わたしが増えた。私は規制した。だから、私はわたしを処分した。

氷菓 霙

わたしが増えた。私は規制した。だから、私はわたしを処分した。

サイレンが鳴り響く夜。

1人の検察官が2階建ての一軒家に足を踏み入れた。

「いやぁ、酷いものですな。」

机が横たえられ、ガラスは割れ、書類は散乱している。

そんな中を検察官はズカズカと慣れた手つきで進んで行く。そして、ある一室の前で立ち止まる。

「ここか...」

その部屋のドアには、可愛い字で『』と書かれた看板が取り付けられていた。

検察官は、おそるおそる、あるいは、証拠を消さぬよう。ゆっくりとそのドアをあけた。

中には、他の家具が散乱しているにも関わらず、驚くほどに綺麗に勉強机が配置され、その上にはたった1冊のが置かれていたのだとか...

それを見つけた検察官曰く、

わざと『』に置かれていたようで、気味が悪かった...と。


あいの日記

9月1日

なつやすみがおわった。

ひさしぶりにみどりちゃんとあそんだ。

でも、いつもみたいにわらえなかった。

きんちょうしてたのかな?

あしたは、もっとあそんでいっぱいわらうんだ!


9月2日

しっぱいしちゃった。

みどりちゃんとけんかした。

きのうよりうまくしゃべれなかった。

きょうはもうねる。

あしたはがっこうにいきたくないな...


9月3日

おきてびっくりしちゃった!

わたしのまえにわたしがたってたの!

かみがたも、かおも、みんないっしょ!

わたしが「がっこうにいきたくない」っていったら、かわりにいってくれた!

やさしい!


9月4日

ふたりめのわたしはとってもやさしいの!

でも、なにをかんがえてるのかわからない。

おとな?みたい。

これからはいっしょに、にっきかくの!

きっとこれでだいじょうぶ。



次の日から、日記は2段に分かれた。

きっと2が出たんだろう。



9月5日

いつもはゆうがたにいつものベットでおきるんだけど、きょうはちがった。

ちょっとはやくおきれた!

いま、ふたりでにっきをかいてるのに、ふたりめのわたしのにっきはの。

ふしぎ〜


今日もが学校に行かされた。

みどりに虐められた。過去にが何をしたかなんて、分からないのに。

先生に「いい加減、宿題をだせ。」と怒鳴られた。そんな物、は知らないのに。

あれもこれも全て、△▲のせいだ。

でも、この生活を続けるしか、に道はない...


9月6日

▷▶︎◀︎◁のかえりにねこをみつけたの!

かわいかったんだけど、きっと、もってかえると、ママにおこられちゃう。

だから、こっそりみるくをあげた!

あしたもあげる!


▷▶︎◀︎◁の帰りから、記憶がない。

気がつくと、手が汚れていた。

きっと△▲が起きたんだ。

そうだ!ルールを作ろう。

なルールを。


9月7日

ねこにみるくをあげたかったけど、あたまがいたかったからやめた。

ねつでもあるのかとおもったけど、ちがった。

くしゃくしゃなおとがするの。

あしたは、おいしゃさんにいかないといけない。

こわい...


上手くいった。

私の▼じゃないのなら、いっそ、誰も幸せになんてさせない。

逃げた△▲が悪いんだ。

絶対許さない。

△▲はもうを用意しよう。

さようなら。


9月8日

△▲はもう居ない。

△▲が可愛がっていた猫は真っ赤にした。

△▲が要らないのだから、△▲が可愛がっていた猫もきっと要らない。

要らないは処分する。

必要なだけで十分だから。

代わりの▲▼は使えるかな。


初めて▷▶︎◀︎◁に行った。

みどりがずっと▲▼のことを笑ってた。

先生は▲▼のことをずっとにらんでくるの。

なんでだろう。


9月9日

▲▼がと同じことを出来ないようにルールを作らないと。

感情があるは要らない。

そうだ、を作ろう。

それで全て解決する。

これでだけの世界になる。

規律が守れないは粗悪品だ。

それが出来るだけを集める。

粗悪品は処分する。

今日限りで、この日記も終わる。

じゃあね。


今日もに学校に行かされた。

みどりに虐められた。過去にが何をしたかなんて、分からないのに。

先生に「いい加減、宿題をだせ。」と怒鳴られた。そんな物、は知らないのに。

あれもこれも全て、△▲のせいだ。

でも、この生活を続けるしか、に道はない...


この日で日記は終わっていた。



10月1日、笠無かさなしさん小学4年生。自らの母を殺害した罪で逮捕。での犯行であったことは、現場検証により、明白。

殺害したことは認めるも、単独犯であることを否定。

「私と私で殺したの。」

と発言していた。精神に異常をきたしている可能性を鑑みつつ、捜査を続けると警察は発表した。

動機を聞かれた際、あい容疑者は

「母がだと気づいたから」

と発言していた。

と記された新聞が後にが広められた。

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わたしが増えた。私は規制した。だから、私はわたしを処分した。 氷菓 霙 @Mizore74

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