こゆきとのぞみのお悩み相談室~夜空に咲く百合花火編~
地崎守 晶
「こゆきとのぞみのお悩み相談室~夜空に咲く百合花火編~」
『綺麗な花火……』
「と来たら、きちゃない花火も出さなあかんなあ」
「アンタ、ふざけてるワケ?」
原稿を読むなり、にやにやして妙なことをのたまう小雪をじろりと睨む。
「わざわざ相談しに来てくれたんだから真面目にやんなさいよ」
「小雪ちゃんの小粋なジョークやんか
相談者の、漫研部員の女子大生、春咲
小雪の立ち上げた二人きりのサークル『こゆきとのぞみのお悩み相談室』の活動。
大学の近くのカフェで今回受けた相談は、恋愛漫画の展開に迷っているということだった。
「それで、ヒロインの『綺麗な花火』ってセリフの後の展開がどーしても思いつかないんです」
頭から煙が出そうな様子で、彼女は俯いた。聞けば、今日明日にはネームを切らないと間に合わないのだそうだ。
「この後の展開ね……ヒロインのセリフを聞いて男はどうするか、よね……
『キミのほうが綺麗だよ』、とか……?」
わたしが首を捻りながら口に出すと、隣でアイスコーヒーに口をつけた小雪が口に手を当ててなにやら必死にこらえる仕草をしてから、音を立てて飲み下した。
「ぷっは!!
あー、吹きだすトコやったわあっぶな、くるしー……。急に笑かさんといてのぞみちゃん。ベッタベタなセリフやないの。あー、さてはそーいうシチュ憧れなんやな~?」
瞬く間に満面のにんまり顔になってこちらの頬をつついてくるので、わたしは顔をしかめる。
原稿に向けて吹き出さないようにと配慮出来るクセに、こういうとこはウザい事この上ない。さんざん不満を言いながらコイツのやることに結局付き合ってしまうわたしもたいがいだけど。
「あ、あの……」
ポカンと口を開けるはるもみさんに、慌てて意識を切り替える。
「あ、ごめんなさい。コイツにも真面目に考えさせるから。ほら、笑うならアンタもアイデア出しなさいよ」
小雪を肘で小突きながら言うと、ヤツはムダに整った顎にわざとらしく手を当てた。
「ん~そうやなあ。ウチらはシロウト、ここであれこれ言うたかて限界あるやろし。
ホンモノ見てから考えへん?」
いきなりそんな事を言っても都合よく花火大会なんてやってるわけがない、と思っていたのに、小雪は何本か電話をかけたかと思うと「ほないこか」と言ってのけた。
知り合いの花火師の打ち上げ試験を見学させてもらえることになったということだけど、毎度のことながら小雪の人脈はいったいどうなっているのか、謎が深まるばかりだ。
というわけで、私達は晩夏の夕暮れ、とある湖のほとりにいた。なんとも手際のいいことに人数分の浴衣やらりんご飴、果ては綿あめ製造機まで用意してきた小雪に呆れながらも、ありがたく試作花火の打ち上げを待つ。
ひゅるひゅる、と上がってきた六尺玉が弾けて、大輪の花が開く。遅れておなかに響く音。
他に人がいない中見上げる花火はとても迫力があって、そして綺麗だった。
「ほら、のぞみ。『……綺麗な花火……』って言わんの?
ウチが『キミのほうが綺麗だよ』言うたるから、顎クイつけて」
言いながら、顔を覗き込んで顎に伸ばしてくる指をはたいて睨む。
ウザったい笑顔を向けてくる浴衣の小雪。いつもは下ろしている髪を二つのお団子にしている。花火のきらめきを反射する瞳に、妙に引き込まれてしまうから、意識して顔をつんと逸らした。
「……誰が言ってやるもんですか、さんざ笑ったクセに」
暗いから、赤くなった頬は分からないだろうけど、綿あめで視線を遮った。
「あ、あの、お二人とも……!」
「お、どしたんなんかひらめいた?」
はるもみさんが、意を決したように口を開いた。
「はい……! 閃きました!
お二人を、漫画のモデルにさせてください!
ぜったい綺麗な百合の花火が咲きますからっ!!」
まくしたてて、頭を勢いよく下げる彼女に、
「お、ええなぁ」
「……へ?」
間抜けな反応をしたわたしの頭上で、ひと際明るく大きな花が咲いた。
こゆきとのぞみのお悩み相談室~夜空に咲く百合花火編~ 地崎守 晶 @kararu11
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