第9話
それから、私は王宮に戻り、いっそう精力的に働いた。
王妃になるソニアを助け、時に家々を訪問し、人を癒して回った。
そして、できる限り笑っているようにした。
今度は、ちゃんとここで生きるために。笑って、できうる限りの話をした。
ここに、ちゃんと根を張れるように。
三年がたち、五年がたち……十年がたった。
ソニアと陛下の間に子供が生まれ、私はその子のために祈った。
ソニアは、既に立派な王妃となり、また、聖女としても花開いていた。
それでも、二人は私の祝福を望んだ。
「マリーに祈ってほしいのよ」
「ずっと私達を支えてくれた、そなたの祝福こそ、われらの子に相応しい」
嬉しかった。光がおりる中、民衆がわあっと歓声を上げる。
歓声がうれしいんじゃない。私は、ここにいる。
ずっと頑張ってきたのだと、ようやく実感できた。
陛下とソニアに呼ばれたのは、その日の晩だった。
「ずっと、支えてくれてありがとうマリー」
「そなたを誇りに思う」
「もったいないお言葉にございます」
私は二人に頭を下げた。
「これは、あくまでそなたの意思を聞くための提案だが」
「マリー、あなたはこれから、どうしたい?」
「え?」
何度も咳ばらいをして、陛下が尋ねた。
「子が――次の世継ぎが生まれるまで、そなたを自由にすることは出来なかった。しかし、今ならそれが叶う」
「もちろん、私たちとしては、ずっとここにいてほしい。マリーが大すきだもの」
「だが、一度、そなたの言葉を聞きたくてな」
「マリーはずっと、恋しそうにしてたから」
「……!」
私は、二人に深く、頭を下げた。
そして、自分の気持ちを伝えた。
二人は、快く受け止めてくれた。
私は、部屋に戻り、荷物をまとめだした。
もう、きっと素敵な奥さんを迎えただろう。けれど、どうしても死ぬまでに、もう一度――。
私は見送られ、馬車に乗った。
向かったのは、あのリンゴの木の――
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