第6話 最期の花
咲久夜が御子を産み落としたとの知らせが届いた。岩長比売は父神とともに迩々芸能命の使者からの言葉を聞いた。
咲久夜は産屋に籠もり、いよいよ出産というとき殿に火を放った。紅蓮の炎の中無事に子が生まれたならば、それは天つ御子である迩々芸能命の子である証。子が焼け死ねば国つ神の子であるということ。己の潔白を証明するため咲久夜は壮絶な戦いに挑んだ。
燃えさかる炎の中、三人の御子が生まれた。
産屋が炎に照らされ辺り一面が火照っているその最中生まれたのは「
火の勢いがますます増してきた時に生まれたのが「
燃えさかった炎が少しずつ遠く消えていく中生まれたのは「
三人の御子は迩々芸能命の、天つ神の御子として認められた。
大山津見神は震える声で使者に尋ねた。
「咲久夜は……木花之咲久夜比売はどうなったのか……」
使者は畏まり深く顔を伏せるばかりで答えない。
「答えよ!」
大山津見神の怒声に使者の身体が震えた。
「父神よ」
岩長の静かな声が響いた。
「妹、咲久夜は木花の咲くが如き比売。
岩長の言葉に大山津見はがっくりと膝をついた。
咲久夜。花を咲かせたのですね。そして命を繋いだ。強く激しい心を持って輝き、咲き誇った。吾が妹よ、愛しく美しき妹よ。
ふと見れば雨が降っていた。岩長は目を閉じると、その静かな音に耳を澄ませる。閉じられた瞳からは雨のように静かな涙が、一筋だけ流れて落ちた。
雨の間(かむがたり) 大和成生 @yamatonaruo
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