想の章
「起きてたの...」はっと現実に引き戻され慌ててスマホを伏せる。隣の布団でさっきまで寝ていたママがこっちを見ていた。「ふふっどうしたの?そんなに慌てて、可笑しな人。」ママは花咲くように笑いかけた。びくっと心臓がはねあがる。なんて罪のない笑顔。一体何人の男がこの笑顔に魅了されたのだろう。そしてママは何度その男に裏切られたのだろう。「大丈夫。」とだけこたえる。「なら良かった。」またも笑いかけると夢夢を見ているかのように穏やかに目細めた。
ママは気づいているのだろうか。
自分という荷物がいるから。容姿も性格もその他全てにおいて完璧なママの唯一の弱点。今まで誰も子供のいる女に本気で向き合おうとしなかった。父もだ。少女であるからこそ、価値があるのだ。実際ママは若い。僕との年の差は年の離れた兄弟と言ってもおかしくない。ママは綺麗な恋があると思ってる。自分がいるせいでママが求めている恋が叶わないのだ。自分が死ねばママは幸せになるのだろうか。また甘酸っぱい恋を謳歌できるのではないかと。だけど僕は知ってる。男をなくした女を。ママが連れてくるカレシはどことなく父に似ている。それは雰囲気だったり声や体格だったりするがやはりそのどれを選びとっても父のつぎはぎにもなり得ないのだ。ママはそれでも人を愛したかったのだろうかそれとも僕を愛したいのだろうか、でもそんなことはもう関係ない。あの日の業を背負って生きる。愛する人に当たり障りのない愛情を。そして結末を。
誰がための嘘 lower @ame_kakeru
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