「小説を、また書いてみようと思うんだ。」やはり彼の言葉は唐突だった。


「小説を書く難しさは理解したものだと思ってたよ。」


「それはもう痛いほどにね。」彼は少し肩をすくめた。


「文章を書くことはできても、面白いと思わせるように書くのはまた別の技術だ。そもそも、面白いことを文章にしないと誰も面白いとは思わない。」


「じゃあ、何がお前をそんなに突き動かす?」


「こいつさ。」彼は自分の胸を叩いた。


「俺の内にある物語が、その登場人物たちが、表現しろと叫ぶんだ。それに」


彼は一呼吸おいて、そして得意顔で言い放った。


「俺の人生という物語を面白くするには、主人公である俺の成長が不可欠だろう?」


「だから、書き続けるのか。お前にしては悪くない動機だ。」


彼は満足そうに笑った。


「どちらにせよ、俺の内の、俺が制御できない部分と向き合う必要があるな。……そうだ、次の小説のタイトルは『内なるもの』にして……」

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内なるもの 藤宮一輝 @Fujimiya_Kazuki

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