浮世知らず
小鳥の囀りや、子供がはしゃぐ声。
まるで平和の象徴のような音が、耳朶を擽る。
「ほら、白菊、起きなさいな」
懐かしく優しい声が、私の名前を呼ぶ。
そして、私は、あの術が成功したことを実感したのだった。
「……金蘭、姉様。私――」
「何寝惚けているの。早く帰らないと。また外で昼寝していたことを知ったら、母様も使用人たちも怒るわよ」
「……うん。日が暮れるまでに、帰らないとね!」
金蘭姉様に手を引かれ、私たちは草の生い茂る広い空き地を後にする。
屋敷からは少々遠いこの場所が、私たちの秘密の休憩場所になっていた。
この世界には、かつての世界のような強大な術も、獅子や狛犬も存在しない。
そのかわり、以前は決して許されなかった下町との関わりも、自由にすることができる。
ここにいる私たちは、狭い世界に生き、幼くても子供として生きることのできなかった強大な術師ではない。
浮世知らずな獅子と狛犬は、自由を得て浮世に生きる、純粋な子供たちになったのだ。
-◆◇-
私たちには、かの"囚われの狛犬"のような、国の命運をも変えてしまう強大な術は使えない。
けれど、もし強大な術を使うことができなかったとしても、あの若き術師は、伝説に伝わるのと同じような世界の変革を起こしたのではないかと、私は思う。
強い意志は、どんな困難をも乗り越える力を与えてくれる。
それを、これから術を学ぶ君たちには知っていてほしい。
浮世知らず 梣はろ @Halo248718
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