第329話 説明する義理も価値もない。お前は訳もわからずやられて終わるだけだ

 消えたり現れたりしているアザトースだが、痙攣が止まるのと同時にその体が膨張し始め、そのままパーンと派手に音を立てて弾けた。


 それで戦いが終わったと思いきや、アザトースの体内にいたらしいパンクな見た目の存在が現れた。


 紫の髪の毛は逆立っており、唇や耳にはピアス、服装はピエロとバーテンダーを足して2で割ったようなもので、この場で明らかな異彩を放っている。


『私、復活!』


『うぇっ、ロキ様!? なんでここに!?』


「黒幕がロキって展開か?」


『考え付く限りで最も最悪な展開だね』


 ドライザーとシグルドリーヴァのモニターに現れたルーナは、恭介達の前に現れた存在をロキと呼んだ。


 それを聞いて恭介も麗華も顔を引き攣らせていた。


 ほぼ確実に碌でもない理由でロキがここにいると思ったからだ。


『ふぅ。やっとアザトースの中から出て来れた。感謝するよ、君達』


『ロキ様、なんでまだ生きてるんです? 地球上の神々と一緒に消え去ったはずじゃなかったんですか?』


『おやおや、その声は私の巫女ルーナじゃないか。私はね、他の神々を消し飛ばした後に復活できるようアザトースと契約してたのさ。ところが、アザトースは私が弱ってるのを良いことに契約を踏み倒し、私が復活する術式を喰らって自身の腹の中の異空間に閉じ込め、私の力を自分の物にしてたんだ。君達がアザトースを追い込んでくれたことでアザトースの力が弱まり、私はこうして復活できたという訳だ。ありがとう』


『自分だけ助かるためにクトゥルフ神話の神と手を組んだんですか? 控えめに言ってド畜生ですね』


 (ルーナですらドン引きさせるあたり、ロキのことは絶対に理解できないな)


 恭介はルーナとロキの話を聞いてそのような感想を抱いた。


『私の巫女なのに私の味方をしてくれないとは酷いじゃないか。昔はロキ様ロキ様って慕ってくれたというのに』


『一体何百年前の話をしてるんですか? 私がこれまでにして来た尻拭いを考えて下さい。それが想像できるなら、ロキ様を慕うなんてことは絶対にあり得ません』


『…ふむ。察するに、地球上の神々が消えたから、クトゥルフ神話の侵略者達と戦うためにこれらのゴーレムを用意したようだね。なるほど。私の予定してた未来が訪れた訳じゃないけど、これはこれで大変興味深いね』


『ロキ様が予定してた未来ってなんですか?』


 賛否両論あるだろうが、自分が人類に手を貸さなければ人類にどんな未来が訪れるとロキが予想していたのか気になり、ルーナはロキに訊ねた。


 ロキはその質問を待っていたとばかりにニヤリと笑みを浮かべる。


『人類が滅んで地球がクトゥルフ神話の侵略者達の物になるね。復活した私がクトゥルフ神話の侵略者達を掃除して地球を再生し、新人類を地球に住まわせて地球をリセットする。そして、私は新しい地球の神になるという未来を予定してた。どうせ争いばかり繰り返してるんだから、戦いの結果滅んでも旧人類は本望だろう?』


「自分勝手の極みだな」


『自分勝手!? 大いに結構! 地球は私にとって唯一無二の玩具だ! 所有者が自分勝手に玩具を使うのは当然じゃないか!』


 恭介の素直な感想に対し、ロキは舞台俳優のように大袈裟なポーズで自分の主張を訴えた。


 これにはルーナも頭に来たため、ロキと決別することを決めた。


『これ以上勝手な事はさせません! 私は貴方の巫女を辞めることを宣言します!』


 その瞬間、ロキの体から力が消え始める。


『なっ、それは待ってくれ! 困る! それだけは考え直してくれ! 年棒1億払うから! 三食昼寝付きで社員寮はロイヤルスイートを用意するからさ!』


『どうせ単位が何処それって国のものでしょう? それに、今の生活を気に入ってるので結構です!』


 ルーナがロキの申し出を拒否すると、今まで以上にロキから力が失われていく。


 その絡繰りがわからず麗華がルーナに訊ねる。


『ルーナ、なんでロキの力が失われてるの?』


『今となってはロキ様を信奉する者は私だけ。その私がロキ様の巫女を辞めたから、信奉されない神に大きな力は不要と世界にみなされたの。もっとも、私もロキ様の恩恵を受けてたから、私の力もごっそり減ったけどね。だって、信奉してくれる人がいないもん』


『自業自得なのよね』


『ところで麗華ちゃん、私の巫女にならない? 私もロキ様の巫女を辞めた影響で絶賛脱力中なんだよね』


『私、恭介さんと夫婦で神様になるからそういうのは結構よ』


『だよねー』


 絶対にNoと言われる自信しかなかったが、それでも訊いてみない限りYesと言われる未来も訪れないからルーナは麗華に自分の巫女にならないかと訊ねた。


 当然のことだが、麗華にそのつもりはないからルーナの力は減ったままである。


 自身から力がどんどん失われていく焦りから、ロキは恭介達に襲い掛かる。


『私を敬え! さもなくば宇宙の塵にする!』


『「断る!」』


 ロキが叫ぶのと同時にロキの周囲にミサイルが創り出され、いつでも恭介達に向けて発射できる状態になった。


 それに対して恭介と麗華は息ぴったりに断り、全武装の一斉掃射でミサイルを撃破した。


『くっ、この程度の攻撃で私の力が破られるとは…。こうなったら、ルーナを教育してやる!』


「やれやれ、ロキってのはマジでとんでもねえ悪神だな」


 手から極太のビームを放つロキに対し、恭介は小さく息を吐きつつ機王円環ロイヤルメビウスの2枚のリフレクトシールドでそれを反射した。


 時間経過と共に力がどんどん失われていくロキならば、今の恭介でも十分にその攻撃に対処できる。


 しかし、それはロキの目論見通りだった。


 自信の攻撃を反射されたことに慌てることなく、ロキはニヤリと笑って指をパチンと鳴らす。


 その瞬間、ロキとシグルドリーヴァの位置が入れ替わった。


 シグルドリーヴァのコックピットの中では、麗華の頭には死に直面したせいで走馬灯が流れ始めていた。


 (止まれぇぇぇ!)


 ロキのビームがシグルドリーヴァに当たる寸前で、恭介が強く念じたことにより世界の時間が止まった。


 本当にフレームレベルの遅れがあったら、恭介が反射したビームで麗華は死んでいたかもしれない。


 その事実に恭介は滝のような冷や汗をかいていた。


 それでも、ギリギリでその事態を回避できたから、恭介はヒールキャンディーを3つ舐めて疲れを癒しながらシグルドリーヴァを安全な所まで移動させ、ビームを反射させた位置にロキを移動させた。


 加えて竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム赤不動砲アチャラナータをロキに命中させてから、時間停止を解除する。


『ほぇ!?』


 間抜けな声を出したロキは恭介の放った攻撃でダメージを負い、その直後に自分が放って反射されたビームにも命中した。


 大ダメージを負ったことにより、今まで以上にロキから力が失われる速度が上がる。


『どういうことだ? 私は確かに回避したはずなのに?』


「説明する義理も価値もない。お前は訳もわからずやられて終わるだけだ」


 そういうのと同時に時よ止まれと念じ、再び世界が灰色に染まる。


 訳がわからないと困惑するロキに対し、全武装で一斉掃射した後にラストリゾートを大太刀に変形させ、バラバラに切断してから時間停止を解除した。


 時間が動き出したことにより、ロキの体はズタボロの状態でバラバラに斬り刻まれた。


『この世から消えてくれる?』


 恭介がいなかったら死んでいたため、麗華はロキに対してよくもやってくれたなと怒りの一斉掃射を行った。


 それがバラバラになったロキの肉片を破壊し、残骸換金サルベージをすることでこの空間にロキは欠片すら残らず気配も一切しなくなった。


『恭介さん、麗華さん、おめでとうございます。周辺の敵性反応は全て消えました。お疲れ様でした。瑞穂に戻って来て下さい』


「やっと終わったか…。うっ」


 戦いが終わったと思った瞬間、恭介は極度の疲労でふらついた。


『恭介さん!? しっかりして!』


 麗華がシグルドリーヴァを操縦してドライザーに肩を貸す。


 ルーナも恭介を心配して話しかける。


『恭介君、時空神の権能を無理に使ったね』


「無理をしなきゃ勝てなかった。麗華を死なせないためなら無理ぐらいするさ」


『まったくもう、帰ったらしばらく絶対安静だからね。ゴーレムに乗るのも時空神の権能のも禁止だよ』


「そうする」


 それから恭介もなんとか気合でドライザーを操縦し、麗華と共に瑞穂に帰還した。


 それと共にドライザーのモニターにはバトルスコアが表示されたのだが、恭介はそれに目を通そうとした時には疲労が限界に達しており、コックピットの中で気を失ってしまった。

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