ミエナイ、朱《あか》

花野井あす

ミエナイ、朱


 知らぬ何処かの、錆びれたへやの片隅で

 それは古い殻を脱ぎ捨てた

 

 何処に居るのだ

 何処に在るのだ

 

 来ないで、愛しいひと

 来ないで、優しいひと

 

 あれは危険なのだ

 あれは皮膚で貴女を溶かすのだ

 あれは毒針はりで貴女を犯すのだ

 

 嗚呼、見つからぬ、何も視えぬ 

 お願いだ、逃げておくれ哀しいひと

 

 わたしのこの両まなこ伽藍堂がらんどう

 眼窩に納まるは白く濁る皮

 虚しく乾いた古い外皮

 

 嗚呼、見つからぬ、何も視えぬ 

 お願いだ、触れないでおくれ久しいひと

 

 来てはならぬ

 触れてはならぬ

 

 何処へ行ったのだ

 何処へ逃げたのだ

 

 此処は何処なのだ

 御前は何なのだ


 必ず御前を捉えてみせる

 

 否

 

 わたしが囚われているのか

 わたしは御前に捕らわれているのか

 

 朱い、朱い、朱い、


 朱い



 

 朱い、毒蟲

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ミエナイ、朱《あか》 花野井あす @asu_hana

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