第10話

「それで? どうなったの?」

「お前の知る通りさ」

 

 私のおばあちゃんは、昔聖女だった。王宮に行って、たくさんの人を救ったらしい。

 王宮。その言葉を聞くたびに、胸が躍る。だから、正直不思議でならなかった。

 

「どうしておばあちゃんは、村に帰ってきたの?」

「それはね……」

 

 おばあちゃんは、そっと目を閉じた。

 

 リンゴの花の咲き乱れる下に、ティムは待っていた。私を見て、笑みを浮かべる。まるで昨日会ったみたいに。

 

「お帰り」

「奥さんは?」

「これから迎えるよ」

 

 ティムの下に駆け寄った。

 

「どうして?」

「だって――」

 

 ティムが私の頬をつつむ。

 

「あの人の涙をふけるのは、私だけだった」

 

 おばあちゃんの閉じた目から、涙が落ちた。手に持ったリンゴに伝う。

 

「いいえ、違うわね」

 

 おばあちゃんはふと窓の外を見た。おじいちゃんが埋められた、庭に……

 今日植えられた木は、いつ実をつけるのだろう。

 

「私が、あの人に会いたかったの」

 

 私はおばあちゃんの膝にそっと顔を寄せた。そして目を閉じる。夢を見るように……

 

「できるとか、できないとかじゃない。もう一度、リンゴの木の下で……あの人に会いたかったのよ」

 

 リンゴのあまい香りが、やさしく香っていた。

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リンゴの木の下で 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa

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