098 『サエルミナの魔法雑貨店』★
{サエルミナ、興味深いですね。ぜひ情報を集めましょう!}
十字路を超えて冒険者側のバザールに差し掛かったロラン一行。
こちらの通りは食料品の並ぶバザールの客層とは幾分か異なっていた。
旅人風の外套を身に包む者に、身の丈程の大きさの剣を背負う者、大きな盾と鎧で身を固めている者、ひと目でわかる、彼らは冒険者だろう。
通りを少し進んだ先に目的の店が見えてきた。
それはアンティークショップと見紛うような趣のある外観で、ロランの目には新鮮に映った。
「おお、あちらですね!」
{わあ……あの建物ですか! なんて素敵なんでしょう!}
エリクシルの声が弾む。
金属の支柱に揺れる看板には、金色の宝玉が描かれ、風に煽られて軽やかな音を立てていた。
店先には絨毯が敷かれ、大小さまざまな木箱が並ぶ。
その中には奇妙な道具や魔物の素材らしき物が無造作に置かれていた。
「見た目からして、ただの雑貨店じゃなさそうだな」
ロランがそうつぶやくと、エリクシルが{はやく中を見ましょう!}とせっつく。
彼は微笑みながら扉に手をかけた。
ガランガラン……
古めかしいベルの音が店内に響き渡る。
{{店内に多数の高濃度魔素反応が見られます}}
足を踏み入れた瞬間、ロランの視線は天井に吊るされた巨大な魔物の角や骨格標本に吸い寄せられた。
壁一面を埋め尽くす棚には、用途不明の雑貨がぎっしりと並び、床に積まれた本は背丈ほどもある。
絨毯がかろうじて店内の道筋を示しているが、それ以外のすべてが混沌に満ちていた。
{{店内に多数の高濃度魔素反応が見られます}}
エリクシルの通信にロランは小さく頷く。
この空間全体が、ただならぬ力を放っているようだった。
奥のカウンターには、髪を丁寧に整えた若い女が立っている。
片眼鏡を掛け直し、無言でロランたちを一瞥すると、再び目を伏せた。
その無表情さと、ヒューム族よりやや長く、エルフ族よりは短い耳が印象的だ。
「むっ……? 店主が変わったようですな。前はもっと老齢の方でしたが……」
「ごめんください、魔石が欲しくて」
ロランは周囲を見回しながら、一歩前に進んで声をかけた。
この雑然とした店内から目当ての魔石を探し出すのは、どう考えても至難の業だ。
「魔石ならそちらです。
カウンターに立つ女は、手元の本を音もなく閉じると、細い指で棚の方向を示した。
その透明感のある声には、不思議な冷たさと落ち着きが同居している。
ロランは彼女の指し示す棚に目を移す。
道中、魔術書やスクロールが並ぶ棚が目を引き、一瞬足を止めそうになるが、すぐに歩みを進めた。
「これか……」
たどり着いた棚には、所狭しと魔石が並べられていた。
上段には美しい輝きを放つ魔石が丁寧に並べられ、下段には粗石と呼ばれる無加工の原石が雑然と詰め込まれている。
火、氷、水、土、風、雷――それぞれの魔石は属性ごとに特徴的な模様や色合いを持ち、宝石のような輝きを放っている。
「ムルコさんに頼まれていたのは火と氷の魔石だったな」
{火の魔石はこれですね……ルビーのような赤い輝きが目を引きます}
「おお、これは氷の魔石ですな。霜のような模様が美しい……」
コスタンと一緒に魔石を手に取り、じっくりと見比べる。
どれも目を引くが、値札を見ると現実に引き戻された。
一番安いスライム系の魔石は40ルース。幽鬼や雷の魔石になると100ルースを超えている。
「雷の魔石って、放電みたいな模様があるんだな。どう使うんだろう?」
{電気的な特性を持つのかもしれませんね。ただ、用途は調査が必要です}
エリクシルの通信を聞きながら、ロランは所持金を確認する。
2,633ルース――すべてを買うのは無理だと、冷静に判断する。
{ロラン・ローグ、少しでも多くの魔石をスキャンしてデータを集めましょう!}
「おい、そんなことしたら目立つだろ! 店員に怪しまれる……」
ロランは周囲をちらりと見渡した。近くには店員が立ち、こちらの様子をうかがっている。
コスタンに耳打ちして、店員の気を逸らしてもらうよう頼んだ。
「ふむ、了解しましたぞ。ちょっと聞いてみたいことがあるので、私に任せなさい」
コスタンが店員に話しかけている間に、ロランは手早く魔石をスキャンした。
ピピピ、ピ、ピ、ピー――
短い電子音が静かに響く。
最後のスキャンが終わると、ふと腰元から音が聞こえた。
ペタ、ペタ、ペタリ
この音は――
「――プニョちゃんっ!?」
ロランは外套をめくり、腰からぶら下げた容器を確認する。
容器に両手を張り付け、まるで興味津々といった様子のプニョちゃん。
これだけ大量の魔素の反応があれば、静かにしていられないのだろう。
《エリクシル、この
棚の下段に置かれた木箱に無造作に詰まれた
値段は10ルースで1キロと書かれているが、安いかどうかは魔素の量次第だ。
{{燃料を抽出するのは困難かもしれませんが、プニョちゃんに与えるのなら問題はなさそうです。肝心の魔素量ですが、同じ重さの
「……プニョちゃん、安いやつで悪いけど、これで我慢してくれよな」
ロランは桶で粗石をすくい、横にかかっていた麻袋に詰め替えた。
袋代も1ルースかかるが仕方がない。
プニョちゃんは親指を立て、満足そうな反応を見せる。
次に、ムルコの頼んだ火の魔石と氷の魔石を5つずつ選んだ。
価格はそれぞれ50ルースと60ルース――合計550ルースもかかる。
「ムルコさん、意外とちゃっかりしてるな……」
エリクシルの助けを借り、魔素濃度が高い魔石を慎重に選ぶ。
{次は魔法のスクロールです! 早く見に行きましょう!}
「わかったわかった、そんなに急かすなよ」
ロランは魔石の袋をしっかりと手に抱え、コスタンの元へ向かうと、彼はラエノアと話し込んでいた。
「……それで、いつフィラに帰られるんですかな?」
「おばあさまの容態次第ですね。しばらくは無理かもしれません」
コスタンはロランに気づき、朗らかに彼の肩を叩いた。
「あぁ、こちらは私の弟子、ロランくんです。彼女は――」
「――ラエノアです。岩トロールを倒した若き冒険者さんですね。その齢でご立派です。今後とも当店をご贔屓に」
ラエノアの視線がロランに向けられる。
柔らかくも流れるような声の挨拶に、ロランは少し驚きつつも軽く会釈を返した
「ラエノアさんはフィラの支店で勤務していたのですが、ここの店主のおばあさまが体調を崩され代わりに来ているそうです」
「そうだったんですね。……お大事に」
ラエノアは一瞬だけ柔らかく微笑み、「ありがとうございます」と小声で応じた後、すぐに接客の態度に戻った。
「……他になにかお探しですか?」
『魔法のスクロール』を探しているんです」
「スクロールならそちらにございます。金庫にはより貴重なものもございますが」
ラエノアに案内され、スクロールの束が入った木樽や、ショーケースの中に並ぶ高価なスクロールが目に入った。
「これが魔法のスクロール……!」
――――――――――――――――
魔法雑貨店の店主。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212852180072
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます