第330話 俺の選択肢にレースをやらないは存在しない

 アザトースやロキとの戦いから1年が経った日、恭介は屋敷の書斎で各国の政府に向けてスピーチを行っていた。


「地球の皆さん、こんにちは。高天原の明日葉恭介です。本日はクトゥルフ神話の侵略者達との戦いが終わった日から1年が経ったため、改めて戦争が起こらないよう釘を刺すためにこの放送を行ってます。必ず最後まで聞いて下さい」


 クトゥルフ神話の侵略者達との戦いが終わってから、ロキが消滅したことでルーナの力も弱まり、世界を国境で区切る結界は消滅した。


 デスゲーム参加国のパイロット達は、ゴーレムに関する知識を得た状態で各国に戻されていた。


 結界がなくなったことで資源に困ることはなくなったが、ルーナ経由でしか手に入らない貴重な物もあり、それを保有している国と保有していない国では立て直しのスピードが全然違った。


 日本の場合、それらの資源を国外に持ち出すことは一切禁止され、国の立て直しと発展に使われた。


 世界の覇権が日本に移り、それを良しとしない大国はパイロット達の知識と記憶を頼りにゴーレムを作成し、密かに日本を攻撃した。


 ところが、日本のオルタナティブシリーズにあっさり撃退され、日本に仕掛ける国は現れなくなった。


 日本が駄目ならば、資源を持っているそれ以外の国同士が戦うようになり、あれこれと政治的妥当性を主張して地球で戦争が始まった。


 それらの国は日本に味方してほしいと頼んだが、日本は中立の立場でどちらにも手を貸さないと告げた。


 その結果、争いが争いを呼んで戦争は泥沼化し、ルーナが全盛期程の力を発揮できないから、代わりに恭介達が立ち上がる羽目になった。


 戦争を終わらせるため、高天原は地球から独立して地球を監視し、戦争があれば武力を持って鎮圧すると宣言した。


 恭介の実力は各国の知るところだったので、目を付けられたくない国々は大々的な戦争を止めた。


 それからは定期的に高天原から地球に向けてスピーチを行うようにして、もしも平和を乱す国があれば実力行使で鎮圧した。


 今日はクトゥルフ神話の侵略者達との戦いが終わった記念日だから、恭介としてはくだらない戦いを始めてロキみたいな悪者に好き勝手させないよう釘を刺している。


「地球には馬鹿なことを考える人がいるみたいで、国民の暮らしをそっちのけで兵器を造る政府がありました。勿論、ミサイルを撃って来た時点でこちらとの実力差を徹底的にわからせましたが、その後も細々とした戦闘を行ってると報告を受けております。皆さんはそんなに戦いたいんですか? 体が闘争を求める民族か何かなんですか?」


 恭介からすれば、自分以外の瑞穂クルーも出動して戦いを鎮圧させられているから、こんなことはできればやらせないでほしい。


 強大な力に潰されても抗う者達は一定数いるから、恭介はわざと煽るような言い方をして訊ねる。


 このスピーチを遮れる者はいないため、恭介は今日のために準備した物を発表することにした。


「こちらが捻りつぶしても戦おうとするから、高天原から地球の各国に戦争を起こさせないようにするために準備を整えました。皆さんは『Golem Battle Online』を知ってますよね? 戦うならあれで戦って下さい。アップデートをした結果、国を跨いで対戦し、勝っても負けても資源が報酬として貰えるようにしました」


 無論、勝った方が資源を多く貰えるし、負けたら貰える資源の量は少ない。


 この措置はルーナの力と恭介の時空神の権能、麗華の商売神の権能を使って実行に移した。


 簡単に言えば、実際に兵器を使って戦うのではなく、eスポーツで競うようにと告げたのだ。


 eスポーツなら死者が出ることはないし、遊びで報酬として資源が貰えるのだから悪い話ではない。


 わざわざ人が死ぬ選択をする国はいないだろうから、この取り組みで世界を平和にしようと恭介は本気で取り組んでいる。


 (地球の時よ、巻き戻って結界を再展開せよ)


 恭介が念じた瞬間、地球の時間が部分的に巻き戻り、過去にルーナの展開した国境の結界が再び展開された。


「ちなみに、国境の結界は再び展開させてもらいました。本当はこんなことをするのも面倒なんですが、おとなしくGBOで戦わない国も出て来る可能性があったので一律で結界が展開されてます。悪く思わないで下さいね」


 例外を作るとそれが起因して新たな問題が生まれるから、地球は再び国をまたいだ移動ができなくなった。


 貴重な資源が欲しければGBOをプレイするしかないし、戦いたい者もGBOをするしかない。


 ここまでやれば、各国も恭介が本気だとわかったから、恭介の定めたルールに則ってGBOをプレイすることになった。


 スピーチの最後に質疑応答の時間を設け、その回答が終わって放送を切ったところで恭介は盛大に溜息をついた。


「はぁぁぁぁぁ。疲れた…」


 スピーチが終わったことを察し、書斎のドアをノックして麗華が中に入った。


 麗華が来たことに気づき、恭介は一緒にソファーに座ろうと手招きした。


 麗華はそれに応じて座ると、恭介に話しかける。


「お疲れ様。大変だったみたいだね」


「まあな。なんで俺がルーナみたいな立ち回りをしなきゃならんのかって思ったけど、デスゲームを開催する訳じゃないし、いちいち戦闘を止めに行くのもめんどいからこれで解決してくれって話だ。恭華きょうか日向ひなたは?」


 恭華と日向とは、去年恭介と麗華の間に生まれた双子の姉弟である。


 初孫が双子ということで、恭介と麗華の親は大喜びで世話をしている。


「ついさっき昼寝し始めたから、今はぐっすり寝てるね。恭子さんとお義母さんが面倒見てくれてるよ」


「そうか。あんまり育児面で力になれなくてごめん」


「しょうがないよ。時間があれば率先して手伝ってくれてるんだから、思いつめないでね」


 ルーナの仕事をメインで手伝っているのは恭介だから、そのせいで麗華の育児を中々手伝う暇がない。


 恭介も自分の初めての子供だから2人のことを気にしており、時間がある時に育児に協力しているのだが、忙しくてなかなか思うように協力できていない。


 その分だけ恭子と麗美が張り切っているから、麗華はなんとか恭華と日向の面倒を見れている。


 疲れている恭介が精神面でも追い込まれては申し訳ないと思いつつ、麗華にも仕事で忙しい恭介にスキンシップをしたい気持ちがあるから、恭介の頭を強引に自分の太ももの上に乗せて膝枕する。


「麗華さんや、いきなりどうしたんだい?」


「恭介さんを労うついでに、私も恭介さんとイチャイチャできるから膝枕してるの」


 恭介が無言で麗華のされるがままになっていると、タイミングを見計らったかのように書斎のドアをメイド服姿のルーナが開けて中に入って来た。


「恭介君がバブみを感じてオギャってる気配がして来たよ! おっ、これはまた随分とオギャってるね!」


「麗華に強引にされただけなんだが」


「私が恭介さんを甘やかしたくてやっただけよ。それで、用件は? 花瓶でも割った? それならさっさと元通りに直しなさい」


「辛辣辛辣ゥ」


 恭介はツッコむのが面倒で軽く否定し、麗華は2人きりの空間を邪魔されて不機嫌そうにルーナに指示を出した。


 ルーナはまだ神だけれど、全盛期に比べてその力は落ちてしまったから、自分の神域に引っ込むのを止めて恭介の屋敷にメイドとして住み込んでいる。


 アルファ達メイド型アンドロイドに指導され、今ではそこそこちゃんとしたメイドになっているので、麗華が言ったようなミスをすることはない。


 麗華の言葉に辛辣だと返すルーナだが、その表情はとても楽しそうである。


 今の生活をルーナは気に入っているから、雑に扱われても凹んだりしないようだ。


「ルーナ、さっきのスピーチに何か問題でもあったのか?」


「問題は何もないよ。各国ともおとなしくGBOにチャレンジしてるからね」


「じゃあ、ルーナの用事ってのはなんだ? まさか、俺達を揶揄うためだけに来たんじゃないだろ?」


 メイドである以上、屋敷の持ち主である恭介と麗華を揶揄うためだけに来たとなれば、アルファ達に教育的指導をされてしまう。


 それゆえ、恭介はルーナにちゃんとした用事があるだろうと思って用件を訊ねた。


「GBOと連携したシミュレーターに新たなレースを追加したんだけどやらない?」


「俺の選択肢にレースをやらないは存在しない」


「恭介さんがやるなら私もやろうかな。子供達はお母さん達が面倒を見てくれてるし」


 恭介がすっかりやる気になっているので、麗華もそれに付き合うことにした。


 世界の平和に向けて色々と動くゆえに大変なことも多いが、恭介達は今の生活を楽しんでいるし、これからも楽しんでいくことだろう。

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Golem Battle Online ~俺がゴーレムだと名乗れる世界はデスゲームだった~ モノクロ @dolphin26

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