第326話 失礼ですね。不意打ちは立派な戦術です
宮殿に入った途端、単身で強制的に転移されて沙耶は困っていた。
しかも、目の前には見覚えのある巨大な火の球があるのでそれが余計に沙耶を困らせていた。
『沙耶さん、C204Gクトゥグア=ネクロノミコンパーツです。気を付けて下さい』
「わかりました」
一刻も早く恭介達と合流したいところだが、目の前にいる危険な敵を見逃すわけにもいかないし、待ち構えていた以上自分を見逃してもらえるとも思えない。
そうであるならば、今この場で倒すしかないというのが正直なところだ。
沙耶は水属性のゴーレムを所持していないから、このままミラージュドレイクで戦うべきと判断する。
その一方、クトゥグア=ネクロノミコンパーツはミラージュドレイクを見て球状から大蛇へと変わり、沙耶に何もさせまいと炎を吐き始める。
その炎を
どちらのデストロイも蛇腹剣に変え、大蛇と化したクトゥグア=ネクロノミコンパーツを切断した。
しかし、炎の体に普通の物理攻撃は通用せず、クトゥグア=ネクロノミコンパーツに大したダメージが入った様子はない。
「面倒な相手ですね」
『我の炎はそれっぽっちの攻撃では消せぬ!』
「ならば別の手段を使うまでです」
沙耶は
炎を吐く方向をミラージュドレイクから
爆発の衝撃でクトゥグア=ネクロノミコンパーツにダメージが入り、沙耶は爆発に敵が気を取られている内に背景と同化して敵の隙を突く準備を整える。
『おのれ! 何処に消えた!』
わざわざ姿を見えなくさせたのだから、沙耶が答えるはずなかった。
イライラしているクトゥグア=ネクロノミコンパーツは自身の姿を大蛇からドラゴンに変形させ、あちこちに炎を吐いて沙耶を炙り出そうとする。
そんな考えは実は沙耶の
そして、背景との同化を解除すると同時に
『ぐぁっ!? どこから!?』
「串刺しにされたことはなさそうですね。存分に味わって下さい」
抜いては刺し、抜いては刺しを素早く行うことでクトゥグア=ネクロノミコンパーツは穴だらけになった。
デストロイによる物理攻撃と違い、ビーム系統の攻撃だからクトゥグア=ネクロノミコンパーツにどんどんダメージが入る。
敵の姿に再び変化が生じたため、沙耶はミラージュドレイクを攻撃を止めて背景に同化させた。
『何処だ!? 出て来い卑怯者! 不意打ちに頼るなんてせこい真似は止めろ!』
(失礼ですね。不意打ちは立派な戦術です)
クトゥグア=ネクロノミコンパーツはドラゴンの姿から目玉だらけの球体の姿に変わり、絶対に不意打ちはさせないと警戒している。
『出て来ないなら総当たりだ!』
目玉から炎を圧縮したビームを放てば、今のクトゥグア=ネクロノミコンパーツは球体の全面に目があるから、全方位攻撃で沙耶を近づけさせないようにしつつ、何処にいても攻撃を当てられると考えていた。
ところが、沙耶はその場から離れていたため、いくらクトゥグア=ネクロノミコンパーツが攻撃しようとも当たるはずがなかった。
『沙耶ちゃん、クトゥグア=ネクロノミコンパーツから逃げるのかい? あいつが恭介君達と鉢合わせするかもしれないよ?』
「逃げるというのは違いますね。ヒット&アウェイでチクチク攻撃します。有効打が
『なるほどね。クールタイムのことを考えればそうするしかないか』
「その通りです」
クトゥグア=ネクロノミコンパーツの攻撃は
デストロイのようにずっと使える武器ならば話は別だが、
それを考慮して戦うとすれば、ヒット&アウェイでチクチク攻撃するしかないのだ。
全方位攻撃をしているクトゥグア=ネクロノミコンパーツだが、どうにも手応えがなくただ独りで暴れているだけで気づいたのか攻撃を止めた。
その隙に沙耶が接近し、再び背景との同化を解除すると同時に
「おのれ! よくもやってくれたな!」
すぐにクトゥグア=ネクロノミコンパーツが反撃するけれど、そのビームは
時間はかかるけれど、着実にダメージを与えていけるから沙耶はヒット&アウェイ戦法を止めない。
これをあと3回繰り返すことで、クトゥグア=ネクロノミコンパーツはようやく力尽きた。
『沙耶ちゃんには嵌めプロの称号を進呈するよ』
「そんなもの要りません。ゴミ箱行きです」
『そうだよね。嵌めるよりも恭介君に嵌められたいんだもんね』
「セクハラで訴えますよ?」
『誰に訴えるんだい? まさか、恭介君?』
ルーナがとんでもないことを言い出すものだから、沙耶は凍えるような視線を向けて言い返す。
それでもルーナが果敢に攻め込むから、沙耶は無視することに決めた。
これ以上無駄な会話をしている時間はないと判断してのことだ。
そこに晶の乗ったメランコリーアスタロトが合流する。
『あっ、サーヤだ。どうやら無事みたいだね。良かった』
「そちらも無事で良かったです」
『…随分と不機嫌だね。ルーナが何か言ったの?』
『異議あり! なんで沙耶ちゃんが不機嫌だと私が何か言ったってことになるのさ!』
ルーナが抗議するけれど、事実は晶の指摘した通りなのだから何も言えまい。
それなのにしれっと自分は無罪だという態度になれるのだから、ルーナのふてぶてしさは世界トップクラスである。
「ルーナがセクハラして来たんですよ。後で麗華さんに報告しましょう」
『それは止めよう? 私、もうちょっと自重するから』
「自重できるなら最初から自重しなさい」
『ついでに自嘲すれば良いんじゃないかな?』
『晶君、本当に君は私を煽るプロだね。やるじゃないか』
沙耶の代わりに晶がルーナを煽れば、ルーナはムムッと眉間に皺を寄せた。
こんな無駄話をしていても、沙耶と晶はそれぞれのゴーレムを操縦して恭介と麗華を探すべく先に進んでいる。
そんな時、沙耶と晶の耳に嫌な予感をさせる音が近づいて来た。
「この音って爆発ですよね?」
『そうだね。しかもどんどん近づいて来てるね』
「逃げましょう」
『逃げよう』
そうと決まれば沙耶達の動きは速く、迫り来る爆発音から遠ざかるように進んで行く。
爆発が起きているのが後ろだけならまだなんとかなるのだが、今度は進行方向でも爆発が起き始める。
『サーヤ、右に通路がある!』
「行くしかありませんね」
誘い込まれている自覚はあったけれど、爆発音はどんどん迫って来ているから悩んでいる暇はない。
実験で迷路内の指定ルートを無理矢理進まされる鼠の気持ちになりながら、沙耶と晶は爆発音の聞こえないルートを進む。
宮殿の通路は半分ぐらい爆発しており、左右を交互に曲がることを強いられて気づいたら倉庫のような部屋に追い込まれていた。
厄介なことに、沙耶達が入った直後に扉が自動的に閉められてしまった上、室内にはトルネンブラの流していた音楽が流れていた。
「閉じ込められましたか。ドリルで! …駄目ですね。動きが悪いです」
『参ったね。完全に誘い込まれたよ』
2つのデストロイをドリルに変形させ、壁を破壊して外に出ようとした沙耶だったが、ドリルの動きが悪くて壁を破壊することができなかった。
『打つ手なしのようだね。仕方ない。沙耶ちゃんと晶君はここまでだ。ワープチケットを使って脱出して』
「そうするしかありませんか」
『恭介君と麗華ちゃんの足を引っ張る訳にはいかないか』
ルーナにギブアップを勧められ、沙耶と晶は持っていたワープチケットを使って瑞穂の格納庫に帰還した。
恭介と麗華がアザトースと戦っている時、自分達が人質になればそれだけで足を引っ張ってしまうことになるから、悔しいと思って沙耶達はそれをグッと飲み込んだのだ。
こうして、宮殿に乗り込んで戦えるクルーは恭介と麗華だけになってしまった。
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