156 地下4階層突入
一行は覚悟を決めて侵入した。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下4階層
タロンの原生林とはまた様相の異なる林の中。
天井からはまばらに光が差し込み、地面は柔らかく湿っており、足元には苔や小さな花が点在している。
周囲には自然が生い茂り、時折鮮やかな色彩の鳥たちが枝間を飛び交う。
鳥のさえずりや木々のざわめきが静かな空間に生命の音を響かせている。
{ここが
3人はエリクシルがちゃんと出現できたことに安堵の表情を浮かべた。
フィールド型では魔物の混成はもちろん、小部屋で魔物が悠長に待ってくれることはない。
サーチアンドデストロイ、索敵し撃破しなければならない。
そんな時にエリクシルのスキャン能力は、かなりのアドバンテージとなる。
{スキャンの半径は……およそ30メートルで制限がありますね}
「それだけ敵の接近を許すことになるな、それにこう木ばっかりじゃどう進むか……」
遠くを見渡せば、10メートルを超す木々が密集しているところもあれば、まばらな所もある。
ロランはラクモとコスタンに視線を移し、意見を求めた。
「……
ラクモはお手上げだというように両手をひらひらと振っている。
当然攻略済みであれば当然、地図が出回るという。
「手付かずのダンジョンは、まず探窟家が道を切り拓くと聞きます。木々、岩、水場などが自然のまま配置されているので野営をすることもありますな。必然と自然を生き抜く技術も求められますな」
{ふんふん、その自然の力が今回は敵ともなり得るわけですね}
「次の階層への目印とかないんですか?」
「建物が目印です。場所はフィールドの端や中央、ダンジョンによりけりですが……」
{建物……となると、ロラン・ローグ? あなたの得意分野かもしれませんね}
「そんなに得意ってわけでもねぇよ……」
謙遜しつつも、サバイバル経験のあるロランはさっそく提案する。
「んじゃぁ……木登りでもして、なにか建物らしい
ロランが後ろを振り返れば、3階層の壁が左右に広がり、壁に埋め込まれた漆黒の出口が目につく。
ここが
攻略が難航したら帰還も検討しなければならない。
周辺の地理は詳しくあるべきだ。
{ではお願いします}
ロランはバックパックからパラコードを取り出すと、一番近くの手頃なマホガニーのような高木に登り始めた。
コードを器用に使って15メートルほど登ると、視界が一気に開ける。
彼の視覚を通じてエリクシルも周囲を見渡すと、見渡す限りの密林、地平線や山が見えることもない。
密林らしからぬ起伏の乏しい不可思議な地形であるが、ひとつ気になるものを発見した。
{あれは、建物ですかね……。真っ黒ですが……}
エリクシルがARで強調表示、建造物の大きさも距離も不明ではあるが、
「よっと……。何かはわからねぇけど建物の方角と出口もマークしたし、迷うことはないな。あとはどう進むかだよな……」
地面に降り立ったロランは周囲を見渡すが、道らしい道は存在しない。
目的地が分かったとしても広大なフィールドには密林が待ち構えている。
「おそらく次の階層への扉がある建物でしょう。いずれにせよ、真っ直ぐ向かうことは困難です。密林へと分け入り、道を切り拓くほかありませんな。……しかし黒い建物ですか……」
コスタンは黒い建物が気になるようだ。
一般的には迷宮型の壁のように、そのバイオームにあった見た目となるらしいが。
最下層だとすれば多少見た目が違っても可笑しくはないだろう。
「道を切り拓くのは大丈夫。エリクシルさんが3日分の糧秣を持たせてくれたんだ。進んだ距離を見て、無理そうなら一度引き返そうか」
「いつのまに! さっすがエリクシルとラクモ! 準備がいいなぁ」
{ラクモさんからフィールド型のダンジョンについて教えていただきまして、長期戦を見込んでの判断です!}
「では、その計画でいけそうですな」
{この周囲には魔物はいないので、歩きましょうか。異変があればその都度声をかけますね!}
「待て、エリクシル。密林での陣形を練ろう」
{あぁ、そうですね。隊列は決めておいた方が良さそうです}
「ほぉ……隊列を」
関心した様子のコスタンに、ロランが声をかける。
「……コスタンさん、
「およ、いいのですか?」
「えぇ。エリクシルの索敵にいち早く反応できるのは俺なので……」
ARにマークが表示されるのはロランのみだ。
コスタンは静止している敵を撃つ分には問題ないが、敵が襲撃してくる可能性を考えれば、一番取り扱いに長けているロランが適任だろう。
「
「これもちょっと重いので俺が担ぎます」
「ふむ、ロランさんがそれでよいのなら……」
「ロラン、僕は?」
「ラクモは
ロランが盾と
大きな障害物を避けて通るが、ツタや低い植物は切って進んだ方が早い。
一同は隊列を組み、
* * * *
{エンゲージ! 目標をマークしました!
「視認した! 撃つぞっ!」
ロランが4体の
「……お見事ですな」
「僕の仕事がないよ……」
「エリクシルの自然が敵ってのがよくわかるぜ」
{この1時間の間に接敵が2回ですか……。これでは道を切り拓く方が大変ですね}
この2戦でわかったことだが、移動音に反応した魔物は真っ直ぐにこちらに突撃する傾向がある。
幸いエリクシルが検知し場所がマークされるため、足場の安全を確認してからでも余裕で迎撃ができるのだ。
始めこそ敵の襲撃に気を張っていたが、コスタンの言う厄介なフィールド型という印象はやや大げさにすら思えてしまう。
「私はとことん苦労しましたが、敵の場所と攻めてくる方向がわかってしまえば、どうということはありませんなぁ……」
「感知魔法を使える冒険者がいれば、こんなふうに楽なんだろうね」
「正直思っていたよりは……いや、これもエリクシルがいるお陰なんです。レベル上げておいて本当に良かったな」
「うむ、まことに」
{私の索敵のおかげで、皆さんの体力を温存できますからね!}
「冒険の負担は皆で分け合うべきです。この隊列も時間ごとに交代していくといいでしょう。これは現地の冒険者たちもよく行っている方法です」
「それなら、今度は僕が前を歩くよ」
「いろんな隊列を経験するのも大事だしな」
ロランは前を歩くラクモの肩に手を添える。
「ラクモ、タイユフェルを使うか?」
「いいの!? 貸して!」
タイユフェルをビュンビュン振り回しながら、笑顔のラクモが先陣を切って進む。
* * * *
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