第9話 商談
部屋に取り残されたレオとレノンはとりあえず1階に降りていく。彼らは、今回納品する予定のポーションと止血剤の素材を購入するために、素材屋さんへと向かうことになった。店へと向かう前にレノンはレオとどのくらいの素材を買うかを考えることになった。
レノンは質問をレオに行う。
「この町の人口っていくらくらいだ?」
「15万人くらいだったと思います。正確な数字ではないことは忘れないでくださいね」
「分かった。それじゃあ、この町の冒険者はどのくらいいると思う?」
「入れ違いも激しい町だからどうだろうな……」
「それなら、今回はシルバーヘイブンの町を参考にして、大体の人数を考えるか。シルバーヘイブンは人口が約10万人だけど、領地の中の首都的な意味合いは変わらないから、それを参考にして……あの町は人口の5%が冒険者だから、それを流用すると7500人にしておこう」
レノンは、鞄から紙を取り出して、ここまでの情報をメモした。それを見ながらレオは呟く。
「7500……なるほど」
「それで、町単位のポーションとかの消費量ってわかったりするか?」
「そんな情報で回ってないですよ。それこそ、商会内で保有されるよな機密事項じゃないですか?」
「ということで、俺たちの経験から大体の冒険者の使用量を予想しようか」
レオは頷いてから、昔を思い出しながら言った。
「それはいい切り口ですね。実際に、自分たちが冒険者をしていた時は、どんな依頼でも一人五個分は確実に腰の麻袋にいれるようにしていましたよね?」
「そうだな。今回はそれを使って、1週間の消費量を一人当たり5個と考えよう。そうすると、1週間にこの町で消費されるポーションは37500個だな」
「とてつもない量ですね……でも、実際に連戦になると消費量は、1.5倍くらい大きくなっていましたね」
一方で、レノンはここからどのくらいの量を作成するかを検討する。
「まず、普段からポーションなどを余分に作るなら、どれくらいの量だと思う?」
「多くても一割くらいじゃないですかね。あんまりたくさん作っても、それを保管するスペースが必要になるので」
「一割だと仮定すると、毎週生産されている量は41250個くらいか。7500人の内、今回の討伐依頼に3000人が参加すると仮定しよう。確か昔にあった大規模な依頼はこのくらいの動員数だったはずだ。他の町からも人が来るから、ありえない数字じゃないはず」
レノンは再びここまでのまとめを紙に書き足した。
「もしそうなら、本当に大規模なものになりますね」
「参加人数が3000人なら消費量は7500個くらい計算上は追加で必要になるから、7500から予備の3750を引いたら3750個は追加で必要になるはず」
「3750個だとしたら、僕と師匠で3日あれば作れますね」
「いい感じだな。後はそれ分の材料費かな?」
「ポーションは魔薬草一つから三つ作成できます。なので1250個の魔薬草ですね」
「なら、今からこの店にある魔薬草の数を確認しようか」
「それじゃあ、自分が確認してくるので、少し待っていてください」
レオは部屋から飛び出していく。そして、レノンは少しの休憩に入ろうとするが、計算ミスや疑問点がないかを検討するために、今までのメモ書きを確認していく。
レオが少し経ってから戻ってくると、レノンはまだ確認をしていた。それを見たレオは、こっそり部屋を出て彼に飲み物を持ってくることにした。その後、レノンはレオが戻ってきたことに気づくと、彼は飲み物を差し出してくる。
「どうぞ。飲み物を飲みながら休憩してください」
「ありがとう。じゃあ、在庫の数だけ教えてくれ」
「500個でしたね」
レノンはそれだけ紙に書き加えると、紙から視線を外して飲み物を飲み始めた。そして二人は同じ部屋にいるものの、暫らくの間は沈黙の時間が続いた。
そして、その沈黙を破るようにレノンがレオに話しかける。
「そろそろ動こう。とりあえず、先に冒険者ギルドに行って、状況の確認をしに行くことにするよ。その後、素材屋さんへ向かおう。レオ、ついてきてもらえるんだよな?」
「そりゃそうですよ。だからここにいるんです」
「その前に、ポーションの一般的な価格と素材の価格を教えてくれ」
「魔薬草が一つ10ゴールドです。ポーションは基本的に取引されている価格は18ゴールドくらいが一般的ですね」
「分かった、それじゃあ行くぞ」
そして、2人は冒険者ギルドへ向かった。その道中で、レオはレノンに言った。
「師匠は通常時は適当な感じを全身で表現しているんですが、ここに店を構えている理由もスラム出身の冒険者が来やすいというところがあるからなんですよね。それにスラム出身の駆け出しの冒険者には、利益が出ない形で売ってるんですよ。だからあの人はきっとレノンさんに感謝しています。お金が無いと、できることは限られますからね。さあ材料調達に行きましょう」
「そうだったのか。それなら、あそこを守らないといけないな。あの店にお金をしっかり作れる仕組みを作れるといいんだが……」
冒険者ギルドは少し人が集まっているように見える。しかし、その恰好はあまり冒険者のようではなかった。それらの人を横目にレノンとレオはギルドの中へと入り、受付の女性に話しかける。
「少しギルドの中が慌ただしいように思うのですが」
「そうですね。今のところは私の方から言えることはありませんね」
レノンはなるほどなと思った。そして、彼女に訊く。
「今、ギルドの偉い人に会うことはできたりしますか?」
「なぜでしょうか?」
「実はお話がありまして。実はポーションをいくつか売りたいなと思っているんです」
「分かりました。少々お待ちください」
彼女は受付から消えていった。そして数分経った頃、一人の男を連れて戻ってきた。その男性は、レノンより一回りは年上だが、体つきががっしりとしていた。その男はレノンに声をかける。
「初めまして。私は副冒険者ギルド長のガイと申します。実はポーションを求めているところでした。なので、是非取引をしたいと思います。お名前を教えていただくことをできますか?」
レノンはガイに言う。
「私は星屑商会のレノンです。今からでも取引を行いたいと思っています。どうですか?」
ガイはその言葉を聞いて応接室にレノンを案内した。部屋につくと、すぐにガイは本題について話し始めた。
「そうですね……とりあえず、どのぐらいの量をレノンさんは売ることができるんですか?」
「今のところの予定だと、ポーション3750個を予定しています」
「もう少し多く売ってもらうことはできないでしょうか?」
「具体的な数字はいくらですか?」
「6000くらいお願いしたいところですね」
「少し待ってもらえますか?それと、一度部屋を出てもいいですか?」
「ええ、分かりました」
レノンはレオのところまで戻ってきて、彼に話しかける。
「なあ、実際素材屋でどれくらいの量の魔薬草を買えるだろう?」
「いつもそんなにたくさん買ってないので分からないですが、在庫がなかったことは今まで経験していないので、大丈夫じゃないでしょうか」
「その言葉信じるぞ」
レノンは再び応接室に戻り席に着く。
「すいません、お待たせしました。期日次第では、その依頼を受けたいと思います。いつまでですか?」
「とりあえず一週間後を期限として考えています」
レノンは3750個で3日だと言っていたレオの言葉を思い出し、十分可能な範囲だと結論付けた。
「分かりました。是非お願いします」
「それでは、価格の方を決めたいのですが。そちらの希望はどのくらいの価格ですか?」
レノンはあえて大手商会と同じような価格帯と答える。
「1つ当たり18ゴールドを想定しています」
ガイはそれを聞いて少し考える。
(1つ当たり18ゴールドなら、メディク商会に頼むよりも圧倒的に格安になるな。だがこいつは、若さを感じるから値切ってみようか)
ガイはレノンに言った。
「16ゴールドで取引することはできませんかね?18だと貴方と取引するメリットがあまり無いんですよ」
「……分かりました。16ゴールドで取引しましょう。しかし、こちらも少し譲歩しているので、何か私に利益になるオプションをつけてもらいたいですね」
ガイは少しだけ、顔をこわばらせ身構える。
「例えば?」
「毎週私の商会からポーションをいくらか卸す権利をいただきたい。値段は16ゴールド据え置きで大丈夫です」
それを聞いたガイは体の緊張を緩めた。
(この権利を渡すとメディク商会から多少にらまれてしまうだろうな。しかし、安いのはギルドとしても魅力的だから、一割くらいなら問題ないはずだ。矛先は少なくともうちには向かないはず)
ガイはレノンに言った。
「毎週3000ずつポーションを星屑商会の方から買わせていただくというのはどうでしょうか?」
レノンは少し考えた。
(週に3000個なら、大丈夫なはずだ。マギウスの店にとっても利益を落とせる)
レノンはガイに言う。
「その契約でお願いします」
ガイは一度部屋の外に出て、従業員に紙とペンを持ってきてもらうように頼んだ。しばらくすると、先ほどの受付にいた女性が部屋の中に入ってきて、紙とペンをガイに渡した。
ガイはその書面に手際よく文字を書いていく。そして最後にレノンに書面を求めた。レノンはその紙に商会名と自分の名前を記入し、契約が成立した。
その後、レオにそのことを話すと非常に喜んでくれた。2人は、ポーションの素材を買いに次の目的地へと向かった。
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