第7話
目を開く。
エルガとジアンは、赤土の上に仰向けに寝転んでいた。固く握った主の手を、ジアンは確かめ、それから辺りを見渡す。
向こうに、森が見える。
歪を越える前に、通ってきた森だ。
「おお……わが隊だ」
エルガが、遠くを仰ぎ見て感嘆する。兵士たちの群れが見えた。
戻ってきたのだ。朝焼けは眩く、目に染みた。
黄色に染まりゆく世界に、夢は溶けてゆく。
彼は、また一人で、あの城にとらわれ続けるのだ。
永い夜と、一瞬の忘却の朝を繰り返して――……
『私にしか、できないことだったから』
愛した主と、己を同化させて、ずっと……。
「ハバルよ、安らかに眠りたまえ」
右肩に手を置き、エルガは祈っていた。
エルガは、何も知らない。しかし、知らない者の心からの言葉が、ときにどれほど強い優しさを放つかを、ジアンはよく知っていた。
「ジアンよ、俺は忘れぬ」
朝焼けを背負い、エルガは真剣な顔で言った。
「彼の心と、俺は共に生きよう」
あどけなさの残る頬に、一筋の涙が伝う。
「ようございます」
ジアンは手を組み、一礼した。
「うむ! では戻ろう」
エルガは大笑し、槍をかつぎ歩き出す。ジアンは後に続いた。
「腹が空いたな」
「果実がございました。用意しましょう」
「よいな! お前も食べろ」
エルガのしっかりとした足取りを、見ながら、ジアンは思う。
(私は何があっても、この方から離れまい)
風が吹く。亡き者たちの夢を歌うように。
森に続く、二人の確かな足跡を、舞う砂が優しく撫ぜていった。
亡者の夢は、砂中に眠る 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa
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