第86話 ルイスとフィオナ
おばあ様のセリフに食べていたものが口から出そうになる。ルイスも同じだったようで、咳き込みながら、同じように咳き込む私の背中をトントン叩いてくれた。優しい。
「おばあ様、いきなりそんなこと言わなくても」
「じゃあいつならいいんだい? 婚約して何年経ってると思ってるんだい? 途中仲違いしてる様子だったから見守っていたけどね、仲直りしたならさっさと結婚しな」
「け、結婚……」
そう……そうよね。私とルイス、いつ結婚しても支障はないし、なんなら今すぐでもいいのよね。
結婚? ルイスと?
私は正装したルイスと、彼の隣に並んだ私を想像した。うん、良い……。
私が楽しく想像している横で、ルイスが「おばあ様」と声を出した。
「フィオナとは彼女が納得してからゆっくりことを進めると言ったではないですか」
「ゆっくり過ぎるんだよ。このババアの寿命が尽きちまうよ」
「そういう人に限って怪物並みに長生きするから大丈夫ですよ」
「実の祖母を化け物扱いするんじゃないよ」
親子喧嘩ならぬ祖母孫喧嘩を始めた二人に、仲がいいなあと見つめていたら、ルイスが立ち上がった。
「フィオナ、外の空気を吸いに行こうか」
「あ、うん」
「庭デートも粋なもんだね」
「おばあ様!」
ルイスに咎められて、おばあ様はルイスをからかうのをやめた。
ルイスは私の手を引いて、一緒に庭に出る。
前に来たときと変わらず、ハントン家の庭は美しかった。
「フィオナ、その、おばあ様がごめん」
「え?」
「フィオナの気持ちを無視するようなことを……」
あ、と先程の「さっさと結婚しろ」発言を思い出す。
「いや、別に……」
気にしてないどころか、結婚式の様子を想像してしまった。
「あの……」
「フィオナに俺への気持ちがないことはわかってるんだ」
……うん?
聞き捨てならないセリフが聞こえた、モジモジしていた私はその気恥しい気持ちも忘れてルイスを見た。
「フィオナが……本当は俺と婚約破棄したい気持ちも知っている。だけど、俺はフィオナと結婚したくて……ずるいことだとわかってるんだ」
あ……。
そうだ。私はこの場所で、ルイスに婚約破棄をお願いしたんだ。
そのことが、ずっと彼を苦しめていたんだと、今気付いた。
あのときの私は、この世界がゲームの世界だと知って、ルイスのことも信じられなかった。今なんと言っても、ヒロインのアリスに出会ったらきっと変わってしまうと……そう思っていた。
だけど、ルイスはアリスに出会っても変わらなかったし、どんなときでも私を第一に考えてくれた。
「ルイス」
そんな彼に、私もきちんと気持ちを伝えないと。
「好きです」
「え……?」
ルイスが信じられないという顔で私を見た。私はまっすぐルイスを見てもう一度言った。
「ルイスが好き」
サァ、と風が吹いて、お互いの髪が揺れた。
髪を押さえようとすると、それより先にルイスがそっと私の髪に手を伸ばした。
「フィオナ」
私の顔に触れるのかと思うぐらい顔を近づけて。
「もう一度言って」
私はルイスにもう一度言った。
「好き」
ルイスが私を抱きしめた。
痛いぐらいの腕の力に、私も彼の背中に手を伸ばして、そっとトントンと背中を叩いた。
「フィオナ」
「うん?」
「結婚しようか」
私は笑みを浮かべて言った。
「うん」
ルイスが私を抱きしめる腕の力を抜いた。そしてそのまま私を持ち上げる。
「わっ」
「フィオナは軽くて妖精みたいだな」
ルイスが楽しそうに笑う。
「また冗談ばかり」
「本当だよ」
ルイスが私を持ち上げたまま言う。
「本当にいつか消えてしまいそうだ」
「ルイス……」
ルイスが私の額にキスをする。
「……私は人間だから消えないけど」
私はキスされた額を押さえた。
「過保護過ぎると逃げちゃうかも」
私の言葉にルイスはポカンとしたあと、ブハッと吹き出した。
「それは困るな」
「でしょ? だからほどほどにして」
「でもフィオナが心配だし」
ルイスが私の顔に、その美しい顔を近付けた。
唇に触れる熱さに目眩がする。
「少しの過保護は許してくれないか?」
私はわざと頬を膨らませた。
「少し?」
「……ちょっと」
「本当に?」
私の問いに、ルイスは観念する。
「だいぶ過保護でも逃げないでくれるか?」
私はプッと笑ってルイスに抱きついた。
「仕方ないから一生一緒にいてあげる」
笑いながら、今度は私からルイスにキスをした。
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お読みいただきありがとうございました!
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病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?) 沢野いずみ @izuiu
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