観光
097 バザールで経済を学ぶ★
{さあ、先生、行きましょう!}
コスタンは商業ギルドを出ると、近くの青果店に足を運んだ。
店先にはシャイアル村でも見かけたような野菜や果物が並び、1皿2ルースで売られている。
季節や流通の状況によって価格は変動するらしい。
「これとこれとこれをお願いできますか? 少し値引きは……」
コスタンが手際よく値切り交渉を始めると、店主は渋い顔をしながらも折れた。
最終的に7ルースで十数個の果物を購入。
「これがアプリの実です。隊商が遅れているため、やや割高でしたが値切れたのでよしとしましょう。さあ、食べてみてください」
ロランはコスタンから手渡されたアプリの実を軽く磨き、ひと口かじった。
甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、自然と笑みがこぼれる。
《うまいな……! 本物のリンゴだ》
{{宇宙では加工品ばかりでしたから、新鮮な果物はやはり格別でしょうね}}
その後、コスタンは肉串の露店にも立ち寄った。
"オックス"という牛のような魔物の肉を使った串焼きは、香辛料と肉の旨みが絶妙だった。
これが1本3ルースとは、ロランにとって十分な価値があるように思える。
「昼ごはんにデザートまで食べたのに、まだ食べられるな。これも旨い……! この肉、シャイアル村では見たことがないですね」
「ポートポランではこういった珍しい食材が手に入りますからな。お口に合ったなら何よりです」
バザールを巡りながら、食材の価格や市場の情報をロランとエリクシルは整理した。
「バザールに関してはこれくらいにして、ほかに何か知りたいことはありますかな?」
「先生、村の収入って、どんな仕組みなんですか?」
ロランが質問すると、コスタンは立ち止まり、顎髭を軽く撫でながら考える仕草を見せた。
周囲では露店の賑わいが続き、行き交う人々のざわめきが耳に心地よく響いている。
「シャイアル村では作物や畜産加工品、毛織物を商人に売り、得た収益を村全体で分配しています。人頭税のような税金や有事の備えのため、一定額は貯蓄にも回していますよ」
ロランは人頭税の言葉に首をかしげ、少し考え込む。
「人頭税って全員が払うんですか? 働けない人にも?」
「もちろん――」
コスタンが答える間、ロランの脳裏には、老人や妊婦が税を納める光景がよぎる。
厳しすぎないか?という考えが浮かぶが、エリクシルが静かに補足を入れた。
{この世界の制度では、年齢や身体的な基準を超えると、収入に関わらず課税されるのです。ロラン・ローグ、私たちの世界でも似たような歴史がありましたよ}
「どの世界も通る道なのかもな……」
ロランは半ば呆れたように肩をすくめ、次にふと疑問を口にする。
「ってなると、俺はどうなるんだ?」
{漂流者であるあなたは戸籍が存在しないので、課税対象外だと思われますが……}
「確かに。けれど村に住むとなれば、いずれ税を納めることになるでしょうな」
コスタンが真剣な表情で答えると、ロランは軽く頷いた。
考えをまとめる間もなく、露店から漂う香ばしい匂いがまた彼の注意を引きつけた。
「……そういえば、今回の
「必要な費用は村の貯金から捻出しています。それから修繕を外注することはまずありませんな。基本的に村人総出で最低限の補修を行っていますし、チャリスさんが必要な金具や資材を加工してくれます。木や石なら村の近くで調達できますからね」
「自給自足ってやつですか……」
さらにエリクシルが静かにフォローを入れる。
{村全体が一つの組織として機能しているわけですね。外部への依頼は本当に困難な場合だけ、と}
「そうですな。その通りです。……そして村としては月に2,000ルースも貯蓄できれば充分な方です」
コスタンの声に力強さが感じられ、ロランは自然と背筋を伸ばした。
「……コスタンさんが鉱員として働いていた時や冒険者時代の収入はどうでしたか?」
「うむ、ちょうどそれについてお話ししようと思っていました。私は村を管理しながら副業で鉱員をしていたので、ひと月に400ルース程の稼ぎでした。息子は専業で800~1,000ルース程稼いでいましたな」
「それは前町長に絞られていて、ですよね?」
「そうですな。絞られなければいくらの稼ぎだったのか、想像もつきませんが……」
コスタンの声にわずかな苦味が混じる。
彼が顎髭を引っ張る仕草に、ロランはその苦い記憶の一端を感じ取った。
「……ここまで話せば冒険者の収入についても触れておきましょうか」
「ぜひっ!」{お願いします!}
ロランは目を輝かせ、エリクシルの声は興味に駆られている。
「こちらは一定の収入があるわけではなく、依頼の達成料やダンジョンで得た素材の売却益によって上下します。初心者を脱したばかりの私でも月に500~3,000ルースと、怪我をする直前には6,000ルース稼いだこともありましたな。収入にもだいぶ幅があったと記憶しております」
「それでも冒険者は命を懸けている分、それなりに高収入なんですね」
「ええ、もちろんその命を守るための武具の修理費や"ポーション"……水薬などの治療薬、万が一の備えとして高価な治癒のスクロール類などを補充する必要もあるので、出費も馬鹿になりませんが」
「なるほど……」
ロランは感心した表情を浮かべつつも、通信でエリクシルに語りかける。
《水薬ってポーションだよな!? 治癒のスクロールなんてもんもあるのか……すげぇ》
{ゲームのように一瞬で傷が治るわけではないと思いますが……どちらも調査をする必要がありそうですね}
《じゃぁ、次はスクロール屋に行きてえな!》
歩きながら話しているうちに、バザールの終わりに差し掛かる。
高い防壁が目の前に立ちはだかり、通り抜けられない行き止まりとなっていた。
「ではロランくん、今度は冒険者ギルド側のバザールにいきましょう」
「はい! コスタン先生! 次はスクロール屋に行きたいです!!」
「となると『サエルミナの魔法雑貨店』ですな!」
ロランはコスタンに元気よく返事を返し、足取りも軽く歩き始めた。
街の喧騒の中、エリクシルの声が微かに響く。
{サエルミナ、興味深いですね。ぜひ情報を集めましょう!}
――――――――――――――――
バザール。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212801909941
補足ノート:物価について
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212801909054
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