第2話 目覚めし神様
疲れたのか、8時に目が覚めたら綾はもう起きて着替えてメイクもバッチリだった。そして、銀ピカの像を写していた。
「あ、おはよ。これ、なんでも願いを叶えてくれる万能の神様、大明神みたいだよ。」
綾はスマホを渡してきた。
(せっかく二人の旅なのに、朝からこれか…でも、何でも願いを叶えてくれるの?)
渋々のぞいてみると開いているページには「おめぐみ大明神」と書いてあり、説明がずらり書いてある。
「ピッカピカに磨いたんだよ」
得意顔の綾に輝く神様…
「やだー、1個汚れが残ってる。」
綾は手に布を持ち、拭こうとしている。
「おめぐみ大明神さまねえ…」
綾が布で像を拭いて僕がそう言った瞬間に、像が輝きを放ち、ぼわわんと煙のようなもののものに包まれ、どすんと初老の男性が現れた…
「あわわ」
なんかの衝撃でぶっ飛んだ僕は尻餅をついたまますぐには立ち上がれない。
…というか立ち上がれそうにない、無様な格好だ。
「呼んだ?」
初老の男性は綾に話しかける。
「あんた誰?どこから入ってきたの?」
綾は一歩引いたものの強気に応える。
「失敬なヤツだ。呼ばれたから起きたのに、いきなり不審者扱いか。」
「呼んでないよ」
僕は怖めに言ったつもりだが、自分の耳には笑いをとろうと必死のお笑い芸人がとびきり高い声を出して滑ったような声が入ってくる。
「今どきの若いものは。朝から人を呼んでおいて…はぁ。」
「呼んでない」
綾の声と僕の声が綺麗に重なった。
「お恵み大明神さま」と言ったとおもうが…」
「えっ?!あなた神様なの?」
綾の態度がコロッと変わった。
「そうだ。呼んだだろ?ところで今は昭和何年だ?100年ぐらいか?」
「大明神様とは、先に言ってくださればいいのに」
綾の変わり身の速さには脱帽だ。
「神様、昭和は64年で終わりそのあと平成が30年くらい続いて今は令和5年。」
僕は補足した。
「そうかそうか、世の中はだいぶ時間が経っていたな。やっぱり今は昭和だったら100年ぐらいだな。」
「しかし、なんでそんなに眠っていたの?」
「話せば長いんだが。」
「じゃあいいです。」
綾はマッハの速さで返したが、結局神様は話し始めた。
「昔はこの村も栄えていたし、ワシも村人の供物でそれは裕福な神様だった。でも、江戸時代になると何度も飢饉が起こって村から人がいなくなっていったんだよ。人が減ってね。随分と小さな集落へとなってしまった。」
「神様の力でなんとかできなかったの?」
「その頃には祠も荒れ果てて、お参りにくる人もいなくなってしまったんだ。それで、忘れ去られた神へとなってしまった。」
「そう、それでおしまい?」
「それから明治・大正と変わらないまま時代は流れていった。」
「世間ではすごく変わった激動の時代なのに?」
「そうだ。この村の暮らしはずっと変わらない、ゆっくりとした変らない時間が流れているだけなんだよ。」
「そっか・・・。」
「昭和になって、ここの家の主が新興宗教を始めた。彼らは、朝に夜に怪しげなお経を唱えて、周囲の神仏の力を落とし、その時家にあった神像・仏像、近くの像たちも始末されてしまったのだよ。それ以来土の中に埋められてしまった。」
「新興宗教?」
「そうだ。村の多くの人…多くと言っても多くはないが、少ない村人に壺やら印鑑やらを買わせて豪勢に暮らしとった。」
「えー、じゃああの大量の壺は新興宗教の壺で高価な壺じゃないのか。」
「そうだ。あの壺はナイスにセールスすれば、信じるものに売れば1個500万で売れるかもしれないけど、普通に売ったら何千円というところだろう。」
綾のガックリ度合いが凄かった。
「そうか、今は令和という時代なんだな。じゃあ、せっかく掘り出してくれたついでに祠(ほこら)を修復してくれないか?」
「えー」
僕が驚く番だった。
「ほこらって、お地蔵様のお堂みたいなもの?」
「そうだ、神様の家だ。」
「でもさ、全能の神なのに?人にものを頼むの?」
綾はいつも痛いところを突っ込む。
「人の願いを叶えることはできるが、自分の願いは叶えられないし、全能の神と言っても魔法使いじゃない。そんないきなり祠がポーンと飛び出すはずはないじゃないか。」
「なーんだ、ぞれでも全能の神さまなの?」
綾の白けた表情が面白い。
「祠を作って祀ってくれたら二人の願い事を1個ずつ叶えるよ。」
(条件付きか・・・。でも、なんでも叶えてくれるなら悪くない)
「わかりました、祠ね。」
僕は昨日実家で見つけた宝の地図を見てみる。宝の地図に「祠」とあったからだ。
僕の記憶は正しく、実家のすぐ近くに「ほこら」という字がみつかった。
地図を神様に見せて
「ここに祠を建てればいいんですね?」
と聞いて気がついた。ところで祠ってどうやって作るんだ?
日曜大工なら苦手ではないけど、祠の作り方なんて考えたこともないし、そんなに簡単に作り方が載っているはずも・・・
あった!
ネットには動画・静止画いろいろな祠の作り方が載っている。
この調子だと助っ人が一人手に入ればいけそうだ。
そういえば宿の隣の家の青年は近くの人に小遣いをもらってはお手伝いをしている…
ここは時給を払って・・・
願い事を叶えてもらうためには必要な出費だ。
お宝探し…いやお片付けはとりあえず綾に任せて、隣の兄ちゃん引き連れて祠直しをするとしよう。祠が直った暁には神様が願いを叶えてくれるわけだから、まず何よりも祠を直すのが先決なはず…。
神様には何をお願いしよう?
宝くじが当たりますように?いやいや。くじが当たらなくてもお金があればいいのだから「お金持ちになれますように」でいいのかな?それとも幸せな結婚ができます様にか?でも、そもそも幸せな結婚って何だ?
ひとつのお願いだからしっかり考えておく必要がありそうだ。
僕は願い事と、願いが叶った後を考えてボーっとしているとそこに綾はいなくなっていた。
「あや?」
控えめに名前を呼んでみたが、返事はなく部屋はシーンと静まりかえっていた。
が、外から人の笑い声が聞こえるような感じがするので、窓を開けてみると綾が隣の青年と話をしているようだ。
(いつの間に)
窓から顔を出すと
「悠ちゃん、彼のおじいちゃんは大工さんだったんだってさ。だから大工仕事は得意だって。」
「心強いね。よろしくお願いします。」
(しかし、ほんのちょっとの間に知らないところへ行き交渉をしてしまうなんて手回しがいいんだ・・・)
綾の行動力にはいつも驚かされる。
まあ、願いを叶えてくれるなら人を何日か雇って祠(ほこら)づくりを手伝ってもらうのは悪くない。
そう思ったところへ、先の彼が父親と思える年齢の人を連れて再度やってきた。
「私はこいつの親父で君の祖先の近所で育った宮根健二というものだ。」
「僕はポツンと1軒家の最後の子孫の白井悠介です。」
「よく帰ってきたね。君が祠を直したいって、健太郎から聞いてね。ここに初めてきた君が祠を直したいと言ったなんて嬉しいね。いやね、神様の祠はこの集落のシンボルであり守神だったんだよ。君の祖先だけじゃなくて、近所の我々の祖先も掃除や祠の補修なんかもしてたみたいだ。それが、君んところの祖先がけったいな新興宗教を崇拝しだしてね、祠が壊れても放置したときいてる」
と続けた。
神様の言った通りだ。
今、悠介の親戚で熱心に宗教を信仰している人はいないが本家の人は随分熱心な信者だったのだなと思った。
「神様が戻ってくるのなら、喜んで祠づくりを手伝わせてもらいます。本当は爺さんが元気なら爺さんが祠を作れば早いんだが、爺さんはあいにくぎっくり腰でトイレにも行けなく寝込んでるからな。頑張らせてもらいます」
健二は熱っぽく語る。
悠介は大明神の方を見ると、大明神は得意げに胸を張っている。
「氏神様復活だ。」
神様は横でガッツポーズをしている。ツッコミどころ満載な神様に健太郎らが何も言及しないところを見ると健二や健太郎に見えないらしい。
「俺らは、道具を用意してから君の家に向かうから、向こうでな。」
「よろしくお願いします。」
悠介は頭を下げると、神様も頭を下げていた。
去っていく親子の後ろ姿を見ていると、悠介達の様子を見ていた綾が神様に
「人気者だったんだね。」
と突っ込んだ。
「そう言ったろ?」
「確かに。でもさ、万能の神って言ったけど祠は自分で作れないって言ったし。」
「さては疑ってたな。」
「だって、万能じゃないじゃん。人気者みたいだけど。」
綾の失礼な物言いに、神様が気分を害して願いを叶えてくれなくなるんじゃないかと心配になる。
「まあまあ、まず祠を作って様子を見ましょう。」
綾はケタケタ笑いながら冗談とも本気ともつかない口調で
「嫁、姑が喧嘩をしたときの悠くんのポジションが見えた気がする。」
と言う。
悠介も笑いかけたが、なんとなく笑えなかった。
そのなんとなく、本の少し気まずい空気を読んでか神様が
「さて、こちらも参りましょうか」
とやけに丁寧に二人を促す。
宿から15分ほど、山道を右に曲がり左に曲がりを何度か繰返して実家への道を走っている。綾は今日も家の整理だが、お宝探し感覚が楽しいのか楽しげだ。神様ときたら綾に
「家の整理の鑑定を手伝う」なんて言って上機嫌だ。男3人に祠作りをさせようというのに
呑気な話だと文句を言いたくなるが、目的は願いを叶えてもらうことなので黙っていた。
実家に到着すると、まるで大工さんのような格好をした宮根親子が手をあげて待っていた。
「愛された神様だったのね。」
綾が言うと神様はわざとらしくコホンと咳払いをして
「まあね。」
と照れて見せた。
万能の神様おめぐみ大明神とニンゲン めぐみ千尋 @kanata123
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