第8話 商機を掴む
その後、レノンは昨日訪れた酒場で聞いたリンゴ酒の製造場所に向かうことに決めた。その場所に到着すると、町の騒音とは対照的に穏やかで静かであった。古びたレンガ造りの建物がそびえ立ち、入り口の扉は重厚で、木製の古い看板が風に揺れていた。建物の隣には、比較的モダンな内装の建物があり、お酒を販売していることを彼は確認した。レノンがその建物の中に入っていくと、店内には受付に立つ一人の女性がいた。
「すいません、リンゴ酒を買いに来たんですが、どこで買えますか?」
「あそこです」
レノンが質問をすると女性はリンゴ酒の場所を受付から指さす。レノンは内心、ここのリンゴ酒をいくらか買ってシルバーヘイブンで売りたいと考えていた。レノンはリンゴ酒の入った小さな樽を持つと受け付けの方へ歩いていく。
「実は昨日この町に到着して、酒場でこの町のリンゴ酒を試す機会があったんですが、本当に美味しいと思いました。自分の拠点はシルバーヘイブンにあるから、ここのリンゴ酒を向こうで販売しようと思いまして……実際にまとまった量を購入したいんですが、責任者と連絡を取る方法はありますか?」
「交渉自体は問題なくできますよ。しかし、最近郊外のリンゴ畑で問題が発生しており、責任者は数日間不在です。後日再度来ていただけると嬉しいです」
そのため、レノンは女性に分かりましたと言って、手に持っていたリンゴ酒の小さめの樽を購入し、宿に戻る。部屋に戻ったレノンは、頭の中で情報を整理していく。
畑に問題が発生していたという情報から、昨日オルフェウスのメンバーと話した内容が頭をよぎる。おそらく、大規模な依頼に関連しており、ベインクラッシャーの存在が示唆されていると考えた。
大規模な依頼の中で、ベインクラッシャーのような比較的簡単に対処できるモンスターの場合はランクが様々な人間が依頼を受けるため、ポーションや薬の需要が高まることを彼は自分の経験から確信する。
したがって、レオの職場で大量のポーションと薬を確保する計画を思いつく。そのために、レオが師事している先生に、先ほど買ったリンゴ酒を使って接触しようと考えた。
昼ご飯を食べた後、昨日レオが置いていったメモを確認し、午前中に買ったリンゴ酒の入った樽を持って、目的の建物に向かった。
メモを見ながらたどり着いた建物はあまり綺麗ではなかった。レノンは周りの雰囲気や建物の外見から、ここが治安の良い場所ではないと理解した。建物に入ると、薬やポーションが並び、受付には少年が座っている。レノンは少年に話しかけた。
「すみません、レオという人物がここにいると思うのですが、今お話しすることはできますか?」
少年は警戒心を見せながら尋ねた。
「あんた誰だ。俺はあなたのこと初めて見た。まずは名前を教えてくれよ」
「すまない。自分から名乗らないのは私の落ち度だ。私の名前はレノン。レオと昔同じ冒険者パーティーに所属していたんだ。」
「なるほどな。前に冒険者パーティーを組んでたってレオ兄に聞いたことがある。俺の名前はヤン。今からレオ兄を呼んでくるから、絶対店の商品を取るんじゃねえぞ」
少年は階段を上って行き、しばらくするとレオを連れて戻ってくる。レオはレノンに言った。
「昨日会ったばっかりなのに早いですね。レノンさん、もしかしなくても、何か用事でもありますか?」
「実は薬やポーションを俺に売って欲しいんだ。もし売ってくれるなら俺の事情を話すつもりだ。リンゴ酒も少し買ってきた。ぜひお前の師匠に会わせてくれ」
「分かりました。ついてきてください。一応、師匠と相談して決めてください」
そして、2人は階段を上って行った。少しアルコールの匂いがレノンの鼻に届いた。
「お前の師匠ってどんな人だ?」
レノンはレオに訊いた。
「そうですね。根はいい人なんですけど。自分に関心がないことに関してはかなり雑ですね」
2人がボロボロの扉の前に到着すると、レオが扉をノックしてから部屋の中に向かって言った。
「師匠、入りますよ。それと私の友人が師匠に会いたいそうなので連れてきました」
扉の中から返事はなかったが、レオは扉を開けて部屋の中に入って行った。部屋の中央には大きな古い木製のテーブルがあり、その上には様々なガラス瓶や試験管が並んでいた。瓶には様々な色と形の植物の葉や根が詰まっており、不思議な液体が入っている。テーブルの周りには、古びた本や巻物が散乱しており、ポーションの秘密のレシピや魔法陣が書かれたものもあった。
そして、部屋の隅にあるソファーの上に1人の男が眠っていた。レオはその男性を起こすために体を揺すり始めた。しばらく彼が体を揺すると、その男性が目覚めて言った。
「レオどうした?なんで起こしたんだ。今日は、起こすなって言ったろ……」
その男性は不機嫌そうに言った。それを気にする素振りを見せず、レオは言う。
「実は私の友人である、こちらのレノンがあなたに提案する事があるらしいです。なので一度お話を聞いてもらえませんか? 彼、リンゴ酒を持っても来てますよ」
話を聞いてから、少しの沈黙の後、レオの師匠は喋りだした。
「……なるほど、そういうことだったか。レノンといったか?とりあえず適当に座ってくれ、話を聞こうじゃないか」
レノンはレオの師匠である男と話を始めたのだった。まずら初めにその男はレノンに対して訊く。
「それで何のようだ、レノン。とその前に俺の自己紹介をしよう。俺の名前はマギウス。知ってると思うが、薬師でレオの師匠をしている」
レノンはマギウスに対して言う。
「初めまして。私はレノンです。現在は商人をやっています。昔にレオと同じパーティーを組んで冒険者をやっていました。
今回のお話というのは、私は数日後に薬やポーションといった商品の需要が上がると見込んでいます。理由としては、憶測の範囲を出ないのですが、ヴァインクラッシャーの大規模な討伐依頼が冒険者に行われると考えているからです」
その内容を聞いて、マギウスはレノンに言った。
「どうしてそう思ったんだ?」
「まず、冒険者の間でここモンテルビオ近辺で大規模な討伐依頼が行われるという噂がたっているそうです。それに加えて、ここよりさらに北に行った土地で生産されている農産物に、被害が出ていると聞きました。と言っても、どちらも複数のソースを持っているわけではないですが……」
「そうか……俺には確認する手段があるわけじゃないからな。ただ、ありそうな話ではあるな。ポーションなどを悪用する気はないんだろうな?」
「悪用はしません。ただ必要になるところに必要なものを供給するために作って欲しいだけです」
「まあ、俺にとってはその依頼があろうがなかろうが利益になるから作ってやってもいいと思っている。でもポーションや薬っていうのは基本的に大手商会が強い権力を持っている。よく言うブランドってやつだ。仮にお前が在庫をたくさん持っていても売れるとは限らないんだぞ」
「私が商人になって思うことは、自分みたいな新参者は利益を得るのが難しいということです。それでも、今回は利益も見込めると思ってますし、意義のある行動だとも思っています。もし、在庫を抱えたとしても、正しく使われるところに赤字になろうが売って見せますよ」
マギウスは協力するか迷っていたが、彼の話を聞いて考えを改める。
(こいつなら問題ないだろう)
「分かった。少し本気を出してやろう。最近はあまり仕事をしていなかったからな。材料費なんだが、作り終わった後に何%負担するかを決めよう」
マギウスは真剣な顔で言った。
レオもマギウスの真剣さは感じ取っていたが、彼のあまり利益にこだわらない姿勢のせいで最近苦労させられていたので、不満を少しだけ彼にぶつけていた。レノンはマギウスに訊いた。
「今持ってる材料で作り始めてもらうことは可能ですか?後、材料は必要になると思うので自分の方で材料は用意します」
マギウスはその言葉を聞いて、服を着替えて薬やポーションを生産するための部屋に消えていった。
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