灯らない街

神吉にゃる

 臭い物に蓋をする。悪臭を放つ物体に対しては何もせず、ただそれに蓋をして悪臭が漏れないようにすること。根本的に解決するわけでもなく世間に知られぬように隠蔽することのたとえ。この「虚冥町」はまさに臭い物を閉じ込める容器そのものであった。


 この国は非常に豊かである。内戦など一切存在せず、豊富な資源に恵まれ、税金さえ払えば国民は各々の人生を保証される。国民たち自身も皆優しく、お互いに尊重し合って暮らしている。要するにとてつもなく平和なのだ。誰もが国を愛し、また国も人々を一番に想う。そんな平和な国に犯罪があってはならない。平和が象徴であるこの国を脅かす存在、そのようなものは愛すべき国民でも何でもないただのゴミである。しかしどんな国でも少なからず事件は起こり、犯罪行為をする者もいる。政府は考えた。この者共をどのように処置しようか。ゴミを美しい楽土へ放ってはならない。国民の中に卑しき犯罪者が潜んでいるなど言語道断である。だが処刑もダメだ。ゴミとはあれど彼らも人間である。この美しく平和な国の政府たるものが人を殺すことなど出来るものか。政府はその者たちをまとめて堕落者と呼んだ。そして彼らが二度と楽土へ這い上がれないように、閉ざされた廃墟の街へ全てを隠蔽したのだった。

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灯らない街 神吉にゃる @kichi_kichi

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