第7話 別れと依頼の終了

 レノンが帰ってくると、リリスが彼に訊いた。


「レノンさん、どのような知り合いですか?」

「前回の商売の中で知り合った商人だよ」

「何かいい情報は手に入りましたか?」

「特別何かいいことがあったわけではないね」


 レノンも笑いながら返す。そこで、ダリウスが言った。


「出発の時に討伐の依頼の話をしてただろ。実は昨日冒険者ギルドに行ったんだが、モンテルビオで近々かなり大きな討伐依頼が募集されるらしい」


(それが本当なら、今はまだ街道で冒険者をたくさん見ないが、そのうち増えるんじゃないだろうか)

 

 とその話を聞いてレノンは思った。その話を聞いて、ラーラは言った。


「もしかしてその依頼に参加したかったら、さっき討伐依頼の話をしていたの?」


 ダリウスは少し呆れた表情をして言う。


「その依頼に参加したかったかどうかと言われると微妙だ。この話に関しては討伐対象の情報も出てないし……流石に俺もそこまで馬鹿ではない」


 ユウジンが言った。


「ところで、この時期になるとどんなモンスターの討伐依頼が出るんでしょうね?」


 リリスが言う。


「大規模の討伐依頼が出るっていうことはモンスターが増えすぎてるっていうことでしょ?ヴァインクラッシャーとかじゃない?」


 レノンは言った。


「ヴァインクラッシャー かありえそうだな。奴らは農地に被害を及ぼすし、森の中で早期に発見されたのなら依頼が出る可能性はあるな」


 ラーラは別の意見を言った。


「もしかしたら、ドラコンダを見つけたのかもしれないわね」


 リリスがザラに訊く。


「ドラコンダって何?」


「ドラコンダはドラゴンの頭を持った蛇の大型のモンスターよ。ヴァインクラッシャーと違って数が多いから討伐依頼が出るタイプのモンスターじゃなくて、個の力が非常に強いモンスターだから、町の近くに出ると大規模な募集がかかる可能性があるの」


 ダリウスが言う。


「ドラコンダなら参加人数によるが、俺たちのランクだと参加できるかどうかの瀬戸際だな。正直、俺たちがほとんどを仕事ができるとは思えない……」


 そこで、エルシャンが言った。


「正直、ここで話しても仕方がないような内容ではある気がする。実際に街についてから、ギルドの中に掲載される情報を待つべきだと思う。思いつく可能性のある魔物は事前にギルドで本を借りる形で調べておくということにしよう」


 エルシャンの一言により、彼らは休憩に入ることになる。実際に彼らが話している間にも入れ替わりの形で多くの馬車がこの休憩ポイントを利用しているため、そこまで周りを警戒する必要はないと考えられる。


 前日に町にいたこともあって、そこまで彼らはやりたいことがあるというわけではなかった。湖畔で釣りを行ったり、時間の余裕のある今だからできる、フライパンや鍋といった調理器具の手入れを行っていた。


 彼らは日が暮れる前に一度集合して、明日は最後の移動の予定を地図を用いて話し合った。レノンは明日が最終日であることを少しだけ寂しく思うのだった。



 そして移動の最終日である、9日目がやってくる。この日も他の日と同様に天気も良く、多くの馬車が彼らと同じ道を行き交っていた。彼らが野営していた地点からモンテルビオへは直ぐのため、おそらく昼過ぎには到着できるとレノンは推測していた。


 最終的に彼が推測していた昼過ぎよりは少し遅い時間帯に到着する形となった。モンテルビオの街の門は非常に混雑していて、かなり多くの門番が忙しなく動いていた。レノンも自分の商会の手形を手元に準備し、オルフェウスのメンバーと談笑しながら時間をつぶす。


 そして彼らの番がやってくると紹介の証明書を提出した後に、今回の目的を門番に伝えて、あっさりと門の中に入ることができた。とはいえ、並び始めてから1時間程度の時間が経過していた。レノンは彼らにナイフの受け渡しが明日なので、明日冒険者ギルドから報酬が受け取れるようになっているということを伝えた。彼らと9日間の旅を終える。レノンは彼らに別れ際に言った。


「また逢おう、みんな」

「「それじゃあ」」


 彼らもそれに返事をしたのであった。レノンは彼らと別れて宿へ行き、7日分の宿泊費の5000ゴールドを払った。その後、市場の方へ散策に行く。モンテルビオは少し東に行くと海があるので、海産物が多く並んでいた。


 

 また、交易が盛んであり、シルバーウッドと比べても、非常に色とりどりの店を確認することができる。農産物の価格はこれまで通ってきた町や村よりも安い。レノンは時間にしては少し早いが1人で酒場に行き、久しぶりにお酒を飲むことにした。


 酒場のメニューにはたくさんのチーズがあり、ビールに比べてワインやりんご酒の種類が多くあった。お酒を楽しんでいると、店に1人の男が入ってくる。そしてその男はレノンに声をかける。


「すいません。もしかしてレノンさんですか?」


 その言葉を聞いて、レノンはその男の方へ顔を向ける。そこには彼の元メンバーであるレオがいた。


「久しぶりだな、レオ。もう2ヶ月にもなるか」

「やっぱりレノンさんだ。なんか服装が商人ぽいですね」

「ああ、最近商人になったんだ。だから自分の商会も持ってる。ところでレオはどうしてこの町に?」


「実は自分もレノンさんと同様に冒険者は引退することにしました。皆さんに別れの挨拶をしなかったのは申し訳ないと思っています。その後何をしようか考えていたんですが、自分はかなり薬師に興味があったので、この町に来ました。ここは物流が非常に発展していて、薬の原料や未知の素材が市場に豊富にありますよ。現在は特定の薬師の元で修行中で、さまざまな知識を得ています」


 2人はその後、元パーティーメンバーの現在について、お互いの知っている情報を話し合った。一段落するとレオは自分の師匠がお酒好きであり、ここのりんご酒を買ってこいと言われてきたとレノンに伝えて、りんご酒を買ってから自分が現在働いている場所のメモを彼に残していった。


 その後、レノンは酒場のマスターから酒やチーズの生産場所について教えてもらった。酒代の200ゴールドを払ってから酒場を後にする。彼はリンゴ酒の飲みやすさもあってか少し飲み過ぎていた。


 少し足取りもおぼつかないような状態で、彼は自分の宿に戻る。彼は眠る前に明日のナイフの受け渡しの時間を確認してから眠りについた。




 レノンは朝起きて朝食を取った後、今日の受け渡しの時間をもう一度確認する。彼は遅れる可能性を危惧して、予定の時間よりも15分ほど早く宿を出発した。


 彼が泊まっていた宿からグレースエッジ商会の支部までは、そこまで時間がかからないことを彼は理解していた。また朝の10時頃という比較的交通量が落ち着いた時間帯であったため、道路を馬車があまり通っておらず、スムーズに進むことができた。


 案の定、彼は予定通り15分程度早く到着したが、倉庫の前で道を塞ぐわけにもいかない状況に直面し、どうするべきか悩んでいた。倉庫には何台かの馬車が停まっており、荷降ろしや運び込みが行われている光景が広がっている。その中で、1人の従業員がレノンの馬車を見つけ、不審に思って近づいてきた。


「すいません、お尋ねしてもよろしいでしょうか?グレースエッジ商会へのご用件ですか?」


 レノンはその従業員に向かって答える。


「私は、星屑商会のレノンと申します。ナイフの受け渡しを15分後に控えており、早めに到着したのですが、馬車を置く場所に少々困っていました」

「私はグレースエッジ商会の従業員、ダンと申します。副支部長の方にどうするべきか聞いてくるので、少しだけお待ちいただけますか」


 レノンは了承すると、男性は急いで倉庫の奥に向かって行った。

 約5分後、ダンが戻ってくる。


「ナイフの受け渡しを担当している方がすぐにご案内できるとのことです。馬車を現在利用できる倉庫のスペースに停めてもらってもよろしいでしょうか?」


 レノンは同意し、ダンは馬車の誘導を始めた。彼は倉庫の一角にある空きスペースにレノンの馬車を誘導した。レノンが馬車を停めると、すぐに1人の女性が駆け寄ってくる。


「まさかこんなに早く来ると思ってもいませんでした」


 彼女はそう言ってから、さらに続ける。


「私は今回、ナイフの受け取りを担当させていただきます。グレースエッジ紹介のミラと言います。本日はナイフの輸送をしていただき、ありがとうございます。今から積荷の確認を行いますので、一度建物の中で確認が終わるまでお待ちいただくことになります。私についてきてください。」


 ミラはダンに積荷の確認の方をお願いしてから、レノンを建物の中に誘導していく。

 彼が誘導された部屋は、机が1つ、椅子が4つほど並んでいるだけの、少し殺風景な部屋だった。 ミラはレノンに椅子に座るよう促し、彼が座るのを待った。



「おそらく、ナイフの確認には約30分ほどの時間がかかるかと思いますが、ここでお待ちいただくか、建物の周りを散策してか戻ってきていただいても構いません。どちらがいいですか?」


 ミラが尋ねると、レノンは少し考えた後、彼女に言った。


「そうですね、それならしばらくここで待とうと思います」


 彼女が部屋を出て行ってから、彼は特にやることもなく、時間をつぶしていた。

 すると、暫らくしてミラが再び部屋に入ってくる。


「レノンさん、ナイフの確認が完了しました。すべて問題ありませんでした。今回の輸送に感謝します。それでは、報酬の受け渡しを行いましょう」


 ミラは言いながら机の上に紙とペンを用意し、契約書を完成させるために、レノンにサインをしてもらうようにお願いした。レノンはペンを使って自分の名前を書き込んだ。それから、ミラは懐からお金の入った麻袋を彼に渡す。


「事前にお金の確認をしましたが、30000ゴールドです。お手元でも確認していただけますか?」


 彼女がそう言うと、レノンは袋の中身の確認を行った。金額が契約通りであることを確認し、お礼を述べた。


「契約通りの金額です。ありがとうございます」


 彼女はその言葉を聞くとレノンをこの談話室から倉庫まで案内する。そして、レノンは彼女に挨拶をしてから、宿に馬車を持っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る