最終話 恋と気付かぬ二人の苦い青春

 黒江が静かに話す。

「閉鎖された宇宙でもよかった。いじめられても、それを助けてくれる人が現れるから……」

「それは……お前を利用しただけで……」

「そうかもしれない。でも……ずっと友達が居なかった私でもわかるよ……。あの時……この場所で色んな話をしてくれたあの時……あの瞬間は、利用とかそんなこと、考えてなかった……絶対に。あの瞬間は、鈴木君と、私でしかなかった」

 後一歩が素直になり切れず、怖くて、一郎は突き放すような言葉を吐いた。

「……だったらなんなんだよ」

「ありがとう」

「えっ」

 驚いて黒江の方を見る。

 すると彼女ははっきりと口元に、笑みを携えていた。

 そのまま続ける。

「それからずっと、対等な関係で居てくれて……」

「……僕はお前をコントロールしようとしてたんだぞ?」

「でも私は、そうはされなかった。意思に背いた。その決断ができたのは、対等だったから。フェアであり続けた。本当は私にはいつでも、言い返したり、戦う選択肢があった。……私が臆病で、なかなか伝えられなかっただけ」

「……何が言いたいんだよ」

「……友達になって下さい」

「は?またかよ」

 もう、本当に、素直になっていいのかもしれないと、一郎は思った。

 駄目押しに、黒江が声を震わせながら言う。

「鈴木君と、ちゃんと友達に……なりたいッ!」

 その本心は完全に、一郎の心を氷解させた。

 復讐と奪還に冷たくなっていた心臓に、温かな拍動を取り戻させた。

「なんだよ、それ……」

 なんなんだよ、僕は……。

 何が神を見てみたいだ。

 宇宙の速度を上げるだ。

 魂だプラナリアだの、友達一人作るのに、どれだけ時間をかけているんだ……。

 こんなにして貰って……。

 馬鹿かよ僕は!

 顔を上げ、手も差し出す。

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

「……うん」

 握った手はお互いにすっかり冷えきっていたが、そんなことも一切気にならない。

 星の瞬く音に、流れ星の落ちる音が聞こえてきそうな程に孤独な宇宙の静けさが、優しく二人を包んでいた。


 ――翌日黒江は、三組の教祖であることを辞めると宣言する。

 大きな混乱と、怒りが渦巻いた。

 誰しもが許さなかった。

 でも、どうでもいい。

 黒江にも、一郎にも友達が居たのだから。

 そして皮肉なことに、黒江が去った後も三組の信者は増え続けていた。

 黒江の影を追う者らによってだ。

 これはつまり黒江や一郎がどうでもいいからと、関与しないことだけではもはや解決しないことも意味する。

 いずれ必ず、関わり合いになることは明白だった。

 ――既に黒江は、時代に必要とされてしまう存在にまでなってしまっていたのだ。

 一郎と黒江によるカルトや裏社会との本当の関係は、ここから始まるのかもしれない。 了

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いじめられっ娘を教祖に仕立て上げてみた 兼定 吉行 @kanesada-yoshiyuki

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