第8話

 紫はずっとああして、生きていくんだろう。自分がどれだけ人を傷つけるか、知りもせず……。

 それは許し難かった。紫は、紫の為にもそれをわかるべきだった。

 皆で、紫の無視をした。


「うっざ」


 ある時は、紫が通り過ぎると、口々にささやいた。それについては、どうかとも思ったけど、止めきれなかった。紫は傷つかなくてはならない。

 友達の一人が紫の足をひっかける。転んだ紫を、笑った。


「ほんとじゃまだよね」

「消えてほしい」


 紫は、何も言わず、起きあがって、スカートを払った。そしてくるりと振り返り、


「なんかごめんなさい」


 と言って去っていった。

 頭にかっと血が上った。


「なにあれ」

「まじ頭おかしいんじゃないの」


 友達の顔も赤い。


「こえー」

「桑原さんも災難だな」


 クラスの男子が、ささやいていた。

 何もわかってないと思った。本当に人を傷つけているのは、紫の方なのに。

 私達が、どれだけ攻撃しても、紫は終始無関心だった。


 私達は止まれなくなっていたけど、空回りする自転車みたいに、空虚で……だから、クラスが変わって、紫と離れると、皆どこかほっとしていた。

 でも、私はまだ忘れられなかった。

 だって、私が見ていないと、紫はまた誰かを傷つけるから。だから、どれだけ傷ついても、やめるわけにはいかなかったのに。

 でも、本心ではもう疲れ切っていた。もう戦うのはやめたかった。相反する気持ちに、いつも私は宙ぶらりんだった。


 廊下で紫とすれ違う。そのたびに、私は悔しくて、悲しかった。

 でも、もうだんだん怒ることはできなくなっていた。悲しいことに、物理的な距離は私を救っていた。

 私はずっと、紫にできる限り、不幸になってほしかった。でも、思い知ってほしいだけだから、取り返しはつく程度で……


 私は、紫にただ、わかってほしかったのだ。


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