第327話 無理しないことを前向きに検討するよう善処する
強制的に転移させられたが、恭介は麗華とはぐれずに宮殿の中庭にいた。
これは転移させられる瞬間、咄嗟に恭介がビヨンドロマンを斬馬刀に変形させてリーチを伸ばし、それを麗華に掴ませたからはぐれなかったのだ。
本当ならば時を止めて全員を集合させるべきだったけれど、恭介も完璧ではないからそこまで頭が回らず、一番近くにいた麗華とはぐれないようにするのがやっとだった。
転移した先にはクトゥルフとハスターが待ち構えており、恭介達を見てすぐ攻撃し始める。
『恭介さん、麗華さん、敵はC203Gクトゥルフ=ネクロノミコンパーツとC205ハスター=ネクロノミコンパーツです。向こうの柱の陰にはC206Gマイノグーラ=ネクロノミコンパーツもおります。上位単一個体が3体ですから、気を付けて戦って下さい』
「いや、2体だ」
恭介がラミアスに言い返した時、恭介は
火力に物を言わせて数的不利な状況を同数にさせた訳だが、麗華も麗華で
麗華がクトゥルフ=ネクロノミコンパーツを引き受けてくれるなら、恭介は奇襲の隙を伺っているマイノグーラ=ネクロノミコンパーツを倒すだけだ。
マイノグーラ=ネクロノミコンパーツは恭介に潜伏していることがバレていると悟り、柱の陰から蛇の髪だけ出してその目から細いビームを乱射する。
(なかなかの密度だけどダメージを与えられなければ意味がない)
柱は反射された大量のビームで破壊され、その奥にいたマイノグーラ=ネクロノミコンパーツも柱を貫いたビームで多少のダメージを負った。
『妾の体に傷をつけた? 楽しませてくれそうね!』
「楽しませるつもりはない。勝手にくたばってくれ」
マイノグーラ=ネクロノミコンパーツが嬉々として攻めて来たため、恭介は接近する敵に武器はそのままで迎撃した。
既に傷は塞がっており、蛇の髪が束になって左右に1つずつの大砲に変わって反撃を始める。
それらのビームは
大砲になった髪にビームが跳ね返され、またやってしまったという顔をしているマイノグーラ=ネクロノミコンパーツに接近し、
再生不能なレベルで切断し終えた時、麗華もクトゥルフ=ネクロノミコンパーツにとどめの一撃を刺して戦闘を終わらせていた。
『仕留めた』
「やられねえよ」
いつの間にか中庭のベンチの影に第三形態で忍び込んでいたナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツが姿を見せ、油断しているだろう恭介に攻撃を仕掛けたが、恭介は
『申し訳ございません。C207Gナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツの接近をお知らせできませんでした』
「気にするな。敵のステルス性能が上手だっただけだ。ラミアスはできるフォローをしてくれれば良い」
謝るラミアスに対し、恭介は決して咎めたりしなかった。
目の前のナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツだが、3期パイロットが戦ったとされる個体よりもスペックが高かった。
それゆえ、恭介はルーナに思いついたことを訊ねる。
「ルーナ、目の前の個体ってミスカトニックアーカイブで出て来た個体よりもネクロノミコンのページを多く使ってないか?」
『…確かにそうだね。他の上位単一個体のコピーに使わなかった分は、このコピーに使われてるみたいだ』
「やはりそうか。そうじゃなければ、ラミアスの探知をすり抜けられるとは思えない。気を引き締めないとな」
『頑張ってね。こいつを倒せれば、アザトースの手元にネクロノミコンは残らないから』
ルーナから朗報が聞けたので、恭介はそれだけでもナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツをさっさと倒してしまいたい気持ちになった。
その朗報は麗華も訊いていたらしく、ナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツに意欲的に攻撃を仕掛け始めた。
『恭介さん、こいつは私がやる』
「わかった。頼んだぞ」
『うん』
恭介がハスターとマイノグーラのコピーを倒しているから、ナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツと戦ったらアザトースとの決戦までに力を温存できない。
幸いにも、クトゥルフ=ネクロノミコンパーツを特に苦労せず倒せたから、麗華にはまだまだ余裕があったのでこの戦いは自分が引き受けると告げた。
麗華の意図は自分を温存することにあるとわかったため、恭介は麗華の好意を素直に受け入れることにしたのである。
第三形態の姿でオリジナルに極めて近い実力を発揮するが、ナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツの戦い方を知っている分だけ戦闘は麗華に有利だった。
『何故だ? 何故防がれる?』
「コピーがオリジナルを超えられない以上、オリジナルと戦った私にとってお前は多少戦えるサンドバッグなのよ」
そう言い切るだけあって、麗華は全ての攻撃をナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツに命中させている。
体を再生する度に敵の力は落ちていくから、攻撃が当たれば当たるだけナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツに勝ち目はなくなっていく。
『面白い。実に面白い。私と』
「言わせないわよ」
ナイアルラトホテップ=ネクロノミコンパーツが次に何を言い出すか予想できたため、麗華は極めて冷静かつ冷徹に全武装で一斉掃射して口封じを行った。
ギフトを使わずに敵を倒し、
「麗華、お疲れ様。相手が相手だったのにすごいじゃん」
『ありがとう。でも、忘れてないかな? 私、GBO時代から事前に情報がある敵との戦いでは恭介さんを除いて負けなしなんだよ?』
「そうだったのか。俺はあまり対人戦とか意識してやってなかったから忘れてた。レースだったら覚えてるんだが…」
『恭介さんらしいや。さて、先に行きましょう』
ここで談笑している暇はないから、恭介と麗華は中庭の奥にある通路を通って先に進んだ。
しばらく進んでも一切敵がおらず、ただ一本道の通路を進むだけだったのだが、途中でルーナから悪い知らせを告げられる。
『恭介君と麗華ちゃん、悪い知らせだよ。沙耶ちゃんと晶君がワープチケットを使うことになった』
「スケープゴートチケットじゃないのがせめてもの救いだな。何があった?」
『上位単一個体のコピーとの戦闘と爆発のギミックで追い込まれて、閉じ込められた部屋で2人のゴーレムが動かなくなった。トルネンブラの音楽を使われたんだ』
「人質のつもりなのか、それとも戦う相手を選んでるのか」
恭介はアザトースがどちらのつもりでそうしたのかわからず考え込んだが、麗華はそんな恭介に声をかける。
『恭介さん、アザトースの思考回路なんて考えない方が良いよ。なんとなくだけど、答えを聞いても私達が気分の良い者になるとは到底思えないし』
「確かにそうだな。沙耶と晶が無事に瑞穂に戻れたと思うことにしよう。麗華も無理するなよ?」
『それは恭介さんだけには言われたくないかも』
時空神の権能の練習をする時、ハードなトレーニングを行っているのを見た麗華としては、無理をするのは自分よりも恭介だろうと思っていた。
だからこそ、恭介にはこれ以上無理をしないでほしいと強く願っている。
麗華に心配されているのはわかるけれど、麗華をピンチから救ったり危険を未然に防げるならば、恭介は多少の無理をするつもりだ。
「無理しないことを前向きに検討するよう善処する」
『それは狡い大人の逃げ口上じゃないかな?』
「麗華を守るためなら無理も無茶もする」
『…それで死んだら絶対に許さないし、私だって同じ気持ちなんだからね』
麗華が顔を赤くして応じた直後に、これ以上黙っていられなかったルーナが口を挟む。
『ヒュー♪ 恭介君も麗華ちゃんも激アツだね~♪』
『「ハウス」』
『クゥ~ン…』
愛らしい子犬の鳴き声を真似するけれど、恭介も麗華もそれをスルーして先に進んだ。
そして、恭介達は遂に最奥部の部屋に到着した。
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