第9話

 栄太と歩いているとき、紫とすれ違った。

栄太が一瞬気まずげにしたので、私の中で、紫への怒りが再燃して、紫を凝視させた。

 その時、目に入った。

 紫の鞄についた、キーホルダー。

 一年の遠足に行ったとき、おそろいで買った……。


 わき上がった感情の波は、何なのだろう。

 ただ私は、通り過ぎる紫の腕をつかんで、強くつかんで、


「好きだよ」


 と、言いたくなった。


「ねえ、今でも大好きだよ」


 言って、紫のきれいな目を見て、そうして、泣き出してしまいたかった。

 けど、それは叶わず、紫は過ぎ去っていく。

 栄太が、その後ろ姿を、目を細めてみる。私は、栄太の手を握った。

 同じ痛みを持つ戦友――栄太は私の肩を抱いた。

 紫が、廊下の突き当たりの角を、曲がって消えていくのを、見送る。

 もう、すべてがばかばかしい夢想だった。

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好きだよ。 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa

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