第8話


 王宮の報せが追ってきたのは、翌日の事だった。

 村は、すっかり病から立ち直っていた。

 私は、はじめて使者を迎えたあの日のように、家で使者の話を聞いた。

 ソニアが、陛下の妃になることが決まった。

 お妃教育で、忙しくなるから、至急帰ってきてほしいとのことだった。

 頼まれるでもなかった。

 私は、使者を見送り、外に出た。ティムが、リンゴの木の下に立っていた。

 

「行くのか?」

「うん」

 

 ティムは何も言わなかった。

 私は、ティムのもとへ歩いて行った。リンゴの木の下に。

 

「私にしかできないことだもの」

 

 前と同じ言葉……けれど、前とは違う気持ちだった。

 ティムは、私を抱きしめた。私は頬をすり寄せる。このぬくもり。

 

「オレは、ここで生きる。それがオレの道だから」

「うん」

 

 私は目を閉じる。リンゴのあまい香り。ティムのあたたかな鼓動。

 今度は、すべて連れていく。二度と忘れない。

 

「素敵な奥さんを、迎えてね」

 

 私の頬に、伝った涙は、どっちのものか、わからなかった。 


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