Dさんの話『左利き』

 ぼくが昔から左利きだったかって?

 そっか、君とは幼稚園からの付き合いだったね。

 うん、これ誰にも教えたことがないんだけど、君には教えるよ。

 ぼくは確かに小学校三年生まで右利きだった。

 小学生のぼくは一つ特技があってね、鏡の中に入ることができたんだ。

 信じられないのも無理はないけど、とりあえず最後まで聞いてよ。

 気づいたのはそれこそ三年生のある日だったんだ。 体育館にめちゃくちゃ大きい鏡があったの覚えてる?

 そうそう、アレにね、入れたんだ。

 鏡におもいっきり突っ込むと、鏡の中のぼくと外のぼくが入れ替わるんだよ。

 それが楽しくてね。

 鏡の中にはぜんぶが左右逆転した世界があって、友だちも先生もみんな普通に存在してるんだ。

 文字まで鏡文字なんで、最初はなかなか読みにくいけど、慣れれば簡単さ。

 少しの間鏡の中の世界を楽しむと、同じ鏡に突っ込んで帰ってくる。

 そんな遊びをしてたんだ。

 ある日友だちにそれを見せたくなってね。

 そのころ仲の良かった友たちを呼んで、ぼくは鏡に入って見せた。

 やって見せたら 「おれもやりたい」って友だちも鏡に突っ込んでね。

 どうなったと思う?

 そう、友だちはぼくみたいに通り抜けられなくてね、ぶつかって鏡は割れちゃったんだ。

 友だちは大怪我をして、しばらく体育館は使用禁止になった。

 その時運悪くぼくは鏡の内と外で入れ替わっていてね。

 その日からぼくは左利きになったのさ。

 え?

 じゃあ今のぼくは鏡の中の世界のぼくじゃないかって?

 君も細かいことを気にするね、どっちだって同じさ。

 左右が逆なだけで、やることは一緒だもの。

 うん?

 どうしたの?

 なんで急に帰るんだい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怖い話『鏡のこと』 寝る犬 @neru-inu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ