万能の神様おめぐみ大明神とニンゲン
めぐみ千尋
第1話 旧家のお宝探し
白井悠介は、山が深くなるに連れて文句をいう彼女稲毛綾のご機嫌取りに少し疲れてきた。
「先祖代々の家だからお宝があるかもって、こんな山奥にお宝なんてないでしょ。」
「…江戸時代から続く名家なんだよ。」
「メイカ?何それおいしいの?」
「いや、萩の月とかカモメの卵とかのメイカじゃなくて…古くからある家。骨董品とかがあるらしいよ。」
「なんだ、宝石じゃないのか。」
(GWにわざわざタイにバカンスに行っちゃった両親の代わりに誰もいなくなった本家の片付け、取り壊しに立ち会うことになり…一人でど田舎まで出向くのは嫌だったし、綾とのんびり過ごせるからつれてきたけど、一人の方が気楽だったかも。)
「まあいいや。何とか鑑定団に出せるようなものあるといいな。」
「そうだね…」
何とか綾のテンション復活!
到着した父方の実家を見て今度は僕のテンションが落ちた。
家は外目にもだだっ広く大きかった。
(ここの片付けか…)
綾は大きな家をsns映えするとか言いながら写真を撮って案外ノリノリだ。
気は進まないけど…鍵の束から鍵を選び出し鍵穴にさしこんで…
入らない…
逆さまに入れても…
錆びついているのか、はたまた他の原因かドアは開かない。
見かねた綾がドアをドンと蹴ると…
ドアはギシギシいいながら開いた。
(開くんかい!)
やっぱり女性は強し…
あっけに取られている僕と荷物をおきざりにして綾は靴のまま家に入っていった。
僕も荷物と家に入る。
家の中はがらんとしていた。
広く天井が高い空間が広がっている。
「ここ、何人寝られるかな?」
隣の部屋から綾の声がする。
襖を開けると綾が大の字になっていた。
そんなところに寝転んだら汚いよ…と悠介は言いかけてやめた。
「ちょっとほこりっぽいけど、なかなか良さそうなところだね。数日過ごすなら」
「…そうだね。」
お店はどこにある?
コンビニはどこにある?
ATMはどこにある?
僕はここでの暮らしを考えてしまった。
「なんか覇気ないなぁ。さ、かたづけよう!」
いつの間にか起き上がった綾は押し入れを開けて潜りこむようにして中身を調べている。
「引っ張り出しちゃいなよ」
「そだね」
綾は次々と長い箱を引っ張り出していく。
「はっくしょん」
舞い上がる埃にくしゃみをしたら綾が振り向いて笑うけど、いつのまにかマスクをしている。
悠介がマスクをする間も綾は押し入れから物を出し続けている。
やがて部屋の端に積み上げられたものを綾は手際よく開けていく。中からはものはよさそうだが古臭い着物が出てくる。
「高く買い取ってくれるかしら?」
「だといいね。」
綾は箱から着物を少し出したまま積んでいく。
悠介は着物を箱に押し込みながら、着物の山を作っていく。
「じゃーん」
綾の声に振り向くと、いつのまにか綾が真っ赤な打掛を羽織っていた。
僕は一瞬横に並ぶ自分を想像した。
「…き、綺麗だね。」
「なんか言いにくそうな」
「そんなことないよ。」
「ま、着るならドレスがいいけど」
綾は打掛を脱いで、畳にパサっと置いてもう次のランプみたいな物を手にしている。
「これ、何したら魔神出るんだっけ?」
「こすればいいはず。」
綾はランプみたいなものを擦っている。
シーン
「呪文あったっけ」
「わからない…」
綾の一生懸命な顔。それをスマホで撮影する悠介。
「ご主人様の願い事を叶えましょう」
悠介が冗談ぽく言うと
「じゃあ、この部屋がすぐに片付きますように」
「そんな現実的な願いでいいの?」
「うーん、じゃあ…お金持ちになれますように。」
「では、ご主人様…『ぼわわーん』とはならないわな。」
「カレー入れにしかならないね。」
綾はおかしそうに笑っている。
僕もスマホで撮っているまま笑ってしまった。
「現実逃避してもダメね。片付けましょ。」
そして、次の押し入れを開けると・・・
壺がたくさん詰まっていた。壺は3種類ぐらいありそれぞれがたくさん押し入れに詰まっていた。
「先祖様は骨董趣味?」
「聞いたことないけど。」
「壺だらけだよ。」
「高いかな?」
周りを探していた綾は、領収書の束を見つけ、熱心に領収書に見入っている。
「悠介すご〜い」
綾は領収書の束を見せてきた。
「30万もするのか」
「300万円よ。こっちは200万円にこっちは500万」
綾の声が何オクターブか上がる。
「これはお宝だね。」
綾の顔がほころぶ。
そんな二人の片付けは夕方まで続いて…
僕としてはもう少し早く近くの民宿に帰りたかったのだけど、納屋で帰り支度を始めたころには日はすっかり暮れていた。
「暗くて足元がハッキリ見えないから、気をつけてね」
と綾の声。言い終わらないうちに
「痛ったーい」
スマホを懐中電灯がわりに声の方に向かうと、綾が転んでいた。
「大丈夫か?」
「大丈夫。でも、地面から何か出てるの」
照らしてみると、地面からキラリ光るものが突き出している。
「わあ、何か光ってる。」
地面のキラキラ光るものと同じくらい綾の目が光った。
綾は納屋の農具の中から掘るのに使えそうな物を探しだし、早速掘りだした。
(宿に戻るのが余計に遅れる…。でも、手伝った方が早いな)
僕も仕方なく目に入ったスコップを持ち参戦した。
カチャリ…
スコップが物体に当たるたびに綾に怒られながら、汗だくになって、ヘトヘトになって地面の中から出てきたのは…
一瞬キラーンと光った気がした…
眩く光った気がしたけど…
周りが明るくなった気がしたけど…
50センチほどの真っ黒な物体だった。
光っていたのは、さっき見えていた部分だけだった。
綾のあっけにとられた顔、僕たち二人の泥だらけの顔…
僕と綾は顔を見合わせて笑った。
綾の顔があまりに残念そうだった。
僕は物体を持ち上げると、大きさの割に重く感じた。
「せっかく掘り出したんだから、持っていって何か確認してみよう。」
綾が頷いたので、二人でそれを外の水道へ運び泥を洗い流して近くにあった新聞に包んだ。
1日で一番大変だったのはそのアンノウウンの処理で、どうにか処理を終えて民宿を目指し出発したのは宿が「夕飯最終時間」とした時間を少し過ぎていた頃だった。
カーナビが迷子になり、宿に着いたのは夕食最終時間の1時間後だった。
それでも宿の主人は名物の山菜をふんだんに使った夕食を出してくれた。
露天風呂の方は、川の音がするだけの闇だったけど…。
風呂上がりのちょっと上気した綾は、普段より少し色っぽいけれど、目の前に桶と重曹か何かとアルミ箔を用意して実験教室の先生か何かのようだ。
さっきおそらく僕が「掘り出したものは銀かもしれない」と言ったからだろう。
手に吸い付くようなしっとりとした手触り、あの重み、あの輝きはひょっとしたら…
綾はスマホを見ながら、何かの儀式でも行うような顔で、慎重に作業を進めている。
手元からはぶくぶくと小さな泡が発生して…
発生して
発生して…
そんなんでキレイになったら…
綾が沈めた像の上部を取り出すとピカピカのシルバーが顔を覗かせた。
「えっ、嘘、うそー」
綾の叫び声に手元をみると、先の黒い塊からは考えられない銀ピカの銅像が見えた。
「やった!これが一番の掘り出し物だ」
「でも…」「これ、なんだか神様っぽいよね?」
「そうだね。」
「売ったら罰とかあたらないかな?」
綾の真面目な顔がとても可愛かった。
「それは、一晩寝てから考えよう。」
「そうだね。」
こうして父の実家の片付け1日目は終わった。
「ここはどこだ?ちょっと明るくなったけどなんかまだ暗いぞ、おーい。誰かあかりを…」
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