第268話 捕捉


 「既にご存知かもしれませんが、日本のメディアや一部官僚、国民達が少々不穏な思想をしているようで…」


 「ええ。でも別に伊達さんや朝倉さん達はそうじゃないって分かってますから」


 とある日。そろそろハワイの監視も飽きてきた頃。『シークレット』の事務所に日本の探索者協会の会長である伊達さんと、総本部長の朝倉さんが菓子折り片手にやって来た。


 何やら深刻そうな顔をしてらっしゃるから何事かと思ったけど、話の内容は日本のテンションが少々おかしな事になってるって事だった。


 俺は犀から聞かされて知ってたし、そんなに気にしてなかったけど、この二人や政府の上層部はそうじゃなかったらしい。


 俺が愛想を尽かして国を出て行くんじゃないかとか、中国の時みたいに隕石ドッカンをやるんじゃないかってヒヤヒヤしてるっぽい。


 「まあ、なんでそういう考えになるのかっても理解出来ますしね」


 嫉妬という感情は人間とは切っても切れない厄介な感情だ。俺は異世界でそれを嫌というほど味わってきたし、俺も普通に嫉妬とかするので、気持ちは分からんでもない。


 俺が一般人の立場で、こんなに成功してるように見えたら、良いなーとか羨ましいなーとか思うもん。それで声を上げて攻撃しようとまでは思わないけどさ。


 「まあ、俺が今までやって来た事を支持してくれる人は支持してくれるでしょうが、結構外道な事もやってきてますからね。嫌悪感を示す人もいるでしょう」


 「それはそうですが…」


 ポッと出て1級の狭間を一気に三つ攻略して、日本壊滅の危機を救って。日本の探索者達の実力を上げて、世界でみんなが攻略出来ない狭間が出現した時には世界ツアーをして。


 最終的にはほぼ全世界から探索者を集めて鍛えて、世界全体の実力を底上げしたし、最近では生産方面でもテコ入れしようとしている。


 うんうん。見る人が見たらカルト的な支持を得られるのは間違いない。


 でもその傍らで、アメリカやバチカンとの関係を悪化させて、実質的に中国を滅ぼした。被害が出た国の事が大好きな連中は、俺の事が気に食わないでしょうよ。


 で、そういう連中が俺に首輪を付けろって言ってる訳だ。俺の危険思想とやらを全面的に押し出してね。


 「彼らの最終的な狙いは織田さんに首輪を付けて、自分達の都合の良いように操りたいと思ってるんでしょう。愚かとしか思えませんが、支持者が一定数いるのも事実です」


 「自分達が反撃されないと思ってるところが面白いですよね」


 日本とは友好に付き合ってきたから、自分達は大丈夫だとでも思ってるんだろうか。日本人だろうが、アメリカ人だろうが処す時は処すぞ。


 「まあ、よっぽどの事がない限り、俺は何もしませんよ。関係ない人にまで被害を出そうとも思ってませんし、そこは安心して下さい」


 とはいえ、なんだかんだ俺は日本が好きなのも事実。馬鹿な奴らのせいで楽しくなってきた世界を壊すのはもったいない。


 俺がそう言うと、伊達さんと朝倉さんはひとまず納得して帰って行った。


 「まっ、とりあえず馬鹿な奴らの弱みぐらいは握っておくか」


 犀に色々情報を集めてもらおう。目障りになってきたら弱みをばら撒いて破滅させてやれば良い。


 どうせこんな馬鹿な事をしでかす奴の事だ。後ろめたい事の一つや二つあるだろうし、弱みを握るのは容易なはずだ。


 そんなこんなで犀にお願いしてから数日後。


 とうとうマークしてたハワイに見知った魔力の波長を捉えた。

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