155 エルムウィザード

 

 その後、明日に備えていつもより早めに休むことにした。

 明日はロランの秘策『フルバースト一斉射撃』のお披露目だ。


 *    *    *    *


 ――統一星暦996年9月20日 ダンジョン征服決行日

 ――『タロンの悪魔の木』 前


 一行はそれぞれの武器を手にし、意気揚々と集結した。

 LASRタイダルウェイブLAARヴォーテクスショットガンベルバリン 888が空に向かって輝きを放つ。


 各々の武器から発せられる光が交錯し、奇妙で美しい光のパターンを空中に描き出す。異世界の武器をまとった冒険者たちの姿は、周囲の自然や他の生命体とは一線を画し、異彩を放っている。


「それじゃぁ、ダンジョン征服といきましょうか!」


 ロランの鼓舞に応じて、一同は力強く「おお!」と雄叫びを上げた。

 彼らは団結の象徴として、空高く拳を突き上げ、勢い良くぶつけ合う。

 その輪の中にエリクシルも静かに、しかし確固たる意志を持って拳を加えた。


{わたしも全力を尽くしますっ!!}


 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』 地下3階層 ボス部屋前


 道中、コスタンは試射を兼ねて積極的に銃を使い、ロランも自身のLASRタイダルウェイブで試射を行う。射撃音対策のために、ロランとコスタンはイヤーマフを装備し、ラクモは耳を覆っていた。これらは轟音を完全に防ぐことはできなかったが、少しは音を和らげることができた。

 心配していたコスタンの機械音痴も発動せず、当初それを目の当たりにしていたエリクシルは大げさなくらいほっとしていた。


「結構な反動がありますが、ロランくんの言うようにであれば抑え込めそうですな」

「はい、この調子で慣れていけば連射もできるようになると思いますよ」

「うむ! しかし、剣とは使う筋肉が違うのでしょうな。変な所が、オチチチチ……」

「ふはっ、コスタンさんおじさんだなぁ」


 わきの下をモミモミしているコスタンの背中を優しくさするラクモ。

 そんなふたりの様子を笑いつつ、一行はついにボス部屋の前に到着した。

 これはコスタンにとって、ニレの魔法使いエルムウィザードとのリベンジマッチだ。


「不思議と不安や恐れはありませんな……」

「うん」

「そうですね」


 3人はエリクシルに温かな眼差しを向けた。

 エリクシルの存在が皆を勇気づけているのだ。


 彼女がいれば何とかなる、これまでの経験がそれを証明している。

 ロランのニレの魔法使いエルムウィザードに対する秘策もきっと功を奏するだろう。


 そう確信しながら、彼らは入り口をくぐった。


 *    *    *    *


 中央にいるのは、足元に力場でもあるかのような、不自然に浮遊する木。

 根に向かうほど幹は細くなり、立つには頼りない根。

 葉っぱは青々と生い茂り、枝からは刃のような鋭い蔓が垂れ下がっていた。

 高さは2メートル程、幅は40センチ。

 お馴染みの、目を瞑った老人のような顔がある木の幹、歩く樹トレントだ。


{これが例の……。本当に木の幹に顔がありますねっ! 魔法の詠唱をするということは、発話が可能なんですよね!? 意思の疎通はできないのか、気になります!}


 一同の宿敵とも呼べるボスを前にして、エリクシルはさっそく好奇心を爆発させる。


「おいおい、こいつは倒してしかるべきだろ。もし話せたとして、お茶でもするのかぁ?」


 ロランが半ば冗談交じりに言うと、一同が笑いをこぼす。


「ふはっ」

「ふむ、面白い冗談ですな!」

{もうっ、そんなこと言って! もし話せたらダンジョンについて教えてもらいますっ!}


 軽く冗談に乗ったエリクシルだったが、すぐに{ コホン}と咳払いをして真面目な顔になる。


{……では、短波パルスを展開し、弱点を探ります。分析したら戦術を展開しますね}

「おう、頼むぜ!」

「頼みますぞ!」

「お願いするよ」


 すぐさま腕輪型端末からパルスが発せられ、得られた情報をエリクシルが分析する。


{……ふんふん、なるほど。弱点という弱点は見つけられませんね、想定外です……}

「ええっ!? どうすんの?」


 焦るロランにエリクシルが待ったをかけ、小さくニレの魔法使いエルムウィザードのホログラムを表示させる。その顔面の奥には特に色の濃い小さな点のようなものが表示されている。


{貧相な根っこに生い茂る枝、それと特徴的なのは顔ですが……いずれもただの樹木と特徴が一致しており、特に重要な器官には思えません。生物でいうところの急所や動作の要……心臓部のようなところが見当たりません。……となると、狙うべきはココ、魔石ですね}

「魔石を直接打ち抜くのか!!」

「でもさ、場所ってわかるの?」

{はい。スキャンの結果、魔石の位置は特定できています。ホログラムで強調表示されているこの額の奥です。……ロラン・ローグ、あなたのARに表示します。恐らくLASRタイダルウェイブでなら問題なく貫通できると思います}

「まじかよ……。フルバースト一斉射撃いらねーじゃん……。魔石の位置は確かなんだよな? 結構的が小さいな……」

{1発で狙い撃つのは難しいでしょう。外してしまった場合も想定して、コスタンさんとラクモさんにバックアップに入ってもらいます。ロラン・ローグが再度照準を合わせる間、おふたりの銃を連射していただき時間を作ってもらいます。この場合、時間差ではありますがフルバースト一斉射撃となりますね}

「なるほど、いいな!」

「えぇ、私もそれで問題ありませんぞ」

「わかった。ロランが外したら撃つのね」


 ロランはコスタンとラクモに目配せする。

 その瞳には信頼の熱が帯びている。


「そんじゃ、ふたりとも、お願いします……!」


 ロランは静かに位置を取った。

 LASRタイダルウェイブのスコープが薄暗い部屋の中でぼんやりと光る。

 一同は息を潜め、この決定的瞬間のために静まり返っている。


「スゥーー……」


 ロランは冷静に呼吸を整えスコープを通じて標的のボスを狙うと、トリガーに指をかけた。

 それを確認したコスタンとラクモも銃を構え、狙いを付ける。


 ダッッッガッ――――ン!!

 破裂するような銃声がダンジョンの壁に反響する。

 轟音とともに放たれた50口径弾が空気を裂き、ニレの魔法使いエルムウィザードの眉間に狙いを定めて突き進む。弾丸は木の表面を粉砕するかのように貫通し、瞬く間に眉間を突き破った。


 ボスはビクリと身体を震わせ、一瞬で無数の木屑をまき散らしながら、そのまま地面に落下し倒れ込んだ。

 倒れる際に重厚な木の体が地面に打ちつけられる重低音が響き渡ると、戦場であったその場には一瞬の静寂が訪れた。


「……ウソ、まじかよ」

「おおっ!!」

「……一発!?」


 塵となるニレの魔法使いエルムウィザードを皆で見届けると、エリクシルが口を開いた。


{ロラン・ローグ、お見事です!}

「タイダルウェイヴすっげーな!」

「恐ろしい威力でした……」

「ロランの必殺技フルバースト、使わなかったね……」

「ま、弾節約できたならいいぜ……」


 ラクモは若干物足りなそうにしているが、無傷で圧勝できたことは喜ばしいことだ。

 コスタンも、「仇はロランくんが取ってくれた」と笑顔で褒め称え、特に気にする様子もない。


 ロランは初めからLASRタイダルウェイブを持ってくれば良かったと考えたが、この成果はエリクシルの能力なくしてはあり得なかったと思い直す。

 魔石を狙い撃ちするなど、本来であれば不可能だ。

 魔石を失えばどうなるのか見届けつつ、今後も急所への直接攻撃を活かさない手はないと思うのであった。


「エリクシル……ありがとう!!」


 皆で拳を軽く突き合わせる。

 この快勝は一同を勢いづけるものだ。しかし油断は大敵だ。

 一行は続く4階層の入り口を見つめると、改めて気合を入れ直す。


{ついに最下層なんですね……!}

「最下層であって欲しいですな。野外フィールド型は厄介ですから、気を抜けませんぞ」

「エリクシル、頼りにしてるぜ! ラクモも変な臭いがしたら教えてくれ」

「うん、頑張る」


 一行は覚悟を決めて侵入した。


 *    *    *    *


――――――――――――――

ニレの魔法使い。復習。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073494475850

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