第269話 邂逅


 姿を隠してハワイに飛んだ。

 理由はもちろんアリスだ。


 アリスがハワイの狭間に入っていた魔力の波長を捉えた俺は、桜達に俺に万が一の事があった時の対処法等を伝えて、一人ハワイに上陸。


 普段は観光地として賑わってるみたいだけど、今は狭間の影響と、アメリカが世界から見放されつつある事もあって、活気はない。


 「この装備を着るのも久々だな」


 俺は自分の格好を見て苦笑いする。普段はそこらに散歩にでも行くような格好で狭間攻略に出る俺だけど、今日はガチ装備だ。


 異世界で最終的にアリスを殺した時と同じ装備。全属性の竜の素材をふんだんに使ったローブやら、魔法効果を大幅に増幅させるアクセサリーやらをじゃらじゃら付けてる。


 厨二病まっしぐらな格好で、とてもじゃないけど普段使いはしたくない。


 ミリスがこっちに来てて良かったな。俺の装備はほとんどあいつが作ったやつだから、調整やらなんやらをしてくれたお陰で、かなり久々に着るのによく馴染む。


 「よし行くか」


 狭間の前で一つ深呼吸をして、いざ突入。


 ハワイに出現した狭間は、1級って事もあって大した強さじゃない。情報ではでっかいワームがうようよいるって話だったが…。


 「いた」


 遠く離れた場所で、ワームの背に乗って移動している一人の人物。


 乗ってるワーム以外のワームが近くを通るだけでパタパタと倒れていく。相変わらず凶悪な能力を持ってるらしい。


 俺はとりあえず搭乗者付きワームに向かって歩き出す。


 途中、向こうも俺に気付いたのか、満面の笑みで俺を待っていてくれている。


 「アリス」


 「久しぶりね。天魔。元気そうじゃない」


 「お陰様で。お前の復活を知るまでは、それはもう楽しい時間を過ごしてたよ」


 本当に。異世界で300年ぐらいニートして、現代に帰って来ても贅沢三昧している。色んな人達にも恵まれて、本当に楽しい日々を過ごしてた。


 「つれないわねぇ。あんなに殺し合った愛し合った仲じゃない」


 「俺はお前に一方的に虐められた記憶の方が多いんだ」


 「うふふふ。毎回天魔の泣き顔を見るのが楽しくって楽しくって」


 うっ。泣かされた記憶がどんどん蘇ってくる。


 天使なんてチートっぽい能力を手に入れて、調子に乗って挑んで鼻息レベルであしらわれた事。それから数年して天使の能力にも熟達して、今度こそはと挑んで四天王の一人にボコボコにされた事。


 他にも色々な思い出が…。


 「なんで生きてんだろうな、俺」


 「私の気まぐれよ」


 「まあ、そうだな」


 俺の無様な姿がよほど滑稽だったのか、何回挑んでもアリスは見逃してくれた。普通なら初っ端で死んでるよね。


 「私は見逃してあげたのに、天魔は一回で私を殺しちゃうんだもの。ちょっと不公平じゃないかしら?」


 「あのチャンスを逃したらお前に一生勝てない気がしたからな」


 殺れるタイミングで殺る。俺はあの長く短い異世界生活で嫌というほど学びました。情けをかけても大抵良い事ないと。


 「それで? 今回も私を殺しに来たのかしら?」


 「そう思ってたんだけどなぁ…」


 俺は近寄ってくるワーム達を適当にあしらいながら、話をする。実際話をしてみて分かったけど、今のアリスは相当弱体化している。


 異世界のアリスが10なら、今は0.1あるかないかぐらいには。それでもこの世界基準では圧倒的強者には違いないけど。


 今なら簡単に殺れる。


 でもその前に。


 「お前はこの世界で何がしたいんだ?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る