夢を探して
@momomi00
第1話
3月31日、俺、一ノ瀬直はここの屋上から飛び降りる。
フェンスから手を離した瞬間俺の体は落ちて視界が逆さまになる。ああ、これでようやく死ねる。長かった。
____________ 「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!!!!!」
は。
「いや、まって落ち着いて!!!早まらないで!!!まずは話し合いましょう??!?!大丈夫です!!今からでも遅くないですからぁ!!!!!」
「え、は?おい!」
気づいたら俺は落ちてたはずなのになんでか屋上に戻っていた。
素性の知らない女子に泣きつかれて。
「うわああああん!!!!!もうやめてくださいよ!!!ほんとに死んじゃうかと思ったじゃないですか!!!!!心臓に良くないですよ!!」
誰だよ、お前。つーか離れろ暑苦しい。
「え、ちょっと!!酷くないですか?!?私結構仲良くしてくれてたと思ってたんですけど!!」
あ、声に出てたか。
「悪りぃ、マジで思い出せねぇ。悪いけど名前教えてくんね?」
「ひどい!!こんなに泣いてる後輩の名前覚えてないんですか?!!」
え、なに泣き止んだと思ったら怒り出したわ。感情の起伏激しいなこいつ。
「あーもう仕方ないですね!!!!一回しか言わないんで、絶対覚えてくださいね!!私の名前は橘美桜です!!高校からの後輩ですよ!!!忘れないでくださいよね!!!」
「おう、さんきゅーな。じゃあ」
「じゃあ。じゃなくないですか?!!先輩また死のうとするつもりでしょ?!!!そんなな私嫌ですよ!せっかく助けたのに!」
「いやお前が勝手に助けたんだろ。ほっとけよ」
「無理です!だって私祭凛先輩に一ノ瀬先輩に何かあったらよろしくって言われてるんで!!私素直で純粋で優しい後輩なんで、先輩との約束を無下にはできないんですよ。」
は?こいつ今なんて言った…?祭凛だと?なんでこいつが祭凛のこと知ってんだよ。俺が知ってる限り祭凛にこんな後輩はいなかった。
「祭凛との約束ってなんだよ。」
「いやいや、それは私と祭凛先輩との約束なんで!!それを一ノ瀬先輩に教える義理はないですよー。」
「は?んだよ。大体なんでお前と祭凛が約束してんだよ。関わりなんなんだよ。」
「部活の後輩です!部活でいっちばん仲良くしてたんで、一ノ瀬先輩が間に入る余地ないんですよー」
「なんで後輩にそこまで言われなきゃなんねぇんだよ。」
「いやぁ、祭凛先輩とのことでは譲れないんで。一ノ瀬先輩より私の方がいいですよ」
「は?マジでなんだよ。」
「まあまあ、いいじゃないですかそんなこと!とりあえず、こんなところで話すよりどこかいきましょーよ!!!先輩、ね?」
「なんでお前が仕切ってんだよ。つかお前が人の邪魔したからこうなってんじゃねぇか。」
「あれ、そうでしたっけ?てかそうゆうこと言うならそもそも先輩が死のうとしてるからでしょ?!!私ただの善人じゃないですか!!人助けされといてなんですかその言い草は??!!」
はあ、まじでうるせぇこいつ。
「んで?お前と祭凛はどんな関係か詳しく教えて貰おうか」
屋上から俺らは移動してとりあえず近くのファミレスに来た。
「いやです!てかそれより先輩の飛び降りについて話し合いましょう!!!!」
「ばっ、お前黙れ!」
橘が大声で言うせいで周りの人がすごい目でこっちを見てくる…くそ、こいつばかじゃねえの。
「え?だって事実じゃないですか。さっき屋上から」
「あーあー!!もういいよとりあえずお前黙れ!!」
「えー、まあいいですけど。それで?先輩はなんで飛び降りしようとしたんですか?言ってくれるまで帰しませんからね」
それから俺は何度か話を逸らして橘から逃げようとしたが無理だった。気づいたら昼だったはずがもう夜になってとうとう俺が折れた。
「はあ、もういいよ。言う言う。だから言ったら帰せよ」
そしたら橘が笑顔になって
「ほんとですか!!やった!ありがとうございまーす!!い やぁ、私も疲れたんですよねぇ」
とか言ってきやがった。それならさっさと帰らせろよ。
「あ!先輩めんどくさそうな顔してますね?!もう、誰のせいでここまで時間かかったと思ってるんですか!!!!」
「お前のせいだろ」
「え!わたし?!」
いや、お前のせいだろどう考えても。
「まあまあ、とりあえず先輩も話し出す気が起きたし詳しく聞かせてもらいましょうか」
ほんとにこいつ腹立つな。帰ってやろうか。いや、帰ったらついてくるな。くそ
「はあ、わかったよ。話したら俺を帰してくれるんだろうな」
「もっちのろんですよ!!ちゃーんと先輩をお家に帰しますからねー!!」
「ちっ。一回しか話さねぇからちゃんと聞けよ」
祭凛と俺は親が学生時代からの親友でお互いに子どもが生まれたからよく会わせてた。だからいつの間にか俺と祭凛は当たり前のようにお互いの1番近くにいて家族みたいな存在だった。けど中2の時ぐらいに祭凛が俺に告白してきた。初めは信じられなくてけどそれ以上に嬉しくて。だから告白もOKしてそっからずっと付き合ってた。祭凛が高2でいなくなるまでは。
祭凛がいなくなってから俺は文字通り空っぽな人間になった。何をしても何かをしているという感覚すらなくただただ時間が過ぎるのを待っていて、楽しさも何もないまま過ごしていた。
俺が話し終わると橘は泣いていた。
「え、お前なんで泣いてんの」
「だって先輩、祭凛先輩のことすごく大事に思ってるじゃないですか!わたし先輩はもっとクズで祭凛先輩のこと遊びの女としか見てたいと思ってたからちょっと感動しちゃって…」
ひでぇ印象だな。
「だからわたし嬉しいです。先輩ちゃんと祭凛先輩のこと好きでいて。」
「そーかよ。」
「あ、でもそれで死んじゃったらダメですよ!」
きゅうに素直になったと思ったらちゃんと小言も言ってきやがったこいつ。
「つかよ、なんでお前、俺があそこにいるってわかったんだよ。誰にも言ってねぇんだけど。」
俺はずっと疑問に思ってたことを橘に伝えた。俺が飛び降りようとしていたのは祭凛とも俺とも何も関係がないビルの屋上だ。自殺するなんてとても人には言えないし、そんなこと言う相手は俺にいない。なのになんでこいつは気づいたんだ?
「えー、知りたいんですかー??気になるんですかー?」
「なんで焦らすんだよ。さっさと答えろ」
「焦らした方がちょっと面白くないですか??」
「ねぇよ」
「うわ即答。いいですよー。教えてあげます。先輩、パソコンに色々書いてますよね。祭凛先輩がいなくなった時からずっと。わたしこの前それを見ちゃったんですよ。あ、覗き見とかじゃないですよ?先輩が大学で落としたUSBをたまたま私が拾って興味本位でつけてみたらわかっちゃったっていうことです!」
「…は?おい待て、お前見たのかよ。ふざけんな、拾ったまではありがてぇけどなんでそっから見ようってなるんだよバカじゃねえの。」
やばい。情報量多すぎてツッコミがおいつかねぇ。ふざけんなよまじで。
「まあまあ、そんなに怒んないでくださいよ!先輩は恥ずかしいかもしれないですけど1人の命を救う行動になったんですから結果オーライですよ!」
「もういい。とりあえず見た内容は忘れろ。それで俺らの縁も終わりだ。」
そう、そうだ。ここでこいつとの縁を切ればいい。終わろう。
「え、いやいや待ってくださいよ!!私自殺を阻止するためだけに先輩に近づいたんじゃないんです!!」
「なんで急に焦り出すんだよ。つか今の話聞いてたらどう考えても自殺阻止のために来ただけじゃねえかよ」
「あ、いや、そうなんですけど!!そうじゃないんです!わたしほんとはもっとまともな用で先輩と話したかったんです!!」
まともな用?俺はこいつと関わった記憶ねぇし、祭凛と関わりがあったとしてもそれで俺に近づく意味あるかよ。
「なんだよまともな用って。もし碌なことじゃなかったら俺は帰るぞ。」
「さっすが先輩!懐が広い!!それで用っていうのは、祭凛先輩の願いをわたしと叶えて欲しいんです。」
橘は今までの雰囲気ではなく真面目な顔でそう言ってきた。
祭凛の…願い?祭凛は4年前にはどっか行ってるのに、今更なんの願いがあるんだ?
「訳わかんないって顔してますね。いきなり言われて納得はできないと思います。けど、嘘じゃないんです。祭凛先輩は一ノ瀬先輩とやりたいことがいっぱいあるって言ってました。それは学生の時だけじゃなくて、大人になってもたくさんやりたいことがあるって。先輩は聞いたことがないと思うから信じられないと思うんですけど本当なんです。」
そう語る橘の顔はとても嘘を言っているような顔じゃなかった。けどやっぱり信じられない。祭凛がそんなことを後輩に言うとは思えなかった。
「悪い、なんかまだ信じられねぇ。仮にお前の話が本当だとして祭凛が俺としたかったことって一体なんだ?そしてどうしてお前は今更それを祭凛の代わりに叶えようとしてる?さすがに都合がよすぎる」
「わたし祭凛先輩に言われてたんです。一ノ瀬先輩はきっと祭凛先輩がいなくなったら1人になるって。いつかきっと壊れてしまうって。だから、もしそうなったら祭凛先輩の代わりに私が一ノ瀬先輩と祭凛先輩の願いを叶えて欲しいって。先輩からしたら都合がいい話かもしれません。けどこれはわたしの意思ではなく、わたしがずっと前に祭凛先輩から託された祭凛先輩の意思なんです。だから先輩。もう少しだけ死ぬのを待ってくれませんか?祭凛先輩の意思を最後に叶えてから、それから死ぬのを考えてくれませんか。」
橘は少し泣いていて、でもすごくまっすぐ俺を見て語った。
「わかった、そこまで言うんなら信じるよ。それで?祭凛の願いって何だ?後輩にそこまで言わすんだったらよっぽどの願いなんだろうなぁ」
俺がそう言うと橘はさっきまで泣いていたくせに笑顔になった。
「本当ですか!?いいんですか!自分で言い出しといてですけど、こんな胡散臭い話信じてくれるんですか!!」
こいつの情緒どうなんってんだよ。さっきから泣いたり笑ったり忙しいな。
「信じるも何もお前が先に行ってきたんだろ。つ
か信じるもなにもお前が言ってきたんだろ。信じてくださーいって。」
「それはそうなんですけど!!やっぱりこういう話って信憑性がないっていうか易々と信じられることじゃないって言うか。あ〜よかった、先輩が優しい人で本当に良かったなー!」
こいつ、途中から棒読みなってんじゃねぇかよ。
「とりあえず先輩がオッケーってことで、話進めますね!祭凛先輩のやりたいことはいっぱいありまして、ノートになってるぐらいなんですよ。だから先輩とわたしのできる範囲でやりましょう。何からしたいですか?」
そう言って橘はカバンから一冊のボロボロになったノートを出してきた。
「なんだよ、それ」
「これが祭凛先輩のやりたいことが書かれたノートです。先輩はこの中から一つ選んでな祭凛先輩は願いを叶えてもらいます。それで終わったら感想もちゃんと書いてくださいね」
そう言って橘は俺に祭凛が書いたというノートを渡してきた。少し見てみると確かに祭凛の字でノートにびっしりとやりたいことが書かれていた。
「なんでお前がこれを持ってるのかも気になるけどそこは触れないでおくわ…ついていけねぇ。感想も書かないといけねえのはなんで?」
「えっ!えーと、それはーうーん…あ!そう、祭凛先輩に見てもらうためですよ!もしいつか祭凛先輩が帰ってきた時に一ノ瀬先輩はこんなことをしてこう思ったんですよーって祭凛先輩に報告するためにもやっぱりいると思うんですよ!!」
俺がふと疑問に思ったことを聞くとなぜか橘は焦った様子で言ってきた。
「なんでんな焦ってんだよ。」
「い、いやいやいや!全然焦ってないですよ!?ただそんな質問されると思ってなかったから驚いたって言うか!!だって先輩、祭凛先輩のこと帰ってくると思ってたんでしょ?だからすぐ納得するかなって思ってたんです!!!!」
帰ってくる。誰が?祭凛?確かに橘の言う通りだ。祭凛が帰ってこないなんて誰も言ってないし、そんな確証もない。なのになんで俺は祭凛が帰ってないなんて思ってたんだよ。なんで俺祭凛を信じてなかったんだろう。バカはこいつじゃなくて俺じゃねぇか。
「そう、だな。確かにそうだわ。祭凛がいつか帰ってくるかもしんねえもんな。よっしゃ、いいぜ。このノートに書いてあること片っ端からやっていこう。」
俺がそう言うと橘はまたすぐ笑顔になって喜び出した。
「ほんとですか!なにからします?祭凛先輩色々と書いてくれてて、しかも種類ごとに分けてくれてるんですよ!ほらほら!!」
確かにノートには細かく祭凛のやりたいことが書かれていた。しかもこれがしたいみたいな抽象的な願望ではなくここでこれがしたいと言っただいぶ具体的な内容でしかも大量に書いてあるから余計にノートがびっしりしているように見える。
「うわっ。まじで多いな…。とりあえず今からし始めるか?だとしたら簡単なやつがいいよな。」
「え!あ、いやいや今日はもう遅いですし、明日からにしません?!多分それ全部やっていこうと思ったらとんでもなく時間と体力が削れていくんで今日は最後にゆっくりできる日ってことで明日からやりませんか!」
さっきからなんなんだ…こいつ。最初から思ってたけど情緒不安定すぎんだろ。
「わかったよ、わかったから。明日からやる。こらでいいか?でも明日からやるにしても集合してから決めてたら時間なくなるだろうし、何やるかぐらいは今決めるぞ。いいな?」
「あー!確かに、先輩頭いいー。何しましょう、最初だから簡単なのからします?あ、バンジージャンプして叫びたい…これとかよくないですか?!」
「バカかよ!何が最初だから簡単なのにします?だ!最初から難易度高すぎんだろ!絶対もっと簡単で楽なのあるはずだろ。」
びびった…まじでバカじゃねぇかよこいつ。バンジージャンプとかしたくねえぞ。
「えーでも他のって言っても『日本でいちばん怖いジェットコースターに乗りたい』とか、『お化け屋敷で直の怖がってる顔をみたい』とかどう見ても先輩にはきついやつしかないですよ?」
なんでそんなピンポイントに人の嫌がるやつしかないんだよ。そう思って俺もノートを覗くと種類で分けてる題名みたいなところに「直が絶対嫌がるやつ」って書いてある。
「ふざけんなよ。祭凛にも文句言いてえがお前もなんでこんなところを見てんだよもっとあんだろ。……ほら、あんじゃねえか普通の」
少しページを戻すと『流行りの映画をみたい』や『深夜カラオケしたい』など俺が望む普通の願いがあって少し安心した。
「あははは、気づいちゃいました?やだなー、ちょっと先輩を揶揄おうとしただけじゃないですか。そんな睨まないでくださいよー。」
「やっぱり揶揄ってたな。んで結局なににする?普通に流行ってる映画でも見るか?」
少し腹は立つがもういちいち反応しない。めんどくさい。
「映画ですか、いいですね!!何見ます??最近流行りの映画わたしも見たかったんですよ!!!てことで明日は映画見てそこから…あ、カフェに行きましょう!祭凛先輩も行きたいって書いてるしちょうどいいですね!」
「おう、席とかは俺が取っとくからカフェは橘が調べろ。いいな」
「あいあいさー!のついでに先輩連絡先交換しません?その方が私としても都合がいいんですよ!」
そして俺らは連絡先を交換して解散した。
次の日、約束通り俺と橘は映画を見てその帰りにカフェに寄った。
「先輩、映画どうでした?正直言ってわたしすんごいつまんなかったんですけど、なんであれ流行ってるかわかります?」
「いや、わからん。何が面白かったのか教えてくれ。ほんとに意味がわからなかった。特に主人公ナヨナヨしすぎだろあれ。もっと真品なんなかったのかよ。」
「わかります。周りの人もなんですかあれ、見てて気分悪くなってくるんですけど」
そう。祭凛のやりたいことの1つ、『流行りの映画を見る』を達成するため、俺らは今若者に大人気!という煽り文句がある映画を見た。
ただ、その映画が思ってた以上につまらなかった。演技が上手い下手ではなくて、単純に話が途中からなんの話をしてるのかわからなくなるぐらいにはつまらなかった。
「先輩これ見てくださいよ!」
橘が見せてきたのは今見てきた映画の口コミだ。そこには
「違う意味で面白い」
「主人公嫌い」
「ヒロイン何したかったのか最後までわからなかった」
などなど到底、好評とは言えないおれらと似たような感想ばかりだった。
「…この映画の煽り文句よ、若者に大人気じゃなくて大不評の方が正しいんじゃねえの」
「そうゆうのでかでかと書くわけないじゃないですか。厳しいんですよ大人の世界って。たぶん」
「だろうな。けどここまで言われんのに変えねえのもすごいぞ」
「たぶん後に引けなくなったんですよ。初めは期待されてた分余計に」
その言葉で2人とも笑い合った。
それから俺らは何回も祭凛のやりたいことを叶えていった。(ちゃんとバンジージャンプもした)その度感想も書いて祭凛にまた会えた時一緒に笑いあえるよう一応色々考えた。
そんな生活をしてはや半年、ノートに書いてあることが終わる気配はないし、かと言って祭凛が帰ってきたという話もない。ある日、次は何をしようかとノートを見ている時、1番最後には何が書かれているんだろうとふと思って見てみた。そこには
「直が夢から覚めてくれますように」
と書かれていた。
いや待てよ、書かれていたじゃないだろ。なんで祭凛が俺が起きるのを願ってるんだ?なんでこれを祭凛は最後に書いてるんだ?そもそもこのノートはいつ書かれたものだ?
だめだ。1人で考えていても埒が明かない。今の俺に祭凛のことで頼りになるやつは1人しかいない。
俺は意を決して、ある人物に電話をかけた。
「もしもし?橘か?話があるんだ。今から近くの公園に来てくれないか?」
「もー先輩!こんな夜にわたしみたいな美少女を急に呼び出してなんなんですか!!すごいびっくりしたんですけど!」
急に呼び出したのに橘は応えてくれた。それがとてもありがたいとも思うが今はそれどころじゃない。
「悪い橘。どうしても今、お前に、確認を取らなきゃいけなかったんだ。」
俺の言葉に橘は驚くと言うよりはまるで覚悟を決めるかのような顔をした。
「わかりました。なんか真面目な雰囲気なんでわたしもちゃんと聞きますよ。」
その言葉に俺は少し安心した。そして軽く深呼吸をして橘に聞いた。
「祭凛のノートに『直が夢から覚めますように』って書かれていた。これはどうゆうことだ?俺は今、ここにいる。起きていてお前と話している。今だけの話じゃない、ずっとだ。祭凛がいなくなってからも俺は普通に生活してきた。なのになんで祭凛は俺に目を覚まして欲しがっている?そもそもいなくなったのは祭凛の方だ。
教えてくれ橘。祭凛がおかしいのか?それとも俺がおかしいのか?」
俺が思っていたことを橘に伝えると橘は少し嬉しそうで、それでいて悲しそうな笑みを浮かべながら俺に伝えた。
「よかった。先輩ようやく気づいてくたんですね。まず先輩の質問に答えてから話を進めましょう。一ノ瀬先輩がおかしいです。そのノートに書かれてあるようにずっと先輩は眠り、夢を見続けているんですよ」
橘は言い切った。なんの躊躇もなく。
「どうゆうことだ?眠り続けるって言ってもじゃあ俺が今起きている…いや、ずっと過ごしてきたのはなんなんだ?これも夢なのか?」
「まあまあ落ち着いて。ちゃーんと説明してあげますよっ。その前に今から簡単には信じられない話をしますね。いいですか?」
まるで子どもに教えるように、ゆっくりと橘は確認してきた。
「ああ、お前が突拍子のないことを言い出すのは今に始まった事ではないし、初めて会った時もだいぶ胡散臭かったからな。信じるよ。」
俺がそう言うと橘は嬉しそうに笑った。
「ほんとですか!嬉しいです!わたしと先輩の信頼度が上がったってことですねー。
まず、先輩が今生きている世界、これは先輩の夢です。信じられないかもしれないですけど4年前いなくなったのは祭凛先輩じゃなくて一ノ瀬先輩なんです。」
…は?どういうことだよ。俺は祭凛がいなくなる時まで一緒にいたのになんで俺がいなくなったことになってるんだよ。
「信じられないですよね。けど真実なんです。いえ、真実とは少し違うかもしれません。いなくなったというよりは先輩は事故に遭ったんです。4年前先輩は事故にあってそれからずっと眠り続けているんですよ。だからここは先輩の夢の世界です。」
事故に遭った…?俺が?それで眠り続けてここが夢だって?
「ちょっと待ってくれ…。信じられない、と言うより理解できない。仮にここが夢だとしてなんでお前はここに入ってこれてるんだよ。」
「ははっ、それは今から説明しますよ!ちゃんと。昏睡状態の人って日本だけでもたくさんいるんです。そんな人たちが眠り続けている原因1つとして『夢』が関わっているってことが最近わかったんですよ。そして、夢の中で亡くなった人は現実世界でも亡くなります。でも夢の中でこれは夢だと気づけた人は現実にもどれるんです。どうしてそうなるのかなどの理屈はまだはっきりと証明されていませんが、それでも原因がわかってる人達だけでも助けようってことで『夢士』って言う職業ができたんです。先輩が起きていた時にもこの話は出ていたんで少しは聞いたことあるんじゃないですか?」
確かに夢士という職業や昏睡の原因が夢とかそうゆう話が上がってたのも知ってる。でも俺がそうなってるなんて思いも寄らなかった。
「聞いたことはあるよ…けどじゃあなんでいまさら俺を起こしにきたんだ?」
「聞いたことあるんですね。よかった。なんでって言われましてもわたしはそれが仕事ですし、なんなら祭凛先輩に依頼された側ですからねー。あ、わたしと祭凛先輩と一ノ瀬先輩が同じ高校って言うのは本当ですよ?」
「そーかよ。わかったよ、んで?話の続きは?」
すると橘はキョトンとした顔をして
「え?ないですけど?」
「は?ないのかよ。続きあるみたいな言い方しやがって。」
「いや続きって言ってもわたしが今話した後の話は先輩と会ってからの話なんでもうないですよ。」
今度は俺が驚く番だ。いや、それより俺は先に確認することがある。
「…と、とりあえずお前の話を信じるなら、今俺はこれが夢だと自覚したから起きれるってことか?」
「そうですね!今から家に帰って寝てください!そして次目覚めた時はちゃんと現実に戻れます!よかったですねー。これで祭凛先輩も喜びますよ。すんごい心配してましたからー」
そう、橘はいつもと変わらない笑顔で言った。
「そうか、また祭凛に会えるのか、よかった。ありがとうな、橘。」
俺が感謝を告げると橘はまたキョトンとした顔をして笑い出した。
「あははっ!先輩感謝とか言えるんですね!それはわたしより祭凛先輩に言った方がいいですよ!それで夢での感想もちゃんと伝えてくださいね!」
「ああ、もちろん。」
「それじゃお休みなさい。先輩!」
「おやすみ。橘」
家に帰って俺はいつも通り布団に入って寝た。ただいつもと違うのは、起きた時を想像して、明日に期待を持って寝たことだ。
朝。目が覚めるとそこは部屋ではなくて真っ白いまるで病院の天井のようだった。
「!!先生!起きた!直が起きたよ!!」
そう言って叫んだ女性が見えた。光が眩しくてよく見えないがとても懐かしい声がする。
「ま…つり?」
俺の声がガサガサだ。きっとずっと寝てたからだろうな。
「うん、祭凛だよ。おはよう、直!美桜ちゃんもちゃんといるよ!!!」
そこには最愛の人が泣きながら満面の笑みを浮かべていた。
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