第七章 真実
大和と恋人同士になってから、もうすぐ一か月が経つ。せっかくの記念日だから何かしたいと伝えたら、旅行に行くことになった。
二人で外泊するのは、学校の行事以外だとこれが初だ。
何処に行くか話し合わないと!
「という訳で、どこに行きたい?」
「わざわざ緊急事態って嘘ついて、ウェスターに呼び出した理由はそれか?」
大和に真尋兄さんが緊急事態だと嘘を吐いた。そうでもしないと、来てくれないと思ったから。大和は私よりも講義と課題が大変そうだから、お願いして呼び出すのはまだ勇気がいる。
「だって、来てくれないかなって……」
「言ってなかったっけ?俺はいつだって美鈴が一番なんだよ。普通に呼んでくれたら、すぐに駆け付けるから」
なんで普通に言えるの。私は恥ずかしくて仕方がないのに。
大和は付き合ってからというもの、なんでも言葉にしてくれる。特にかわいいと言われる頻度が高くなった。食べたり、何かを見たりしていると、すぐに言う。やめてと言うと、事実だから無理と断られる。
褒められて悪い気はしない。だけど、言葉が軽く感じられるから本当に思っているのか疑ってしまう。
「わかった……ごめん」
「別に問題がなかったなら、それでいい。美鈴は行きたい場所ないのか?」
「京都と奈良に行ってみたい」
大和は予定を確認して頷いた。
記念日はちょうど長期休みに入ってすぐだから、少し遠くても平気だし連泊できる。
「せっかくだから二泊三日くらいするか」
「うん。課題だいじょうぶなの?」
「大体終わってるから平気」
スイーツと紅茶を楽しみながら、旅行の計画を立てた。二日目に記念日を迎えることに決まったが、何処で過ごすかが決まらない。
私は清水寺と平安神宮のどっちかがいいけど……大和は何かあるのかな。
「俺さ、清水寺行きてぇ。でも、二日目なら平安神宮にして美術館とか行きたい気もする」
同じ場所行きたいんだ。良かった。
「私もその二か所行きたい。この時期なら夜間も拝観できると思うから、夜に清水寺行くのはどうかな」
「それいいな。そうしよう!」
そこからは、すんなりと予定は決まっていった。ホテルの予約も済ませ、あとは行くだけになった。
こんなにも淡々と事が進むとは思わなかった。
いつも通り家まで送ってもらった。家の前で大和が申し訳なさそうに
「しばらく会えない。研究の準備とかで忙しくなるんだ」
「そうなんだ」
私が一番。そう言ってくれても、成績の為となると私は負けちゃうのか。
私の心を読んだのか、大和は頭を撫でながら
「電話かけてもいいか?夜になるけど」
「うん!待ってる」
大和は額にキスを落として帰って行った。
この別れのキスにも、少しずつ慣れてきた。心臓がすごくうるさいけど。
本当に大和は忙しいらしく、メールを送っても返事が来るのは深夜だった。それでも空いた時間を見つけて、電話してくれた。
恋人になってから、一番と寂しく感じる期間だった。
そしてついに旅行前日を迎えた。
大和が昨日の電話で、準備が終わったから今日は家にいると言っていた。そして私は今、大和の家の前にいる。アポなし訪問はどうかと思いはしたけど、会いたい気持ちが勝ってしまった。
嫌がられるかな。
不安に思いながらインターホンを押す。ところが、いくら待っても応答がない。別の不安が押し寄せてきた。玄関の扉を押してみると鍵がかかっていないらしく、すんなりと開いた。
無断で入るのは微妙だけど、いろいろ考えてる場合じゃない。
心の中で謝りながら入り、リビングに行くと床に倒れた大和がいた。
「大和、だいじょうぶ⁈」
体に触れてみると、体がほてっていた。どう考えても熱がある。
名前を何度も呼ぶと、苦しそうな瞳と目が合った。
「……美鈴?なんで」
「インターホン押しても返事がないし、玄関の扉開いてたから。びっくりしたよ。ベッドまで行ける?」
「いや、ソファでいい」
大和をソファへ横にさせ、近くに落ちていたブランケットを一先ずかけた。
「明日、ダメになったらごめん」
「いいよ。大和が元気なのが一番だもん」
安心したのか、大和は眠りについた。
キッチン使っていいかな。
大和は一軒家で一人暮らしをしているから、家事全般が得意なのは知っていた。でも、ここまで充実したキッチンだとは知らなかった。
お粥を作りながら、他の家事も着々と進める。だいぶ研究の準備が忙しかったらしい。洗濯物が溜まっていたし、ゴミ箱も溢れかえっていた。
お粥が出来上がった頃、匂いにつられたのか起きたらしい大和がキッチンに現れた。
「いい匂いだな」
「もう平気なの?」
「寝たらスッキリした。たぶん明日の朝には治ってる。だから旅行は行ける」
「無理してない?」
「してねぇよ。それに、俺も楽しみにしてたんだから、止めないでくれ」
絶対に無理はしないという約束で、旅行には予定通り行くことになった。ただしスケジュールは少しゆっくりめにした。
生きていれば、いつだって行ける。それに大和がいれば、どんなくだらない時間だって楽しくなる。
眠る大和の唇にそっと唇を重ねた。
バレたら怒られるだけじゃ済まないかな。でも、やられっぱなしは性に合わない。
「明日、楽しみだね」
小さく呟いて眠りについた。
きみがいれば、私はそれだけでいいんだ。
きみがいれば 岬 @misaki-130
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