発熱 短歌連作10首

滝口アルファ

発熱(10首)

現し世にひとり静かに目覚めたりぞぞぞんぞぞぞん寒気を感ず


不可思議の生物に食わるるごとく体温計は脇に挟まるる


しんしんと挟んで待てば永遠のかけら流れて体温を知る


39・2度を受け止めよ 眼前の数字が神のごと迫り来る


高熱はゴミ出しよりも風呂掃除よりも失恋よりも面倒


季節感はなくてもいいがあるほうがいいのであろう 鶏頭紅し


霊柩車の助手席の人その母のうつくしい霊なのかもしれず


俺はたしかに風邪を引いたがその遥かビッグバン以前から疲れ果てていた


この夏の蝉の死骸を集めたら何個ぶんだろう東京ドーム


ああ尻に筋肉注射を打ち込まれ2時間ほどで平熱になった


1首目の「現し世」は「うつしよ」と読み、

「この世」という意味です。

また、「ぞぞぞんぞぞぞん」はオノマトペです。

7首目の「助手席の人」は宇多田ヒカルさん。

その母である藤圭子さんの葬儀の中の

ワンシーンを切り取った短歌です。

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