第270話 説得
「何をしたい…ねぇ…」
「お前が前みたいに世界征服ーとか望んでるなら、それは流石に止めないといけない。正直、俺は自分の身内以外がどうなろうが知ったこっちゃないけど、世界が滅茶苦茶になると俺が楽しめないからな」
「勇者とは思えない発言ね」
「勇者は卒業しました。ニートにランクアップだぜ」
「それはランクダウンでしょうに」
ランクアップだろうよ。俺の今の生活を見てくれ。前の世界では死ぬ気で魔王を討伐したってのに、嫉妬に駆られて刺客を差し向けてくる奴がいっぱいいたし、勝手な理想を押し付けてくるやつもいた。
勿論、滅茶苦茶感謝してくれる好意的な国もあったけどね。
でも、こっちの世界は、散歩感覚で狭間を適当に攻略すると、一生遊べる金が手に入る。ちょっと人類がやばい時に手を貸して、後は引きこもってても、誰もが文句を言わない素晴らしい世界だ。
異世界と比べて娯楽も多いしね。
そんな世界を壊されるのは流石に困りますよって話だ。
「で、どうなの? お前が前の世界で魔族を使ってまどろっこしく世界征服なんてのを目指してたのは、暇だったからだろ?」
「まあ、そうね。私の能力を使えば簡単に成し遂げちゃうし」
「はいはい、チートチート」
「あなたも大概だと思うけど」
魔王アリスが持ってた唯一無二のチート能力である『支配』。
もう名前だけで分かるよね、やばいって。
こいつは本当に何もかもを支配出来るんだ。人間の意識やら支配するのも、天候を支配するのも、空間を支配するのも、概念を支配するのも。
アリスが支配出来ると思ったら、なんでも支配出来ちゃう訳だ。勿論かなり魔力が必要になるけど、異世界ではほぼ無尽蔵の魔力を持ってたアリス。
正真正銘、やべぇ魔王として君臨し続けてました。
アリスの溢れ出てた魔力から生まれる魔族が、並の人間では到底太刀打ち出来ない強さを持ってるから更にタチが悪い。
数もやばけりゃ、本人もやばい。
俺もめげずに良く討伐したもんだ。
そんななんでも出来る能力を持って生まれたアリス。そりゃ、暇になっても仕方ない。
だから、彼女はなるべく自分で手を出さずに、魔族を使って世界征服ゲームをしてたって訳だ。
「お前も人間になって分かったろ。この世界は世界征服なんてしなくても、楽しい事はいっぱいあるぞ」
「そうねぇ…」
お、なんか今の勇者っぽくない? 物語で良くあるシーンを再現してるみたいだ。長年争ってきた敵とのクライマックス。主人公が最後の最後で、敵を説得するんだ。
こんな馬鹿な事はやめて俺と一緒に生きようみたいな。まあ、大抵は失敗してクライマックスバトルになるんだけどさ。
「じゃあまずは天魔にその楽しい事ってのを付き合ってもらいましょうか」
「ん?」
アリスはそう言って、大量に支配したワームを俺にけしかけてくる。
「まずは殺し合いを楽しみましょう? 話はそれからよ」
「今のお前が俺に勝てると思ってるのか?」
「そんなのやってみないと分からないわよ。あなただって、最終的に私に勝ってみせた訳だし。今度は私が挑戦者としての立場を楽しませてもらうわ」
うーむ。やっぱりこうなるか。言葉だけの説得で済むかなと淡い期待を抱いてた俺が馬鹿だった。
念の為ガチ装備で来ておいて良かった。
そう思いながら、俺は天使に憑依してワーム達を消し飛ばした。
異世界帰りの憑依能力者 〜眷属ガチャを添えて〜 Jaja @JASMINE4
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