第23話:眼帯のジル
絶句した。
このメイドさん、オレがネロじゃないと気付いている……?
正体がバレないようにしないと、とか思っていたのにいきなりバレたぞ。
オレは何を言うべきか迷ってしばらく沈黙してしまった。
その間、メイドさんも何も言ってこない。オレの言葉を待っているようだ。
どうする? 一旦誤魔化してみるか?
「なんのことだか――」
「『なんのことだか分からない』……などという言い
「…………ウス」
くそっ、先回りされちゃった。
オレはまたしばらく迷ったあと、とりあえず肯定も否定もせず、逆に質問をしてみることにした。
「そもそもどうしてそんなことを思ったんだ? その……ボク、がネロじゃないだなんて」
「魂の色です」
「魂の、色?」
そういえば、さっき魂がどうとか言ってたな。
メイドさんは淡々と説明をし始めた。
「私には少々特殊な能力がございます。人間の魂の色を見分けられるのです」
「へ、へぇ……」
それが本当だったらどんな言い訳も通じないな。
「ネロ坊ちゃまの魂の色は、何度も見ましたからよく存じ上げています。それが、三日ほど前でしょうか。坊ちゃまの魂に別の色が混ざっているのを見たのです」
三日前っていうと……ああ、このメイドさんに声をかけられた日と一致するな。
え? じゃあこの人、そのときからオレに気付いてたってこと?
「そして本日、坊ちゃまがどうなったのかを確かめに伺ったところ――」
「……ネロの魂が消えていて、オレの魂だけになっているのを見た、と?」
オレが言葉を引き取ると、メイドさんは「はい」と頷いた。
「そっかぁ……」
まさかこんな反則みたいな感じで正体を見抜かれるとは思わなかったなぁ。
「あっ。ちなみに、そのことって誰かに話したりは……?」
「していません。ご安心くださいませ」
「そう……」
そのことについては一安心だが……どうしたもんかな。
ちょっと迷ったあと、オレはこの人にはある程度正直に話すことにした。どうせ隠しても無駄だしな。
それに、この人は三日前からオレに気付いていたのに、誰にも報告してないって言ってたからな。話せば分かってくれるタイプかもしれない。
「えーっと、すぐには信じられないかもしれないんだけど、実は……」
そう切り出したあと、オレは一部の事実を伏せて説明を始める。
内容はこんな感じ。
オレは元々貴族とは無縁の平凡な男だったが、ある日誰かに刺されて命を落とした。
だがしかし、気が付けばネロの身体の中に魂が入り込んでしまっていた。
どうやらこんなことになったのは女神様的な偉い存在の仕業らしい。
地球から転生したとかここがゲームの世界とか、その辺はあえて端折っておいた。
ただでさえややこしいのに、これ以上複雑な事情を説明する必要はない。
ま、嘘は言ってないからいいよね?
メイドさんは一切口を挟まず説明を聞いたあと、「承知しました」とだけ言った。
「え? 感想それだけ?」
「はい。他に言うべきこともありませんので」
ク、クールすぎるなこの人。
と、そのときメイドさんが「ああ」と思い出したかのように手を打った。
「一つ、言うべきことがありました」
「え? それって」
「自己紹介です」
メイドさんはそう言うと、優雅に一礼する。
「私の名前はジル・バルコニア。アーク公爵家のメイドをしております。どうぞ気軽にジルとお呼びください」
「……あ、はい。よろしく……」
……このメイドさん、なんかマイペースだな。
腐れ子息に転生したけど何がなんでも処刑ルートを回避したい 冬藤 師走(とうどう しわす) @shiwasu8
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