。これが外出票です。再入場時に必ず提出してください。もし紛失した場合は10ルース支払うことになるので気をつけてください」


 門兵は外出票をロランに手渡しながら、友好的な笑みを浮かべた。


「道中の無事を祈っています。気をつけて!」


 ロランは門を通り抜け、バイクの回収地点へと歩みを進める。

 大穀倉地帯を越えバイクを回収すると戦場跡を一気に駆け抜けた。


{この小川に沿って北上すれば原生林を迂回して白花の丘に着くはずです。噂をすれば移動中の複数の反応がありますね、ひとつはコスタンさんので間違いないです。無事に『タロンの悪魔の木』まで案内をできたようです}

「おおっ! それは良かった。……残りは調査隊とやらか?」

{おそらくは。かなり強い魔素反応を持っている集団ですね……!}


 ロランは驚きつつも頷き、バイクを走らせることに集中する。

 小川に沿って進むと、辺りは徐々に手つかずの自然が広がっていった。

 川のせせらぎが心地よく、木々の間から差し込む光が美しい景色を作り出している。


{前方に魔物がいるようですね……}


 悪路の中をバイクで走破すること10分、エリクシルのセンサーが反応した。

 道の先にトカゲのような魔物が進路を阻んでいる。

 トカゲは鋭い鳴き声を上げて威嚇し、彼らの行く手を阻もうとしていた。


「うわっ……」

{{これは格2の川渡蜥蜴リバーディーラですね。澄んだ沢や小川に生息するトカゲ型の魔物です。彼らの体長は約1メートルから1.5メートルで、青緑色の鱗に覆われています。縄張り意識が強いため、注意が必要です}

「さっそく図鑑が役に立ったな。あの一匹だけデカい奴は?」

{おそらく群れのリーダーでしょう。魔素の反応も強く格3はあるかもしれません}

「なるほど、とりあえず縄張りを避ければいいんだな」

{ええ、原生林に入ってやり過ごしましょうか}


 現在の装備で相手をするには数も多すぎる、倒せたとしても解体の手間を考えれば戦闘は避けるべきだろう。

 ロランはエリクシルの提案に同意し、バイクを森へと進めた。


 原生林の中は薄暗く、静寂が支配している。

 遠くで鳥のさえずりが聞こえるだけで、他の音はほとんど聞こえない。

 慎重に進むことで、トカゲの魔物をやり過ごすことができた、かと思えば。


{群れのリーダーが執拗に追いかけてきていますね……}

「えぇ……?」

{あっ……}

「えっ? 何? まだなんかあるのか?」

{調査隊が洞の木を離れ南の遺跡の方へ向かっていますね}

「おいおいおいおいそれって……」


――――――――――――――

リバーディーラ。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081898669675

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