満点の世界で失くしたもの

@hyorigan

満点の世界で失くしたもの

 天球高く澄み切る空の下、いつもと変わらない、退屈な日々が続いている。この村は渓谷によって二つに分けられていて、私の神社があるこっち側は診療所と図書館がある。あっち側は学校やスーパーがあるらしい。

 ここは山の中腹にあり、下の町まで行くには車で20分ほどかかる。こんな山の中に仕事なんてないので大抵の村の人は町のほうで仕事をしている。そして小学校、中学校は一貫で同じ校舎を使い中学を卒業すると、県外の寮制の高校に進学する人がほとんどだ。



 「ねぇ今日は何して遊ぶ?」

月岡詩織が身を乗り出して聞いてきた。僕と当麻佐介はうーん、と同時に唸った。数秒の沈黙の後、

「もうこの村で行ってないところなんてないし、してない遊びなんてないくらい遊んだよな」

佐介が今までのことを思い出しているかのように眉をひそめながら答えた。

「じゃあさ!今日はダム公園にいこうよ!」

詩織がまたもや元気よく提案した。

「えーやだよ、遠いし吊り橋も渡らなきゃいけないじゃん」

「伊吹なんか毎日吊り橋わたって学校に来てるんだよ、あんたはいつまでびびってるの!」

「別にびびってる訳じゃないけどさぁ…」

「佐介は本当に感情が顔に出るよな」

僕は冗談まじりに言った。

「伊吹は行くの?」

「もちろん。家にいても暇だしね」

「んあー、んじゃ行くか」

どうやら覚悟を決めたようだ。そんなに吊り橋が嫌か。


 駐輪場に止めていた自転車に乗ろうとしたとき

「あ!弟に今日帰るのおそくなるって言うの忘れてた!」

佐介が僕らに聞こえるような大きな声で叫んだ。詩織が少しびくっとして

「どうする?一旦教室戻る?まだ教室で喋ってるんじゃない?」

と振り返って聞いた。

「うん、行って来る!ごめんちょっと待っててすぐ戻ってくる!」

佐介は走って教室に戻っていった。

詩織と二人きりになった。別に気まずいわけじゃないけど、何とも言えない微妙な雰囲気が流れている。

「なんで今日はダム公園に行こうと思ったの?」

「それはねぇ、今4月じゃん?だから公園にある桜の木がきれいに咲いてるんじゃないかなぁって思ったんだ。それにね、こんなにいい天気だと頂上から見る景色はきっと最高だよ」

詩織はそう笑顔で楽しそうに言った。僕はその景色を想像して、きれいだろうなとつぶやいた。そういえばもう4月か。早いな、きっと来年の今頃も同じこと思ってるんだろうな。そんな会話をしていると佐介が走って戻ってきた。

「ごめんごめん遅くなった。あいつ教室にいると思ったら中庭で遊んでてよ」

膝に手をつき息を切らし、呼吸を整えながら

「よし、公園行くか」

と顔を上げて僕らのほうを見ながら言った。



 自転車に乗り校門を出てまっすぐ進むと右側に吊り橋が見えてきた。

「はーい第一関門に到着でーす」

詩織は佐介のほうを見てニヤニヤしながら言った。ここの吊り橋は標高675m、全長258m、全幅2.5mだ。車も一応通れるが一台ずつじゃないとだめらしい。

「よし、もうパッと行こう」

佐介は気持ちが変わらないうちに行きたいみたいだ。詩織は不敵な笑みを浮かべて「えーゆっくり行こうよぉ。もっと景色を楽しみながらさぁ」

僕に目配せをしながらいたずらな笑みを浮かべて言った。


 吊り橋を渡りきると正面と左側には鬱蒼とした森が広がり右にしか進めなくなっている。佐介は軽く冷や汗をかいている。そのまま一本道を進むと左側にある図書館を通り過ぎ10分ほど進むと突き当りに僕の家が見えてきた。

「伊吹の家見えてきたねー。おばさん今日お仕事?」

「うん、今日は仕事だよ。19時には帰ってくると思うけど」

そんな会話をしながら左に曲がる。

「でも大変だよなぁ。俺の親も詩織の親もそうだけど毎日町まで下りて仕事しに行くなんて」

「まぁね、でも仕方ないよ」


 僕の家の前を曲がりまっすぐ進むと右奥に魅神神社が見えてきた。一般的な神社は神様が祀られていたり、神様が住む場所とか考えられていたりしているみたいだがここの村の神社は鬼の神だか神の鬼だかが祀られているらしい。

その昔、人間の里に降りてきて一緒に生活していた人間ではない者のみを殺して食べていった。その結果、村人たちは今まで騙されていた事に気づき、その鬼を神のように祀ったという。

魅神神社は代々、魅神家が受け継いでいて、そして次代の当主が魅神紬になるみたいだ。


 門の入口に一瞬影のようなものが見えた。



 「あ、いいなぁあの子たち。いつも3人で遊んでる」

四脚門の外側を覗くとその姿が見えた。

「同じ村に住んでるのに名前もわからない、年齢もわからない、でもたぶん同い年ぐらいだろうな。何が好きなんだろう。何が嫌いなんだろう。今日学校で何か面白いことはあったのかな」

私はだだっ広い境内の中を散歩しながらそんなこと考える。


 「今神社の中に紬ちゃんいた?」

「紬ちゃんて、お前喋ったことないだろ。向こうは俺らのこと1ミリも知らねぇよ」

佐介がぶっきらぼうに言った。

詩織がもーと言いながらほっぺを膨らましている。



 右手に中尾診療所が見えてきた。今日も診療所には村の老人が5,6人程度いるみたいだ。

診療所を通り過ぎるとダムのある山が見えてきた。山の名前は「赤部山」となっているが村の人たちは「ダムの山」としか呼んでいない。

山の麓に自転車を止め、緩やかな坂を登っていく。木や草が青々と輝いている。幼いころから慣れ親しんだ景色だが飽きる気配がない。山の中腹まで歩くとダムが見えてきた。

「ダムも見ていこうよ!」

僕たちは詩織の行くままに後ろをついていった。

ダムにかかっている石橋の上から広く見渡す。周りの木や遠くの町が目に入る形で眺めると人工的だが壮大な景色が広がっている。しかし石の壁に少しよじ登り、真下を見下ろすと水面までの距離がはっきりとし、もし今落ちてしまったら…などと余計なことを考えてしまう。嫌な気持ちになる前に体を起こし、また周りを見渡す。

3人とも遠くを眺めている。風が心地いい、この時間が好きだ。この心落ち着く時間がとても好きだ。

5分ほどたっただろうか、そろそろ行こうぜと佐介が僕らに呼び掛けた。

僕らは山の頂上にある公園を目指し歩いた。

「やっぱり、何回見てもきれいだよな、本当に好きだなあの景色」

僕は大きな独り言のように言った。

「うん!私もダムからの景色好きだ。だけど私は公園からの景色のほうが好きだな」

「佐助は?」

「え、何が?」

「ダムか公園かどっちの景色の方が好きなの?」

「あー俺は学校の屋上からの景色が一番好きだな」

「あ、そっち」

僕はダムか公園以外の選択肢が来ると思わず、大げさに反応してしまった。

「山に比べたら屋上は低くない?なんで屋上のほうがいいの?」

「ばーか、わかってねぇな。高ければいいってもんじゃねぇんだよ。今日みたいに天気がよかったら屋上でそのまま寝られるだろうが」

2人で佐介らしいと笑った。


 そんな会話をしていると頂上の公園に到着した。と、同時にきれいな風が僕らの顔を通り過ぎていった、花弁が風と共に流されていく。

20~30本はある満開の桜がきれいに公園を囲っている。 

「うわぁ、やっぱりきれいだね」

詩織が満足そうに穏やかな声で言った。

「そうだね、この季節はこの場所が一番春を感じられるね」

僕は大きく息を吸い込み、肺いっぱいに桜の匂いを取り込んだ。

佐介が奥にあるベンチの方に歩いていき、座った。上を見上げてだらっと脱力したようだ。僕らもベンチの方へ歩いていき、佐介が真ん中になるように座った。ベンチから見える景色はダムから見える景色よりも邪魔をするものが少なく、村を囲っている山々、その下にある町までもが見えた。

しばらく3人で春風を感じていた。この時間が大好きだ。今ならどんな大罪人でも許せそうな気がする、もし神様がいるのならこの村で生まれて詩織と佐介に出会わせてくれたことに感謝したい。そんな気分だ。

「今日はもう満足だぁ」

僕は目を閉じていたからどんな表情で詩織が言ったのかわからないけど僕と同じ気分みたいだ。

佐介がゆっくり立ち上がり、帰るか、とつぶやいた。



 「ねぇねぇ二人とも、今日は新月だね」

教室には僕ら以外にだれもいないが詩織は声を落としている。

「行ってみたいところがあるんだけど…」

「え、もしかして…鬼召沼?」

僕はすぐに感づいた。

「そ!正解!」

詩織は人指し指を上に向け、自慢げに胸を張っている。

佐介は少し嫌そうな顔をした。

「だってこの前、佐介がもうこの村で行ってないところなんてないし、してない遊びなんてないくらい遊んだよなって言ってたじゃん!だから私も考えたんだよ!」

「…わかったよ、いくよ」

佐介が静かにうなだれながら言った。

「僕も行くよ」

「よし!決定!それじゃあ今日の夜12時伊吹の家集合ね」

詩織はそう言い、鞄を持ちあげた。

「ほら何してるの!帰るよ」

僕と佐介も鞄を持ち、とぼとぼと詩織の後を追いかけた。

「俺余計なこと言っちまったよ…」

「佐介怖いのも苦手なのにな」

2日連続で苦手なことをしなければならない佐介を少し不憫に思った。

「でもまぁ、4月の新月の夜に鬼召沼から鬼が這い上がってくるなんて伝説は嘘に決まっているんだから詩織の気が済んだらすぐ帰ろうぜ」

「その時は伊吹も説得してくれよな」

「もちろん」


 夜12時になった。僕は約束通り家の前で2人を待っていた。これから向かう鬼召沼は魅神神社の隣で村唯一の診療所―「中尾診療所」―の裏にある。

当たり前だが月が全く見えない、街灯は点在しているがやはりいつもより暗いように思う。それに蒸し暑いな。そんなことを考えていると佐介と詩織が僕の家に向かって自転車に乗ってくるのが見えた。僕が片手を上げると佐介と詩織も片手をあげた。

「よし、行くか」

僕が小さな声で言った。

「どきどきするね」

詩織はにやっとして小さな声で言った。

「うん。ちょっと楽しみだね」

これは僕の本心だ。皆でちょっと悪いことをするときのこの背徳感と高揚感の入り混じった感覚は癖になりそうだ。そんな僕らを佐介は信じられないという感じで小さく溜息をついた。

 僕の家から診療所までは自転車で10分もあればつく。少し蒸し暑いが夜風が気持ちいい。近所の人にこんな時間まで遊んでいることがばれるのはあまりよくない。3人ともその思いがあったのか診療所につくまでは一言もしゃべらなかった。

 診療所は真っ暗でうす暗い豆球だけがついているのが分かる。

僕たちは自転車を降り、それぞれ懐中電灯を点けた。

「さすがに暗いね」

そう言いながらも詩織はずんずんと林の中をめがけて進んでいく。佐介は磁石のように僕にくっついてきた。林の中は虫の鳴き声と風に揺られ葉がこすれる音しか聞こえない、稀にヒョーヒョーと鳥が鳴く声も聞こえる。鵺が出てきて食われるんじゃないかとすらも考え震えた。鬼召沼が微かに見えてきた…ところで先頭にいた詩織が立ち止まった。

「なにかいる」

ぼそっとつぶやき僕らを振り返り、しっ、と右手の人差し指を口に当てた。

本当に新月の夜に鬼が沼から這い上がってきたのか、はたまた鵺が沼で羽を休めているのか、そんなことが頭をよぎった。佐介の全身が強張っているのが左腕越しに伝わってくる。

「誰かいるの?」

沼のほとりにいた者がふいにライトをこちらに向け話しかけてきた。幼い少女の声がした。

「すみません、怪しいものではないですよ。今日ってほら新月だし、沼から鬼が這い出てきたりするのかなって…ただの肝試しですよ」

詩織がとっさに答えてくれた。

「なんだ私と一緒なのね」

お互い歩みを進め顔が見える距離まで近づいた。その時にはすでに佐介は僕に掴まってはいなかった。

「で?お前だれ?」

佐介の身代わりの速さにはあきれた。

「魅神神社次代当主、魅神紬と申します」

少女は丁寧にお辞儀をした。よく見ると上品な寝巻用の浴衣を着ており言動にも余裕があった。

「え!紬ちゃん⁉本物⁉」

詩織は紬の顔をまじまじとのぞき込み始めた。

「ごめんね、僕は夏目伊吹。こっちの態度が悪いのが当麻佐介、そのはしゃいでいるのが月岡詩織だよ」

「わぁ!可愛い!いつもお祭りのときとか放課後に神社覗いたときに遠くから見かけるくらいだったから今日会えてうれしいよ!紬ちゃんはなんで学校に来ないの?もっと仲良くなりたいのに」

おい、と詩織を制止しようとしたとき紬が答えた。

「そういう決まりみたいで、私にはどうすることもできないの」

「神社抜け出して遊びに行くのはダメなの?」

「そういうのは何も言われてないね」

「じゃあさ!明日の16時半、学校の校門前まで来てよ!どこか遊びに行こう!」

ここで会ったのも何かの縁だしさ、と付け加え両手で紬の手を握る。

詩織の圧に押されたようにも見えたが、数秒考え首を縦に振った。

そして、そのまま紬を神社まで送ることにした。

「あれ?紬ちゃんどこか怪我してる?」

「良く気づきましたね、先ほど小枝に足が引っかかって少し切ってしまいました」

「…まぁね、紬ちゃんのこと大好きだからね。よく見てるのよ」

「今知り合ったばっかだろ」

佐介がそっぽを向きながら言った。


 結局、沼には鬼も鵺もいなかった、ただ一人の少女と引き合わせただけだ。


 次の日の放課後、すでに校門前で紬が待っていた。

「あ!紬ちゃんお待たせ!」

詩織が紬の所まで走り、大げさに抱きついた。

「今日はね、」

そう詩織が言いかけた瞬間天気がより一層悪くなってきた。雲が重く、少し紫がかっている。

突然、空間が歪み大きな瞳が闇の中からこちらを覗いてきた。体長2mはあるようだ。

…まもなく自分たちを飲み込むであろう悲劇を前にして、一つの置物のように固まってしまった。

詩織が目を細めて言った。

「何?あれ」

「わかんねぇよ」

佐介が絞り出すような声で言う。

「逃げよう、早く!」

紬が僕らの腕を力いっぱいに引っ張り、倒れるように逃げ出した。


 私は3人の腕を強く引っ張り走り出した。

なにあれ、鬼?大きかった。もしかして父上が言っていた幽世の存在?そうじゃないと説明がつかない…、言い伝えが本当なら逃げる必要なんてないのかもしれない。でも、目があった瞬間、反射的に逃げ出してしまった。鬼は?追いかけてきている?どうしよう、山からは下りられないしとりあえず神社までたどり着けばどうにかなるかもしれない。

少し振り返ってみる。

「えっ」

鬼が私の方を一点に見つめているだけで動こうとしない。


 吊り橋を一心不乱に走り切った。もう少しで神社だ。図書館を通り過ぎ、突き当りを左に曲がる。右奥に神社が見えてきた。呼吸がしんどい、でも3人の息遣いが聞こえる。目で確認していないが皆すぐ後ろにいるのだろう。

四脚門をくぐり境内が見えてきた。

6,7体の鬼に父上が囲まれている。またもや緊張が走る。

状況が理解できない、父上に怪我はないようだが緊迫した空気が流れている。ぜぇぜぇと息を切らしながら一歩踏み出す。呼吸が乱れすぎて言葉が出せない。

…。一歩踏み出したのは私の意志じゃない。気持ちが悪い、意識が少しずつ遠のいていく。

すると7体の鬼がこちらを向き、ひときわ大きな鬼がこちらに向かって歩いてきた。

「おや、手下を向かわせたはずですが…。そちらから来ていただいたようでご足労をおかけして申し訳ありません」

鬼は見た目とは打って変わって丁寧な口調で話し始めた…のか?口は動いているが微妙に発音と耳に入る音に時間差がある。



 鬼が紬に話しかけ始めた。神主のおじさんも心配そうにこちらを見ている。学校で見かけた鬼は追ってきていないのかと思い、後ろを振り返るが姿は見えない。

「お前たちはなんだ、何が目的だ。もしや異界の存在か?」

紬が聞いたこともないドスの効いた声で話し始めた。ただでさえ意味が分からず震えることしかできないのに、別人のような紬をみて背筋が凍った。

「その通りです、我が英雄よ。我々は異界からあなた様を連れ戻しに来ました。女王様がお待ちです。さぁ帰りましょう」

鬼が紬の腕に触れようとした。

「まって…」

そう言い、紬に手を伸ばそうとした瞬間、暗い重圧が辺りを押し潰した。

僕ら3人は地面にへばりつき、参道のコンクリートの冷たさを感じることしかできない。

顔を上げるので精いっぱいだ。

「私に触れるな。私は神であるぞ。貴様らごときが触れていい存在ではない」

そう言いながら鬼の手を払いのけた、声は低く威厳があり声からは本人だと見分けがつかず冷や汗が止まらない、恐ろしい緊張が襲ってきた。と、同時に神主を囲っている鬼との間の空間がゆがみ始めた。歪みは上に浮遊しながら、だんだんと大きくなり地上7mほどから横に大きく裂け、中から全身が黄土色で6枚の無機質な羽根が生えた昆虫の蛹のようなモノが出てきた。体に似合わぬ人間の手が左右に4本ずつあり、尻尾には大きくすべてを捕食対象としているようなサメの目があった。全長は5mほどでぷかぷかと浮いている。目は閉じ、セミのような顔つきをしていた。

「ほう、来たか」

紬はそう言い、嬉しそうに目を見開いている。それに彼女の面影はなかった。

その瞬間セミの顔をしたモノは鬼に襲い掛かり、1体ずつ頭からかみ砕き、青い血しぶきが飛び散った。鬼は抵抗する間もなくあっという間にその場から姿を消した。

すると、おもむろにセミの顔をしたモノは裂けた空間からこれまた5mほどの鬼を取り出した。四肢は切断され、青い血がしたたり落ちている。

紬がそちらに近づく、セミの顔をしたものが手をかざし紬から黄色い実体のないものを1つ取り出した。そしてそれは自分から鬼の体に入っていった。

紬がバタっと砂利の上に倒れた。今すぐにでも助けたいが底知れぬ恐怖で動けない。

鬼はバキバキと音を立てながら姿を変え始め、30秒ほどで人間のような姿になった。

「ん、その姿でいいのか?」

「何千年も人間の中にいたから今はこの姿のほうが動きやすい」

「それならいいが」

セミの顔をしたモノがこちらを向いた。

「あいつらも殺すか?反逆の芽は摘んでおいた方がいいだろう」

「いや、いい。どうせあんな小僧共には何もできない」

2体の異形のものは裂けた空間に入り、一瞥もくれずにその場から消え去った。辺りには鬼の眼球や手足、はらわたがおぞましいほどに覆いつくしていた。暗い重圧はなくなったはずだが僕ら3人は立ち上がることはおろか、ピクリとも動けず目線を這わせることしかできなかった。


 気が付いたら病院のベッドの上で横になっていた。

丁度横に立っていた看護師と目があった。

「え、夏目伊吹くん?目、覚めた?ここがどこかわかる?」

看護師は優しく、しかし少し焦ったように聞いてきた。

「はい、病院ってことくらいしかわからないですけど…」

声がうまく出せず、かすれた声で返事をしてしまった。

「意識は大丈夫そうね、今先生を呼んでくるから待っててね」

うん、と首を縦に振ると看護師は足早に部屋を出ていった。

今は何時なんだろう、外は明るいから昼過ぎくらいかもしれない。あれ?何か大事なことを忘れているような気がするがうまく思考できない。


 それから医者の質問にいくつか答えたが、言葉の理解が出来ず会話もままならなかった。

ぼーっとしており、ベッドサイドに誰かが置いてくれたアナログの置時計を確認すると午後4時を示していた。丁度その時、病室の扉がスライドされ見覚えのある禿げ頭と細いが芯のある体をした男が部屋に入ってきた。それは魅神神社の神主だった。

その瞬間、あの日の出来事が映画を10倍速で見るくらいのスピードで脳裏によみがえってきた。

ベッドの上から勢いよく体を起こし、

「紬は!佐介と詩織は!どこにいるの⁉」

神主はベッド横まできて安心を与えるような表情で話し始めた。

「紬も佐介君も詩織君はすでに退院している。今は3人とも私の神社で暮らしているから安心してほしい」

3人とも無事だということが分かり、安堵した。それだけで涙が出そうになったが聞かなければいけないことが山ほどある。

「えっと、何から聞けばいいのかな…その、」

「そうだな、聞きたいことはたくさんあると思うが明日の朝、また迎えに来るからその時話しをしよう」

軽く僕を制止しそう告げた。

荷物をまとめといてくれ、それだけ言って神主は病室から去っていった。



 次の日の朝、僕は退院した。

神主は朝10時半に病室まで迎えに来てくれた。そのまま手続きをし、車の助手席に座った。

車は走り出した。

「どうだ体の調子はいいかい?」

「3日間寝ていた割に違和感はないですね。声が少し出にくいくらいですかね」

「そうかそれはよかった」

「…」

「…」

数秒間沈黙が続いた。

「あの、鬼みたいな生き物って何だったんですか?それと途中から紬がおかしくなったのとセミみたいな顔の生き物は関係あるんですか?」

「そうだな、詳しくは神社に戻って4人そろってから話すが、ざっくり言うとどちらもワシらより上位の存在であり、この世界の創造主に近い存在だ。紬との関係は着いてから話すとしよう」

そんなこと言われてもよく理解できないがあれらを目の前で見てしまったから無理にでも納得するしかない。

「そ、それと村は大丈夫なんですか」

「村は大丈夫だ。幸運なことにほとんど被害なんてない、やつらを見た人も幸いなことにいなかったようだ」

想像していたよりも深刻な事態になっていなくて安心した。できれば僕が体験した出来事も夢であってほしかったが…。

「それと伊吹君のご両親には、熱中症で倒れたようだ、と伝えてあるから…。すまんな本当の事なんてご両親に言えなんだ…。」

「いやいや大丈夫ですよ。配慮していただいてありがとうございます」

「それと昼くらいには自宅に帰すように言ってあるから。ちょっとお話したら帰れるから安心してほしい」

「ありがとうございます」

神社に着いてからどんな話をされるのか不安が募ってきた。僕の理解が及ばないかもしれない。

もうすぐ、山の一本道に入る。



 山道に揺られ、ひたすら上り始めて20分が経った。

魅神神社の駐車場に到着し、車の音を聞きつけた紬と佐介と詩織が神社の中から出てきた。

「伊吹!」

3人は10数段ある階段を走って降り、こっちまで迎えに来てくれた。

「生きててよかった…本気で心配したんだぞ」

佐介がそう言いながら僕の体を抱きしめる。紬と詩織も後に続いてとびかかってきた。

「3日も目を覚まさないから…」

詩織がそうつぶやき、紬と2人で涙を目に浮かべている。

「僕も3人が無事でよかった」

本当に怖い思いをしたのだなと脳裏にあの日の出来事が浮かんでくる、どうせこれから嫌でも話を聞かなくちゃいけないが今だけはこの温かみを味わっておくことにした。

30秒ほどが経ち、

「4人とも、そろそろいいか?」

神主がタイミングを計るように話しかけてきた。

僕たちは一旦離れ、うん、とうなずき神主の後をついていく。

12畳ほどの和室に通され、用意されていた座布団に座った。

紬が温かいほうじ茶を湯呑に入れて持ってきてくれた。

それから神主も和室に入り、僕たち4人と神主が向かい合うように座った。

「それでは、話をはじめよう」

神主の雰囲気が鋭いものになった。


 「この神社、魅神神社の成り立ちは知っておるか」

「詳しくは知らないですけど…」

僕は少しためらったが話すことにした。

「昔、人間の里に現れた鬼が人間に化けていた異形の者のみを殺して食べて、その結果、村人たちは今まで騙されていた事に気づき、その鬼を神のように祀ったという。ゆえに『魅神』…名前に鬼と神の両方が使われている理由はそれだと教わりました」

「大まかに言えばそうだが、その話には続きがある。一つ、その『鬼』はどこからきたのか。二つ、『異形の者』とは何のことを指すのか」


 「ワシはあの2種を上位の存在だと言ったが、幽世から来たことしか知らぬ」

「カクリヨ?って何ですか?」

佐介が珍しく質問をした。学校ではいつも寝てばかりで先生と話すときも雑談しかしていなかったのに…。それだけ本気で知りたいのだということが伝わってきた。

「幽霊の世界、と書いて幽世。また常世とも呼ばれておる。この幽世は永久に変わらない変化のない世界であり、ある部分では時間軸がないともいえる世界じゃ」

「日本神話の黄泉の国みたいなものですか?」

「うむ、そんな具合じゃ」

僕らが住んでいるここは何もかもが変化を見せる世界で『現世』と呼ばれているから、それの対極にある世界ってことか…?

佐介と詩織は訳が分からない、という顔をしている。

紬はすでに知っていたかのような表情をしている。

「よくわかんねぇっすけど、要は俺らとは全くの別世界の生き物って事っすよね?そんな世界のやつらがなんで紬を…しかも『迎えに来た』って言っていた気がしますけど」

佐介が必死に理解しようと眉間にしわを寄せながら言った。

「魅神家の言い伝えなのだが、幽世で下位の存在だった鬼が上位の存在である神を食べたらしい…ここではその鬼を『半神鬼』とでも呼んでおこうか。

仲間を食べられて怒った神が半神鬼を追いかけるまではよかったが、半神鬼にとって夢想だにしていなかったことが起こった…。自分以外の他の鬼が自分に襲い掛かってきたことだ。そいつらは半神鬼の一部でも取り込めば自分も神の一員になれるとでも思ったのか、はたまた全く別の事情があったのかは知る由もないが…。

やがて、その鬼が幽世を追われ、我らの『現世』に逃げ込んだ際に人間に自分の体を食わせ、鬼と神二つ分の魂を人間の中に隠したようだ」

神主が何を言いたいのか察してしまった。

「えっと、つまり…鬼と神二つ分の魂を食わされた人間が魅神家の先祖っていうことですか?」

「そういうことだ」

神主は僕らの理解が追いつけるように間を置いた。

「まあ、鬼と魅神家の成り立ちはこんな模様だ。次に『異形の者』についてだが…、先ほど半神鬼が現世に逃げ込んだと言ったがその時に人間も敵に回すわけにはいかず、半神鬼が村人に仲間だった鬼の血を無理やり飲ませ、姿かたちが人間じゃなくなった者を殺して自分は英雄だと、お前らは騙されていたのだと他の村人に信じ込ませた、と言われておる」

「鬼の血を飲まされた時に姿かたちが人間のままだった人とかいるんですか?」

詩織が妙な質問をした。彼女の方に顔を向けると怯えたような、強張った表情をしていて少し寒気がした。

「それは分からぬが、神と鬼の魂を隠された魅神家が人間の姿のままだったということはそういうこともあるやもしれぬな。とはいえ、今から1000年も昔のことじゃ。たとえ姿かたちが人間のままだったものがいても1000年間で血は薄れていく、今の私たちには関係がないと言うことだ」

長々と喋ったがとにかく無事でよかった、これからは何も起こらないし安心して生活してくれという旨を伝えたいだけじゃ。神主は最後にそう言い、僕らは帰路についた。



 神主の話を聞いた次の週の月曜日、紬が僕たちのクラスに編入してきた。紬が教室のドアを開けたとき、視界の端で伊吹と詩織がびくっとしたのが分かった。

「魅神紬です。今まで色々事情があって学校には通ってなかったのですが、今日から通うことになりました。皆さんよろしくお願いします」

大勢の人前で喋ることなんて今までなかったのだろう、緊張しているようだ。

紬は先生に促されるまま前の方の席に座った。

休み時間になると紬の周りに人だかりができていた。


 僕たち三人は放課後になってからやっと紬に話しかけた。

「紬ちゃん!急に編入してくるんだからびっくりしたよ!」

「えへへ、お父さんに学校に行きたいって言ったら一段落ついたからいいぞって」

「良かったねぇほんとに」

「3人にもかなり迷惑かけちゃったね、ごめんね」

「大丈夫大丈夫、紬ちゃんは何も悪いことなんてしていないし今までは仕方がなかったんだよ」

僕と佐介は詩織の後ろでうんうんと相槌を打つほかなかった。それより紬が僕たちに心を開いてくれているようで安心した。

「これからは4人で遊べるね」

僕はそう言い、今日はどうする?と続けた。

「あ、わりぃ今日は用事があって早く帰らなきゃいけねぇんだ」

佐介は髪をかきながら言った。

「ごめん、私も…」

と詩織も申し訳なさそうにはにかんだ。

「あ、そっか残念だけど今日はやめとくか」


 校門まで行き、家の方向が同じもの同士で帰ることになった。佐介と詩織は学校があるこっち側、僕と紬は渓谷を超えた側に家がある。

「それじゃ、また明日」

4人それぞれが手を振り、2方向に分かれた。


 吊り橋を渡り、僕の家を通り過ぎ紬を神社まで送ることにした。

「ありがとね、家まで送ってもらって」

「どういたしまして。そんなことより、なんか困ったことがあったら僕でも佐介でも詩織でもいいからすぐに言ってね。皆、絶対協力するから」

そう紬に告げ、また明日と軽く手を振って紬に背を向けた。


 次の日、佐介と詩織は学校に来なかった。

放課後、紬と二人で担任の谷口先生に呼び出された。

「夏目君、魅神さんに学校の中を案内してあげて欲しいんだけど…いいかな?昨日の放課後、当麻君と月岡さんと4人で話しているとこ見かけてさ、他の子たちと比べて普通に喋っているように見えたから…」

「もちろん、いいですよ」

谷口先生が言い切る前に返事をした。

「ありがとう助かる~、中学生が使う場所を優先で教えてあげて、小学生の方は時間があったらでいいから」

谷口先生はそう言いながら各教室の鍵が大量についているリングを渡してきた。

それを受け取り、分かりましたと答え2人で教室を出た。

「よろしくね」

紬が僕を見上げながら言った。

「うん、よろしく。最初は理科実験室に行こうか」


 それから1分ほどで理科実験室に到着し鍵を開けた、と思ったが鍵を回しても手ごたえがない。扉をスライドさせるといとも簡単に教室の中に入れた。

「…ガサッ…」

隣の準備室から物音が聞こえる。

「すみませーん、中学2年2組の夏目です。転校生に教室の案内をするために来ました、失礼しまーす」

そう大きめの声で言い、準備室に向かった。

準備室には僕らの理科科目を担当している田中先生が薬品と器具の在庫・破損確認をしていた。

「こんにちはー」

「おおー夏目君、先週は休んでいたけど体調はいいかい?」

「まぁ」

「えっとそっちの女の子は魅神さんとこの娘さんか。いらっしゃい。どう、学校には慣れたかい?とは言ってもまだ3日くらいしか経ってないか」

田中先生はいつもテンションが高くて元気だ。

「あ、えっと、クラスの皆が、優しくしてくれるので慣れてきました。」

紬はごもごもしながら恥ずかしそうに答えた。

「いいねいいね、これから学校生活は楽しくなっていくよ」

田中先生は腕時計を確認した。

「ごめんねもっと喋りたいけど、後10分で職員会議始まっちゃうからもう行くね。実験室も準備室も自由に見ていいからね。鍵は開けといて―」

先生はそう言いながら職員室に戻っていった。

「明るい先生だね」

「うんそうだね、田中先生、授業も楽しくて面白いよ」

「へーそうなんだ。楽しみだなぁ」


 それからほとんどの教室を回り、最後に図書室に向かった。

図書室は手前と奥で軽く区切られており、手前の空間には長机と長椅子が置いてある。奥の空間にはそれぞれ仕切りがついており独立した勉強机が10個ほど置いてある。

「ここは小学生とも一緒に使うから絵本とか図鑑とかも多くの種類が置いてあるんだ。中学生向けの本は奥の方にあるよ」

「あ、ほんとだ。たくさんあるね。ここの本とかって借りられるの?」

「うん。中学生は3冊を2週間まで借りられるよ」

「明日にでもまた来ようかな」

「本、好きなの?」

「うーん好きな方かな。家では遊び相手いなかったし、絵描いたり走ったりするよりは好きかな」

一瞬、紬の事情を忘れていた。佐介と詩織の顔が頭によぎる。

「伊吹君?どうしたの?大丈夫?」

「ああ、ごめんごめん大丈夫だよ」

「…やっぱり佐介君と詩織ちゃんのことが心配?まだあの日から1週間ちょっとしか経ってないもんね」

あの日の紬の姿を思い出す。…たぶん神主も佐介も詩織もあの日の紬の様相を細かくは伝えていないのだろう。苦しいほどの威圧感がフラッシュバックしてきて、よろめいた。

「え!大丈夫⁉」

紬が僕の体を支え、目の前の椅子に座らせてくれた。

「ありがとう、たぶん貧血とかかな」

「貧血とかよくあるの?」

「うーんたまに?」

僕は軽く笑って答えて見せた。ふと時計の針を見ると17時を指していた。

「紬、今から赤部山のダムに行かない?」

「え、いいけど体調大丈夫なの?」

「余裕だよ、心配してくれてありがとう」

「伊吹君が良いなら行こうかな」

無理はしないでね、と紬は付け加えてくれた。


 鍵と鞄を持って職員室に向かうとまだ職員会議をしているみたいだった。職員室前の廊下に置いてある2年2組のボックスの中に鍵を静かに入れ下駄箱に向かうことにした。


 校門を出て自電車に乗り、吊り橋まで来た。

「ここの吊り橋ね、佐介が苦手みたいでさ。いつも詩織が佐介をからかってたんだよ」

「あーまぁ確かにちょっと怖いかもね。っていうか佐介君あんな感じなのに高いとこ苦手なんだ。ちょっとおもしろいね」

「そうなんだよ。でも学校の屋上は気に入ってるみたいなんだよな」

「へーそうなんだ。でも吊り橋のほうが怖いのは分かるかも」

紬にあの2人の話をするたび懐かしくなり悲しくなってくる。


 吊り橋を渡り切り、図書館、夏目家を通り過ぎ診療所を超えて赤部山の麓に到着した。

時計はないが17時20分すぎくらいだろうか。今の季節は18時に日の入りだから暗くなる前には紬を家に帰そうと思った。

「紬もダムには来たことあるよね?」

「うん、小学生の頃に…3回くらいかな」

そんな他愛もない話をしているとダムが見えてきた。ダムにかかっている石橋の中央まで歩き、村を見渡した。真っ赤な夕日が村を照らしている。

「僕、ここからの景色が一番好きなんだ」

「私も今好きになったかも。本当にきれいだね」

ふと、下が気になり石橋から体ごと乗り出し下を覗いた。…、この前、神主の話を聞いていて疑問に思ったことがひとつあった。でも神主が言った通り、もう解決したことであってこれからの僕たちの人生には全く関係することはないのだろうと思い、聞くのをやめていた。が、やっぱり気になり紬に聞いてみようと決心した。

「紬、幽世の存在のことでひとつ聞いてもいいかな」

「え、いいよ。でも私もそこまで詳しくはないけど」

紬は少し戸惑いながらも答えた。

「この前、神主さんの話を聞いてから気になっていたんだけど、半神鬼の魂は魅神家のご先祖様の中に隠したって話だったけど、半神鬼の体はどうなったんだ?まさかあの大きさのものを全部食べた訳でもないと思うし、どうにか処分したのかな」

「えーそれは知らないなぁ、でも言われてみればどうなったんだろうね。どこかに埋めたりしたのかな」

「そっか、知らないか。ふと気になっただけだからこの話は気にしないで」

どこかに埋めた…か。ふと視線を落とすとダムの水面に影のようなものが2つ映ったように見えた。なんだあれ?と思ったが数秒後には見えなくなっていた。

「明日は佐介君も詩織ちゃんも学校に来るといいな」

紬が切実にそう言い、本心から会いたいのだというのが伝わってきた。

「ああ、明日は会えるといいね。そうしたら4人で遊べるし」

嘘だ、僕は知っている。昨日の放課後、二人に会ったのが最後なんだと。おそらく明日からは学校にも来ないし、これから会うこともないということを。

「伊吹君、もうそろそろ帰ろっか」

紬の顔が濃い夕日に照らされ、儚くも愛おしく感じた。


 新月の夜、沼で紬が怪我をしていたことに気付いたのは詩織だけじゃない。僕も気がついていた、おそらく佐介も感づいていただろう。紬からとても濃く新鮮な血の匂いが香ってきていた。…もう僕は、僕たちは普通に戻れないんだろうか、あの満点の世界は取り戻せないんだろうか。


 日が落ち、辺りが暗くなっていてよかった、紬に気づかれないようにそっと涎をぬぐう。

紬の背中を追いかけた。



 「えー今から職員会議を始めます。諸先生方に初めにお伝えしないといけないことは本校の中学2年2組、当麻佐介君と月岡詩織さんが今朝から行方不明であるということです。担任の谷口先生に確認を取ったところ朝のホームルームにもいなかったとのことです。このことから、登校中に何かあったと考えられます。混乱を招く恐れがあるため生徒には伝えないようにお願いします。また、2人を見つけた場合、状況を見て病院に連絡、そのあとに学校に連絡をするようにお願いします。続いて来月に控えてあります期末試験ですが…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満点の世界で失くしたもの @hyorigan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ