最終話 また会える

 とうとう出発の朝が来てしまった。

雪国らしく空模様はどんよりして雪がちらちら降っている。

最後の日の天気は雪か…まぁこの地域らしくてなんだか離れるのが少し寂しい気持ちが募る。


 キャリーバックの荷物を整理する。はらりと紙のようなものが落ちた。

スキー場で買ったリフト券だ。結構高かったんだよなぁとしみじみ思う。

つい最近の事なのにすごい昔のことみたいに懐かしい。でも鮮明に覚えている、なんだか不思議な気持ちだ。


ピンポーン


 ドアホンの音がした。スマホの時計をを見る。楽しかった時間はあっという間に過ぎていく。


急いで階段を降りるとおばあちゃんと佳代子ちゃんと佳代子ちゃんのお父さんが話をしていた。


「あ!柚ちゃん降りてきた!」


「佳代子ちゃんわざわざ新幹線の駅まで送ってくれるの?」


「任せなさい!おじさんは佳代子がいっつも嬉しそうに柚ちゃんの話をしてるの知ってるからな!佳代子と友達になってくれて本当にありがとうな、これからも仲良くできるなら仲良くしてやってくれよ!」


佳代子ちゃんのお父さんはニッと笑う、おばあちゃんもうんうんと頷いている。


「私も町にいる間沢山お世話になりました!この町にはまた東京の家族を連れてこようと思います。おばあちゃん、佳代子ちゃんのお父さん、ありがとうございました!」


 いつかお礼をするならこの町にもう一度来て顔を見せる事が一番だろう。

そう思い私は佳代子ちゃんのお父さんが運転する車に乗る。車の窓を開け

おばあちゃんの手と私の手を合わせる。


「おばあちゃん、体調に気をつけて元気でね!」


「うん。気をつけるよ、また近いうちにこの町においで」


「うん!絶対来るから」


車が動く、家の敷地から出る、見送るおばあちゃんの姿は小さくなっていく。

また、今度は夏くらいに会いに来よう。


◇ ◇ ◇


車は雪の降りつもる道路を走り続ける。車の中はカーオーディオから流れる調子の悪いラジオを音だけが鳴っていただけで恐ろしく静かだった。


「柚ちゃん、プレゼントがあるんだけどいい?」


「プレゼント!?いいよ、勿体無い!」


「だめ、私のこと忘れてほしくないから、貰ってほしい」


そう言って佳代子ちゃんが取り出したのは透き通った翡翠色のガラス玉のついたネックレスだった。


「綺麗…」


「これ、私が作ったんだ」


そう言いながら佳代子ちゃんは私の首にネックレスをつけてくれた。つける最中お互いの顔の距離が必然的に近くなってドキドキした。


「うん!似合ってる!そういえばこのガラス玉最初は青色にしたんだけど柚ちゃんの名前の柚は黄色だからって黄色混ぜたら緑色になっちゃったの」


「うふふ…佳代子ちゃんありがとう、これとっても綺麗」


「よかった、気に入ってくれて」


 二人でこうやって笑いあう時間ももう少しで終わりだ。


「もうすぐ駅だぞ〜柚ちゃん、忘れ物とかないよな」


「大丈夫です。本当に送迎までしてもらってありがとうございました!」


「そうだな、また来てくれよな!ほら、もう出発の時間近いぞ!」


 私たちは二人は新幹線のホームに向けて走り出す。

 ホームと新幹線の車内の境目が切なくて、それだけで少し目頭が熱くなる。


「佳代子ちゃんとは一度お別れだね」


「そうだね…また会えるかな?」


「会えるよ。私、絶対に佳代子ちゃんに会いに行く」


「私もずっと待ってる!」


 もう二人とも涙で前が見えないほど目に涙が溜まっている。

最後に佳代子ちゃんが私をぎゅっと抱きしめる。今までで一番強くしっかりと。

するとすぐに出発の合図のアナウンスが流れ、ホームのバリケードと新幹線のドアが閉まる。音が遮断され、佳代子ちゃんの声は聞こえなくなった。

新幹線がゆっくり動き出す。


 涙を袖でぬぐい、佳代子ちゃんに手を振る。新幹線はすぐに速度を増し佳代子ちゃんの姿は一瞬で見えなくなってしまった。座席に座る。車窓からは雪の降る菜花温泉町が遠くに見えた。



◇ ◇ ◇



———————五年後…東京


「結構寒い……」


 私、雪代佳代子は東京の大学に通うために菜花温泉から上京した。

あれから柚ちゃんは勉強が忙しくなったのかお互い察してあまり連絡は取らなくなってしまった。

 上京してわかったことだが、東京も何かと寒いらしい

朝の満員電車に乗り込み大学に向かう。最近私は個人のブログを見ることにハマっている。そして適当に画面をスワイプした先にそのブログは存在した。


「え!?」


驚きすぎて満員電車の中なのに叫んでしまった。

目に入ってきたブログのタイトルは


『温泉巡りの湯本さん』

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温泉巡りの湯本さん みけめがね @mikemegane

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