第6話 ソレアドから

レノン達は森を抜けた先にある砦で厳しい検問を受けていた。更にそこから進むことで、ソレアドへと行くことができる。ソレアドはそこそこの規模の町であり、森が近いことを活かして、森の近くや中で育てられるものを活かして発展していた。特にポーションなどの薬品に分類される素材の産地として有名であった。

 

砦の外壁は、森側に対して重点的に設置されており、北側の町の最初の防衛ラインとしても機能していた。馬車の中に、怪しいものが紛れていないかをかなりの時間をかけて検査された後、レノン達はソレアドへの道を進み始める。


「ここの検問はかなり厳しかったですね」


レノンが彼らに言った。それに対して、ラーラが言う。


「昔、植物系の魔物の種子が馬車の荷物に紛れ込んでいて、かなり大きな事件に発展した経緯があるそうで、その失敗を繰り返さないようにしているそうですよ」

「それなら、あれは納得だな。今日中にはソレアドに到着できるだろうから、ゆっくり休もう」


 砦からの道は、整備が行き届いており、非常に安全であることが分かる。すれ違う馬車の数も多く、巡回のために数人のグループ単位で、冒険者や騎士が道を歩き回っていた。レノンはそれを見て言った。


「シルバーヘイブン側もこれくらいしたほうがいいのかもしれないな」


ダリウスは言った。


「こういうのは、金がないとできないからな。モンテルビオは、この国で一二を争うくらい有名な交易の町だから、金があるんだろうな」


それを聞いて、ユウジンも言う。


「それに、安全性をアピールできれば、より多くの商人が来るでしょうからね」


レノンは彼らに言う。


「そうだな。実際、輸送中に襲撃を受けることが商人へのダメージが大きいから、ソレアドの町の近くでここまでされているなら、かなり安心だろうな。少なくとも南側からくる人間にとっては」



そして、3時間程度道を進みソレアドの町へと彼らは到着した。晩御飯をオルフェウスが泊まる予定の宿で一緒に取ることを約束してから、レノンは彼らと別れた。レノンは宿をとってから二日間の移動のための食料を買うために、この町の市場へ向かった。



 この町の市場は、案の定森でとれた果物や山菜などが多かった。一方で一般的な農産物を売っている露店は少なかった。理由としては、朝から昼の時間帯に市場で販売される新鮮な野菜は売れてしまうそうだ。

 

 また、猟師が捕まえてきたであろう獣の肉を売っている店も多く、話を聞いているとそれを売りにした食堂もちらほらあるようであった。

 

 農産物などは、商会が出している店で買えると市場で教えてもらい、そこで食料を買った。価格はどうしても少し高くなっているものが多く、輸送コストを考慮した結果だとレノンは感じていた。

 

買い物を終えたレノンは、支給されたお金の範囲で最後の食料を買えたことに安堵した。



翌日、ソレアドからレノン達は出発した。このメンバーの旅も残り二日になり、レノンは少し寂しさを感じていた。ソレアドからモンテルビオの道も非常に整備された道が続いていた。そのおかげもあってか、非常に良いスピードで進めており、頑張れば一日でモンテルビオへ到着できるのではないかというほどであった。レノンはオルフェウスのメンバーに言った。


 「ここまで交通量が多い道は初めてだから、そんなに急がずに進むことにするよ。距離も二日予定にしては短いからね」


オルフェウスのメンバーも「分かった」と返事をする。その後、レノンが訊く。


「そういえば、オルフェウスは向こうに着いたらどうするんだ?」


ラーラが言った。

 

「少し休んでから、行商人の護衛依頼を受けるだろうね」


すると、ダリウスが言った。


「たまには討伐依頼に行ってもいいんじゃないか?」

 

リリスやユウジンもそれに同調した。ラーラは少し歩きながら考えてから言った。


「モンスターの種類次第にしない?難易度が高すぎても大変だし、失敗したときにお金的にも肉体的にも被害が大きくなるから」

「それはわかってる、だから長めに滞在して、討伐依頼を段階的に難易度を上げていこうぜ」

「絶対、護衛依頼飽きてるでしょ」

「たまにはいいだろ。ブルートスクとの戦いもあって、少し体を動かしたくなったんだよ」


ダリウスがそう言うと、オルフェウスの皆は討伐依頼を受ける方向で決定したようだった。その後、エルシャンはレノンに訊いた。


「ところで、レノンさんはどうするんです?」

「俺は、1週間くらい滞在するつもりだな。それで、よさそうな情報が手に入れば、それに合わせて動こうと思ってる」


ユウジンが言った。


「それじゃあ、また何回か顔を合わせることもあるかもしれませんね」

「その時は、一緒にご飯でも食べよう」


彼らは雑談しながら進み、話題は今日の野営地の話になる。この地域は町と町の間に点在する野営用のスペースが用意されていた。


「この街道の野営施設、便利だね。アルカサル侯爵家の指示で作られたんだって聞いたことあるよ」

 

ラーラが皆に言った。


「確かに、こうした施設があると、長い旅の途中でも休息が取りやすくなるな。」


 とレノンが言った。彼らは街道沿いの湖畔に、アルカサル侯爵家によって整備された野営地を見つける。数個の馬車が既にこのスペースで休憩を行っている。レノンは彼らに言った。


 「今日はここで休憩だ。正直、一日で行ける距離だが……まあ、悪くないだろ?」


 彼らは、昼過ぎに到着したこの場所で明日に備えることに決定した。野営の準備を始めている彼らは、注目の的となる。他の商人グループ同士が話すということは無かったが、レノンも他のグループを確認したりしていた。その中で、レノンは一つの商人グループに既視感を覚えた。 彼は、ヘンリーの姿を確認して、彼に挨拶をしにいく。


 「ヘンリーさん。久しぶりですね、レノンです。覚えてますか?」


 レノンが言った。そして、ヘンリーがレノンを見て言った。


 「久しぶりですね。レノンさん、一月ぶりじゃないですか?懐かしいなあ」

 「今回もお急ぎですか?」

 「今回はそこまで急いではいないんですが、ここより先のところで、野営しようと思ってます」


 そこに、ヘンリーの護衛をしていたリーダーのウォードがやってくる。


 「ヘンリーさん、休憩時間どうしますか?って、レノンじゃないか、久しぶりだな」

 

 レノンもウォードに言う。


 「久しぶりですね、ウォードさんも。そうだ、昼ごはん一緒に食べてもいいですかね?少し仲間に連絡してきますね」


  ウォードは彼に訊く。

 

 「もしかして、カイルたちか?」

 「今回は違いますね。別のパーティーです」

 「それは少し残念だな」


レノンはオルフェウスのメンバーの元へ歩いて行った。そして、レノンはヘンリーたちとご飯を食べることを伝えた後、ヘンリーたちのところに戻った。

 


彼らは、前回会った時と違って、料理を作っていた。チームの男性の一人であるエレンディラが料理を作っていた。彼はとても手際がいいことがうかがえる。その横で他のメンバーとレノンは話を始める。


「前回あったときの商売は上手くいきましたか?」


レノンが訊いた。


「上手くいきましたよ」


ヘンリーが言った後、更に彼は続ける。


「私の家業のティンバーバーグ商会は基本的に家具職人をほとんど抱え込んでいるような状態なので、こちらから売りに行くというよりは、お客様からの依頼がほぼすべてを占めています。家業として何代もやっていますから、貴族を始めとしたお金を持つ人がメインのお客様って感じなので、基本的に失敗はありません」


彼の護衛であるウォード達も冒険者ギルド所属ではなく、商会の構成員の家系から構成されているらしい。


「レノンさんは今回何を運んでいるんですか?」

「ナイフを運んでますね。知り合いの伝手で仕事を紹介してもらった形です。グレースエッジ商会のナイフの輸送ですよ。」


「確かにあそこは有名ですからね。ということは、まだ、よさそうな商品を探しているといった段階なんですね」

「そうですね。まあ、ワインの買い付け先を見つけることはできたんですけど、契約期間の関係でまだ買えないんですよ」


「それでも、買い付け先を見つけられたのはいいことですね。ただ、後入りで売る形になるでしょうから、すごい大変だとは思いますが頑張ってください」

「何かこちらの地域に関して、情報があったりしますか?」

「自分も、こちらの地域まで足を運ぶことは珍しいですから、特に面白い情報はないですね」


 他のメンバーも大した話はできないといった顔をしている。その中で、ヘンリーは思いついたように彼に言った。


「無難にはなりますが、学校の入学シーズンが終わると、貴族の子供が翌年の入学を控えている場合は、パーティの準備とかを始めますね。まあ、貴族のお抱え商人くらいしか絡めない世界だとは思いますけど」


 レノンはその言葉から自分が絡めそうなものがないかを少し考える。しかし、答えは出なかった。


「もしかして、ヘンリーさんはそれ絡みですか?」

「ん~……当たらずとも遠からずですね」


 レノンはヘンリーに対して、なんらかの情報をあげるべきだと考えたが思いつかなかった。そのため彼は自分がワインの会社と提携できたことから、次にグラセドに行く際にワインを持っていく約束をしたのだった。そして、彼らと一緒にご飯を食べ終わり、レノンは彼らに別れの挨拶をした。


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