第10話 素材屋

2人は素材屋に到着し、慣れているレオが交渉に行くことになる。レオは店の中に入ると、早速店主と話し合いを始める。


「こんにちは、ポーションの材料購入に来ました」

「おお、マギウスさん所の弟子じゃないか。どれくらいほしいんだい?」

「今すぐ欲しいのは魔薬草を1500個ですね」

「今すぐにね……申し訳ないんだが、在庫を足しても1500は直ぐに出せないな。現状出せるのは1000個だね」

「となると、追加の500をお願いするといつ頃購入できますかね?」

「それなら、再来週だね。うちは2週に一回だけ調達を行っているからね」


レオは、材料を直ぐに集められないことを知り、現状買える分の魔薬草をとりあえず買うことを決意した。


「それでは、今ある1000個の購入をとりあえずおこなってもいいでしょうか?」

「分かった。それじゃあ、裏から持ってくるから待っていてくれ」


店主は店の裏へと消えていく。一方で、レノンは自分が材料を調達しなければならないことを確信していた。


(別の素材屋か周りの薬師工房を回るか、ソレアドまで行って調達してくるかだな。交渉が終わってからマギウスの意見も取り入れつつ検討しよう)


レオは、レノンから渡された貨幣の入った麻袋の中から、支払い分の10000ゴールドを取り出して待っていた。店主が裏から帰ってくると、両手には二つの麻袋を持っていた。


「いつも通り、一つに500ずつ魔薬草が入っているよ。全部で10000ゴールドだ」


レオは用意していた硬貨を店主に渡すと、確認作業は簡単に行われた。


「それじゃあ、取引終了だ」


店主がそう言うと、レオは彼に言う。


「2週間後からでいいので、うち用に魔薬草を追加で1000個分を調達してもらえますか?」

「もしかして、いい案件でも手に入ったのかい? ――まあ、そんなこと聞かないほうがいいか。今までの分と合わせて1400個で間違いはないか?」

「はい、ありがとうございます」


レオの言葉を聞いた店主は、追加で彼に質問する。


「他の素材に関しての注文はあるかい?」

「いえ、他のものに関しては据え置きでお願いします」


購入を終えたレオとレノンで手分けして持つ形で、素材屋さんから店へと歩き始める。その中で、レノンはレオに言った。


「なんというか。案の定、懸念していたことが発生するとはといった感じだ」

「すいません」

「まあ、集めればいいんだ。一応6000個自体は、5日あれば作れる量なんだろ?」

「そうですが……どうするんですか?」

「楽な順番で考えるなら、別の素材屋から調達できるのがベストかな?」


少し曇った顔のレオはレノンに言った。


「実は自分は、あの店からしか素材の調達をしていないので、他の店の所在を知らないんですよね」

「今からすぐに買い付けに行くわけじゃないから、一旦マギウスの意見も聞きながらどうやって残りの文の材料を集めるか決めるから、問題ないよ」


2人はマギウスの店までの道を無言の状態で歩いた。そして、店に帰るとすぐに、素材用の地下室に魔薬草の入った麻袋を置いた。レノンはレオに訊く。


「マギウスを呼んできてくれないか?調達方法を考えたいから」

「分かりました」


レオは、ポーションなどをいつも作っている部屋にマギウスを呼びに言った。そして、店の一階にいたレノンは、ヤンに話しかけられる。


「おっさん、あんたもここで働くのか?」

「この場合、どっちなんだろうな……ここで働くわけじゃないかな?」

「つまんねえ、俺の部下ができると思ったのに」


レノンは、ヤンの発言を聞いて笑っていた。暫らくして、少し疑問が湧いたレノンは彼に訊く。


「ヤンは計算をしっかりできるのか?」

「完璧にはできないぜ。マギウスさんが確認すると時々、計算が違っているらしいからな」


(マギウスに苦労してそうだな……)


「……それなら、俺が教えてやるよ。俺はちゃんと文字の読み書きもできるくらいには、勉強したからな」


ヤンはレノンの言葉を聞いて、血相を変えて彼に訊いた。


「ほんとか? それなら俺の友達も呼んできていいか?」


一方でレノンは平然としたまま彼に言う。


「別に構わんぞ」


ヤンはそれはもう喜んでいた。


「俺、お金ないんだけど、それでもいいか?」

「そんなことか。ただでいいぞ。別に付きっ切りで教えるつもり無かったしな」


彼がそう言った直後、レオがマギウスを連れて2人の前に現れた。マギウスはレノンに声をかける。


「材料の調達に関してらしいな。簡単にレオから話は聞いたよ」

「そうなんだ。どうするのが、一番簡単かな?」

「無難に行くなら、別の素材屋に行くのがいいだろうな。この辺は町の南側のエリアだから北か西のどちらかの店が一番近いだろう。どの店も基本的に新鮮な薬草を売るために、ほとんど在庫を抱えていない可能性もあるから、それだけ頭に入れておいてくれ」

「ということは、店に置いていない可能性も全然あるということだな?」

「そういうことだ。もしなかったら、知り合いに当たって、多少素材を買い取らせてもらうことだな。紹介はするけど……まあ、こっちは期待しないほうがいいな」

「じゃあ、場所を教えてもらっていいか?」


マギウスは少し考えてから言った。


「町の北と西のエリアの地図を簡単に書いてやるから、適当に木の板を買ってきてくれないか?」

「それなら問題ない。紙を持っているからそれに書いてくれ」

「失敗しても金は払わないからな」

「大丈夫。安い紙だから」


レノンは鞄の中から、折りたたんでいた紙を机の上に出して言った。


「この紙に書いてくれ」

「分かった」


マギウスは紙を持って二階へと消えていった。そして、レオはレノンに言う。


「自分はポーションを作りに行きますね。流石にどちらも作らないと時間が足りなくなる可能性もあるので……」

「それもそうか」


レノンは明日、一人で町を散策する形になることに少しだけ心配感を覚える。


(誰か一緒にこの町を歩けて、地理を知っている人間がいればいいんだけどな)


レノンは店番をしているヤンに勉強を教えながら、マギウスが地図を持ってくるのを待つことにしたのだった。


――階段を下りる音がレノンとヤンの耳に聞こえてくる。


マギウスはレノンから受け取った紙を丸めた状態で手に持ち、階段からレノンへと声をかける。


「レノン、簡単にだが書いてみたぞ。絵心に関しては自信がないから、期待するなよ」


彼は店の机の上に紙を広げた。それをレノンとヤンは覗き込んだ。そして、レノンは微妙な顔を浮かべ、ヤンは地図に書き込まれた文字を指さして、マギウスに訊く。


「これはなんて書いてあるんだ? マギウスのおっちゃん」

「それは、時計塔だ。ここからだと見えないんだが、西側に行くと見えるだろ?」

「時計塔ってこう書くんだな……それじゃあ、これは?」


ヤンはマギウスに文字を聞いて、その地図を理解しようとしていた。彼は文字に触れる機会があまり無かったので、興味津々といった感じだった。


レノンは2人の会話を少し見守った後、マギウスに言った。


「マギウス、これはなんというか……下手だな」


その言葉をレノンが発した瞬間に、沈黙が場を支配した。そして、マギウスは気にしていないように取り繕うように言葉を発した。


「ハ、ハハハ……絵は昔から苦手なんだ。まあ、ざっくり位置関係は分かると思うからそれで、頼む。町も広いんだ」


ヤンはその光景を見て、レノンの方を見る。その言葉に対してレノンは思う。


(少し直接的に言いすぎてしまったな……)


「位置関係はなんとなく把握できるから、現地の人に聞きながら店を探すよ。ありがとう、マギウス」


少し気を使われていることを感じながらもマギウスは切り替える。


「俺も調薬の方に戻るよ。お前の依頼の報酬に関しては、今日の夜に決めよう」

「分かった。ありがとう」


レノンはマギウスが去っていくのを見送った後、地図を鞄にしまった。そして、夜までまだ時間があったので適当な木の板を買いに行くことにした。ヤンはレノンに訊く。


「何を買いに行くんだ?」

「ん? 木の板を買いに行くつもりだ。文字は50個で構成されているから、それをまとめたものを作っておけば、勉強するときに楽だろ?」

「そうなんだ、ありがとうな」


レノンは木の板を購入した後、ヤンや面識はないが友達のために簡単な文字の表を作成して、壁に立て掛けた。ヤンは時々来る客への対応を終えると逐一、レノンに表の文字の読み方を何度も聞いていた。


――外の日が落ちて夕方になる


マギウスとレオが二階から降りてきて、2人に言った。


「今日はもう店仕舞いだ。手伝ってくれるか?」


四人は手分けをして店仕舞いを行った。店頭に並べていた何個かの種類の薬を、地下にある部屋へと持っていくだけの作業だった。ものの数分でその作業を終えると、ヤンは足早に店を去っていった。


三人は彼を見送った。その後、マギウスがレノンに言った。


「それじゃ、報酬を決めようか」


レノンはその言葉にうなづいた。三人は、諸任地にマギウスが寝ていた部屋に入った。

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星屑の商人 シサマキ @Shisamaki

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