第328話 壊されたくない物から壊す。それを知った時を楽しむのが我が愉悦

 ビヨンドロマンを破城槌に変えて扉を破壊し、最奥部の玉座の間に入った瞬間に指パッチンする音が響き、その直後にルーナが叫ぶ。


『嘘でしょ!? 私のチケットが全部壊されちゃった!?』


「スケープゴートチケットとリペアチケット、ワープチケットが使えなくなったか」


『救命胴衣から壊してくタイプか。嫌な奴だね』


 恭介は冷静に事情を把握し、麗華は最奥部の玉座にふんぞり返るどころか寝そべっている存在に不快であることを訴える。


 その存在とはアザトースであり、黒いローブで顔をすっぽり隠しているが口元だけは見えており、全てのチケットを壊した反応を見て歯茎が出るぐらい笑みを浮かべている。


『壊されたくない物から壊す。それを知った時を楽しむのが我が愉悦』


「ガチで害悪じゃねえか」


『まさに外道だね』


『我に向かうヘイトがとても心地良い。折角起きたのだから、もっと色々壊してみようか』


 アザトースはそう言って指パッチンしたが、今度笑うのはルーナの方だった。


『そう何度も後手に回ったりしないよ。私のプロテクトをすり抜けて破壊できると思わないでよね』


『ほう? ネクロノミコンを使い切らせる者達もそうだが、我に抗える神とは少しは楽しませてくれそうじゃないか』


「マウントの取り合いはそこまでだ。ギフト発動」


 アザトースを相手にアンチノミーで戦えるとは思っていないから、恭介は黒竜人機ドライザーを発動してドライザーのコックピットに乗り換えた。


『ふむ、我に届く刃を用意したか。少しばかり遊んでやろう』


 ドライザーを見たことでアザトースは玩具を与えられた子供のように声を弾ませ、だらしなく寝そべっている状態から片膝を抱えて座り、指パッチンして自身の周囲に禍々しい刃を大量に用意して一斉に発射した。


 恭介が対処しようと動き出すよりも先に麗華が前に出る。


『私が対処する』


 そう言って麗華が全武装を一斉掃射し、アザトースが放ったいくつもの刃を相殺した。


 地面に落ちた刃を利用されては困るから、麗華は素早く屑再利用リサイクル残骸換金サルベージで自身の貯金を増やす。


 勿論、これは麗華が守銭奴だからやったのではなく、アザトースに与える一撃で最も強い一撃をお見舞いするための準備である。


 戦闘において、自分のコントロールから離れた物を再利用するすることは難しいから、この程度のことでアザトースがキレることはないだろうと思っていた。


 ところが、麗華が屑再利用リサイクル残骸換金サルベージをセットで使ったことに対してアザトースがキレる。


『我、アザトースが最も嫌うことは、我が破壊の権能に利用価値を見出して活かされることだ! 貴様は絶対に赦さぬ!』


 キレたアザトースが拳を振り上げた瞬間、恭介は嫌な予感がしてすぐに動く。


 (時よ止まれ)


 恭介が念じた瞬間に世界が灰色になり、アザトースの動きも完全に止まった。


 曲がりなりにもアザトースは神だから、いつまでも時を止めていられるとは限らない。


 それゆえ、恭介は土属性のスイッチを入れてから全武装でアザトースに一斉掃射し、続けて土精霊槌ノームハンマーを叩きつけた。


 その直後に時間停止を解除したら、アザトースは玉座を破壊して後ろの壁に激突した。


 壁のシミになったアザトースだったが、何処からともなく黒い昆虫が無数に湧き出てそれがアザトースを形取り、紫色の光に覆われて灰色に染まって崩れ、その中からアザトースが現れた。


 独特な復活を遂げたアザトースだが、先程の黒いローブを来た不遜な魔王スタイルではなく、ドライザーやシグルドリーヴァと同じサイズの悪魔と呼ぶべき見た目になっていた。


『我がこの姿になるのは何時ぶりだ? 細かいことは覚えてないが、寝起きの運動に付き合ってもらおうか』


 そう言った直後にアザトースはドライザーの真正面まで距離を詰めており、ドライザーを軽く蹴り飛ばす。


 機王円環ロイヤルメビウスの2つのビヨンドカオスがリフレクトシールドに変形し、ドライザーを守ったが、アザトースの蹴りの衝撃を反射し切れずドライザーと共に後方に吹き飛ばした。


 (おいおい、ただの蹴りでこれかよ?)


『恭介さん!』


「大丈夫だ! 後ろに飛んで衝撃は逃がしてある!」


 機王円環ロイヤルメビウスのガードでも防ぎ切れないとわかった瞬間、恭介はドライザーを後ろに飛ばしていたので蹴りの衝撃を逃がせていた。


 そのおかげで吹き飛ばされたように見えても、大してダメージはドライザーに入っていない。


 なお、恭介に蹴りを入れたアザトースもリフレクトシールドの反動で後ろに吹き飛んでおり、無理矢理止まったところでニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。


『随分と楽しめる玩具を持ってるじゃないか。もっと我を楽しませろ』


「嫌なこった」


『我に逆らうか。ならばこれに耐えてみせよ』


 アザトースがドライザーに接近し、拳によるラッシュを始めようとしたその時、麗華が全武装による一斉掃射でアザトースの攻撃を妨害した。


 アザトースからすればカスダメでしかないが、それでもチクチクと攻撃されれば鬱陶しいのは間違いない。


『まずは邪魔な羽虫から消してやろう』


 恭介との戦いに水を差されてイラっとしたらしく、アザトースはシグルドリーヴァを壊すべく邪神でも封印されていそうな大剣を召喚し、それをシグルドリーヴァに投げつけた。


 (時よ止まれ)


 各種チケットが破壊された今、そんな攻撃を喰らえば麗華が死んでしまうから恭介は再び時空神の権能で時間を止めた。


 世界が灰色になった時、大剣はシグルドリーヴァに当たるかどうかスレスレの所にあったため、恭介はすぐにシグルドリーヴァを避難させた。


 それだけではアザトースのヘイトを稼げないと判断し、シグルドリーヴァがいた場所にアザトースを動かしたところで時間停止を解除した。


 世界が色付くと同時に、アザトースは自分の投げた大剣が自分の腹に刺さっていることに気づいた。


 その一方で恭介は酷く疲労を感じており、ヒールキャンディーをまとめて3つ口の中に放り込んだ。


『恭介君、ヒールキャンディーは一気に3つも舐めるものじゃないよ!?』


「わかってるが敵はクトゥルフ神話の王だ。これぐらい舐めなきゃ俺がしんどい」


『…この戦いが終わったらしっかり休んでね。いくら時空神の権能に目覚めたからといっても、君はまだよちよち歩きの雛なんだから』


「わかった」


 ルーナの声が本気で自分を心配していたから、恭介も言い返さず素直に頷いた。


 アザトースはニヤリと笑いつつ、派手に腹から大剣を引き抜く。


『そうか! 先程からおかしいと思ってたが、貴様も神の権能を使えるのか! それならもっと楽しめそうだ!』


 大剣を引き抜いたことでアザトースの腹から虫の化け物の群れが噴き出し、それらが一斉にドライザーに向かって飛んで行く。


「虫 即 斬」


 恭介は体感速度を上げ、機王円環ロイヤルメビウスも十全に駆使してそれら全てをビームソードにしたラストリゾートやホーミングランチャーで消し飛ばした。


 その隙に麗華がギフトレベル50で会得した点数払戻ポイントバックを使い、今までに金力変換マネーイズパワーで支払った金額の2割を回収し、アザトースを倒すための準備を進める。


『ギフト発動』


 麗華は3千万ゴールドをコストに金力変換マネーイズゴールドを発動すれば、アザトースも異常な力を感じ取って麗華に興味を示す。


『なんと、貴様は破壊神であったか。我と力を競い合おうぞ』


「誰が破壊神よ! これでも喰らいなさい!」


 ホーミングランチャー形態のアルテマバヨネットを放てば、アザトースも掌から漆黒の極太ビームをぶつけて力比べを始める。


 麗華は商売神の権能に目覚めているから、破壊神と言われたことにキレている。


 しかし、3千万ゴールドをコストに放ったビームの破壊力というのは、瑞穂の魔開闢砲オリジンキャノンを優に超える威力なのだから、破壊神と称されても仕方ない面もある。


 そんな麗華の攻撃と張り合えるアザトースもまた、破壊神としての力を存分に発揮している。


 だがちょっと待ってほしい。


 別にこの戦いは麗華とアザトースの神聖な力比べではないのだ。


 だからこそ、恭介がアザトースの死角から機王円環ロイヤルメビウスの2つのライトニングメナスをビームキャノンに変形させて発射したとしても一向に構わない。


 麗華との力比べが楽しくなってしまい、恭介からの攻撃に反応が遅れたアザトースは2本のビームをまともに喰らってしまい、帯電の影響で体が痺れてしまった。


 その影響で力のコントロールが上手くいかなくなり、ビームの押し合いで麗華のビームが押し勝った。


 玉座の間の壁に叩きつけられ、そのまま壁をぶち破ったアザトースはまたしても壁のシミになったが、今度はそのシミが黒い球体になってアザトースの体を再生する。


 しかしながら、アザトースの体にバグが生じたように痙攣し始め、肉体が消えたり現れたりし始めた。


 (嫌な予感がして来た)


 明らかにおかしい反応をしているアザトースを見て、恭介はまだ戦いに勝利した訳ではないのだと気を引き締めた。

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