狂の章

「よう、モテ男。」背中に軽い衝撃。

「やめろよ。」不機嫌そうに睨み付ける。友達だった。僕とは違って彼は活発で運動も勉強もそつなくこなし女癖の悪ささえなければと女子が言っているのをよく聞く。

「俺、多分いかない」

「おいおい冗談だろ?あーんなに雰囲気良かったじゃんかよ。まさかお前みんなの前で断ったら可哀想だからオッケーしたのか?」そいつは心底驚いたというふうにのけぞってみせた。「それ以外にある?」そんなことわかってる。だから敢えて横目で見ながら冷たくいい放つ。薄情とでも思われた方が楽だ。

「そっちの方が可哀想だろ。お前人を傷つけないことが善だとか思うなよ?」分かってる。「思うさ。大丈夫。俺にはあの女子を好きになる理由はない。」これは本当だ。

「いやわからんぜ。俺は現にこれで彼女がいる。だがな、ひとつ言えるのは男と女がいると絶対に垣根をこえる。」白い歯を見せて親指をたてる。「何だよそれ。ありえねー」はっとバカにしたように笑ってみせる。「怪物になるんだよ。」ドキッとし振り替えると睨まれた。ように一瞬見えた。「そんなんじゃいつまでたっても大人にならねーぞ。じゃな今日俺塾あるから」言葉を返す前に彼は片手をあげて走っていってしまった。遠ざかっていく背中にああ。とだけ返事した。


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